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48、女神の怒り
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「許せんだと? 聞き間違いだと思うが、修道士ごときがこのわしにそう言ったのではあるまいな?」
私達の前に立っているのは、背が高く五十代ぐらいのでっぷりと太った男。
指には高そうな指輪をいくつも嵌めている。
傲慢そのものといった顔が、私達を見下ろしていた。
その後ろには、法衣を来た男達が10名ほど立っている。
太ったその男の声を聞いて、エルナが私の後ろに隠れた。
向こうに見える扉には鎖がかけられている。
その扉には薬庫と書かれていた。
(この人なんだわ、エルナが言う怖い人って。エルナに薬を渡さないって、どうしてそんな酷いことを!)
私はその男を睨んだ。
男はそれに気が付いたのか、私を上から見下ろしている。
アレンさんがそれを見て、私を守るように前に立ち塞がった。
「ほう、誰かと思えばフュリーマ殿か。だが騎士と言えども、教皇猊下から大司教代行を任されたこのダバスに意見など片腹痛い」
アレンさんがその男に言った。
「ダバス司教、何故貴方がここに? 都の西にある都市ロセアン地区にある教会が貴方の管轄のはず。それに大司教代行ですと? 一体どういう事なのだ!」
ダバスと呼ばれた司教は、アレンさんに答える。
「まだ聞いておらんのか? 問題が起きてな。ミレアン大司教様がこともあろうに、フェリアンネ教国に送るべき信徒たちの寄付金に手をつけていたことが分かった。恐れ多くも教皇猊下の特使殿が今調べておるのだ。それまでは、都の教会もこのわしが管理することとなる」
その言葉を聞いて、アレンさんが目を見開く。
「そんな馬鹿な! 大司教様は、そのようなことをなさるお方ではありません!」
ダバス司教は、アレンさんの言葉をふんと鼻で笑う。
そして後ろに並ぶ法衣の男達の中で、一際美しい顔立ちの男性に声をかける。
「セリアン殿、どうでしたかな。このダバスの申したことに誤りがありましたかな? 信徒が神に捧げた金に勝手に手を付けるなど、司教として最も恥ずべき行為ですからな」
ダバス司教に名指しされたセリアンという人が、教皇猊下の特使なのだろう。
整った顔立ちに、少し苦悩の色を浮かべてダバスに答える。
「ダバス司教! それは言い過ぎでは……。私の調べでは、使われた寄付金の多くは戦争の被害にあった人々の痛みを癒す薬や食料の購入にあてられている。私はミレアン大司教の苦しい胸の内も分かります……」
それを聞いてダバスは嘲るように笑った。
「理由などどうでもいいですな、特使殿。本国に送るはずの寄付金に手を付けるのは重罪、例えそれが大司教であっても見逃す訳にはいきますまい?」
「そ、それは!」
特使は苦し気に返事に窮している。
「……どいて下さい。私は薬が欲しいだけです」
私は静かに言った。
ダバス司教が私を睨みつけている。
「貴様! 今わしは特使殿と話をしておるのだ! 修道女ごときが口を挟むな!!」
司教の声に、エルナの手が私の手を握りしめた。
光を失った大きな瞳から、ポロポロと涙が零れている。
「どきなさい!!」
私はそう叫んだ。
セリアンという特使の目が、大きく見開かれていた。
ダバスが私を怒鳴りつける。
「なんだと、貴様! 大司教代行であるこのわしに、よくもそのような口を!! 女神ファリアンネの怒りが下るぞ!!」
私はしゃくりあげるエルナを抱きしめた。
そしてダバスを見上げる。
「女神の怒り? この子のお母さんはいつも言っています。『愛しなさい、女神様がするように周りの皆を愛しなさい』と。この子のお母さんを救うことが、どうして女神の怒りに触れるんですか!」
ダバスは私の言葉に激怒した。
「黙れ、この小娘が! 価値などないのだ!! 貧しく碌に寄付も出来ん連中など、教団にとっては何の価値もない。そんな連中が幾ら死のうが、教皇猊下は気になどされぬわ!!」
ダバスの言葉にセリアンは頷いた。
勝ち誇ったようにダバスが笑う。
「見ろ、特使殿も良く分かっておられるわ」
「……調査は終わりです、今すぐ薬庫を開けなさい。全ての怪我人達に早く薬を与えるのです!」
セリアンの言葉に法衣姿の男達は頷くと、聖堂の一角にある倉庫への扉の鎖を外していく。
それを見てダバスは怒りを露わにした。
「特使殿! このような真似をしてただで済むとお思いか? 本国へ送るべき寄付金の流用はどんな理由があろうと重罪、その金で買った薬の使用を許すなどと教皇猊下が知ったら特使殿も罰せられますぞ!!」
「構いません、好きに報告をしなさい」
セリアンさんはそう言うと、私を見つめて微笑んだ。
「名をお聞かせ願えますか? 勇ましい修道女殿。このセリアン、貴方が一瞬女神ファリアンネ様に見えました」
柔らかく風に流れているエメラルドグリーンの髪、そして高い知性を秘めた瞳。
法衣がとても良く似合っている。
私は特使様に名前を名乗った。
「シャルロッテと申します。特使様」
私達の前に立っているのは、背が高く五十代ぐらいのでっぷりと太った男。
指には高そうな指輪をいくつも嵌めている。
傲慢そのものといった顔が、私達を見下ろしていた。
その後ろには、法衣を来た男達が10名ほど立っている。
太ったその男の声を聞いて、エルナが私の後ろに隠れた。
向こうに見える扉には鎖がかけられている。
その扉には薬庫と書かれていた。
(この人なんだわ、エルナが言う怖い人って。エルナに薬を渡さないって、どうしてそんな酷いことを!)
