元獣医の令嬢は婚約破棄されましたが、もふもふたちに大人気です!

園宮りおん

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112、フェニックスの神殿

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 フェニックスの神殿があるボルフェレス火山。
 この三か月の間、私はそこにいた。
 私はアレクや仲間たちに話をしながら、その時のことを思い出していた。


 アレクと一緒にルファリシオに矢を放った後、私の体は白い炎になって風に散っていったわ。
 私の意識はそこで途切れた。
 でも、気が付くと私は白い大きな部屋の中に寝かされていた。
 神官のような恰好をした女性が私が目を覚ましたのを見ると、慌ててこちらに駆け寄ってくる。

「目が覚めたのですねリディア様!」

「リディア? ……え、ええ」

 私は首を傾げた。
 どうして、私をリディアって呼ぶのかしら。
 もしここがエディファンなら、そうは呼ばないはず。
 ルナって呼ぶはずだわ。
 だとしたら、ここは?
 私は彼女に尋ねた。

「あ、あの、貴方は? ここはどこなの?」

 その問いに彼女は微笑むと答える。

「私はファニックス様の神殿に仕える神官の一人、ローナです」

「フェニックスの!?」

 そういえば、彼女の背中には驚くようなものがついている。
 私は思わずそれを見つめてしまう。
 ローナは笑いながらそれを軽く羽ばたかせる。

「ふふ、有翼人をご覧になるのは初めてですか?」

「え、ええ。ごめんなさい物珍し気に見たりして」

 私がそう答えると、美しい声が辺りに響いた。

「そんな筈はあるまい。リディア、お前は昔ここにいたのだから」

「誰?」

 私はその声の方を振り返る。
 そこに立っていたのは美しい貴公子。

 燃え上がる白い炎の様な髪と端整な顔立ち。
 すらりとした長身に長い手足。
 その背中には白い翼が生えている。
 初めて見るはずなのに見覚えがある。

「……フェニックス?」

「ああ、そうだ。ようやく目覚めたのだなリディア」

 段々私の中のリディアの記憶が鮮明になっていく。
 神獣フェニックス、有翼人の王。
 白く輝く美しい髪と、エルフのように長い耳。
 端整な顔立ちと、背中に生えた白い翼が彼らの特徴。

 とても長寿で、古の不死鳥の血を引く存在だと言われている。
 その血を濃く受けつぐ彼らの王は、生命を象徴する白い炎の鳥に姿を変えることが出来る。

 それが神獣フェニックス。

 不死鳥の血がなせる業だという。
 私も昔、ここに来るまでそんなことは知らなかった。
 有翼人の存在さえも。
 彼らは伝承には記されているけれど、実際にいるのかどうかも分かってはいない存在だから。
 でも、こうして私の目の前に立っている。

 フェニックスはベッドに上半身を起こしている私の傍に歩てくると、無遠慮に私の頬に手を当てる。
 そして、顔を近づけると私の瞳をのぞき込んだ。

「ちょ! な、何するの……」

 思わず声を上げてしまう。
 だって、互いの鼻梁が触れ合うような距離だもの。

「動くな。風に舞う炎のように散っていくお前の魂を集めるのには、我も苦労した。こうして毎日、お前の様子を確認する必要があるからな」

「ま、毎日って……」

 嘘……私がぐぅぐぅ眠っていた時も、こうやって確認されてたってこと?
 人並外れた端整な顔立ちの持ち主にそういわれると何だか少し落ち込む。
 見てて楽しいものでもないでしょうに。

「た、助けてくれたのね、ありがとう」

 それはそうと、まずはお礼は言わないと。
 ローナがくすくすと笑う。

「リディア様の魂に欠けた部分がないのは、もう分かっているではありませんか。毎日こうして顔を見に来られるのはフェニックス様がお好きでやっているのでしょう? お眠りになっているリディア様に口づけでもするのではと心配で、傍を離れられませんでしたわ」

「く、口づけって!」

 ローナの言葉に私は思わず真っ赤になってフェニックスを睨む。
 素知らぬ顔をするフェニックス。
 私はハッと気が付いて彼に尋ねた。

「それよりアレクたちは! あれからどうなったの!?」

「またあの男の心配か。安心しろ、あれからもう一か月だ。お前のお蔭であの海戦は終わった。獣人の王国も今は平和だと聞く」

「そうなのね!」

 私は思わず枕を抱きしめた。
 嬉しくてしょうがない。
 アレクたちも、私の仲間たちも無事なんだわ。

(アレク……シルヴァン、それにみんな。良かった)

 ボロボロと涙が溢れだしてしまって止まらない。

「まったくお前ときたら。そのせいでお前は死ぬところだったのだぞ