私はその男を睨んだ。
男はそれに気が付いたのか、私を上から見下ろしている。
アレンさんがそれを見て、私を守るように前に立ち塞がった。
「ほう、誰かと思えばフュリーマ殿か。だが騎士と言えども、教皇猊下から大司教代行を任されたこのダバスに意見など片腹痛い」
アレンさんがその男に言った。
「ダバス司教、何故貴方がここに? 都の西にある都市ロセアン地区にある教会が貴方の管轄のはず。それに大司教代行ですと? 一体どういう事なのだ!」
ダバスと呼ばれた司教は、アレンさんに答える。
「まだ聞いておらんのか? 問題が起きてな。ミレアン大司教様がこともあろうに、フェリアンネ教国に送るべき信徒たちの寄付金に手をつけていたことが分かった。恐れ多くも教皇猊下の特使殿が今調べておるのだ。それまでは、都の教会もこのわしが管理することとなる」
その言葉を聞いて、アレンさんが目を見開く。
「そんな馬鹿な! 大司教様は、そのようなことをなさるお方ではありません!」
ダバス司教は、アレンさんの言葉をふんと鼻で笑う。
そして後ろに並ぶ法衣の男達の中で、一際美しい顔立ちの男性に声をかける。
「セリアン殿、どうでしたかな。このダバスの申したことに誤りがありましたかな? 信徒が神に捧げた金に勝手に手を付けるなど、司教として最も恥ずべき行為ですからな」
ダバス司教に名指しされたセリアンという人が、教皇猊下の特使なのだろう。
整った顔立ちに、少し苦悩の色を浮かべてダバスに答える。
「ダバス司教! それは言い過ぎでは……。私の調べでは、使われた寄付金の多くは戦争の被害にあった人々の痛みを癒す薬や食料の購入にあてられている。私はミレアン大司教の苦しい胸の内も分かります……」
それを聞いてダバスは嘲るように笑った。
「理由などどうでもいいですな、特使殿。本国に送るはずの寄付金に手を付けるのは重罪、例えそれが大司教であっても見逃す訳にはいきますまい?」
「そ、それは!」
特使は苦し気に返事に窮している。
「……どいて下さい。私は薬が欲しいだけです」
私は静かに言った。
ダバス司教が私を睨みつけている。
「貴様! 今わしは特使殿と話をしておるのだ! 修道女ごときが口を挟むな!!」
司教の声に、エルナの手が私の手を握りしめた。
光を失った大きな瞳から、ポロポロと涙が零れている。
「どきなさい!!」
私はそう叫んだ。
セリアンという特使の目が、大きく見開かれていた。
ダバスが私を怒鳴りつける。
「なんだと、貴様! 大司教代行であるこのわしに、よくもそのような口を!! 女神ファリアンネの怒りが下るぞ!!」
私はしゃくりあげるエルナを抱きしめた。
そしてダバスを見上げる。
「女神の怒り? この子のお母さんはいつも言っています。『愛しなさい、女神様がするように周りの皆を愛しなさい』と。この子のお母さんを救うことが、どうして女神の怒りに触れるんですか!」
ダバスは私の言葉に激怒した。
「黙れ、この小娘が! 価値などないのだ!! 貧しく碌に寄付も出来ん連中など、教団にとっては何の価値もない。そんな連中が幾ら死のうが、教皇猊下は気になどされぬわ!!」
ダバスの言葉にセリアンは頷いた。
勝ち誇ったようにダバスが笑う。
「見ろ、特使殿も良く分かっておられるわ」
「……調査は終わりです、今すぐ薬庫を開けなさい。全ての怪我人達に早く薬を与えるのです!」
セリアンの言葉に法衣姿の男達は頷くと、聖堂の一角にある倉庫への扉の鎖を外していく。
それを見てダバスは怒りを露わにした。
「特使殿! このような真似をしてただで済むとお思いか? 本国へ送るべき寄付金の流用はどんな理由があろうと重罪、その金で買った薬の使用を許すなどと教皇猊下が知ったら特使殿も罰せられますぞ!!」
「構いません、好きに報告をしなさい」
セリアンさんはそう言うと、私を見つめて微笑んだ。
「名をお聞かせ願えますか? 勇ましい修道女殿。このセリアン、貴方が一瞬女神ファリアンネ様に見えました」
柔らかく風に流れているエメラルドグリーンの髪、そして高い知性を秘めた瞳。
法衣がとても良く似合っている。
私は特使様に名前を名乗った。
「シャルロッテと申します。特使様」
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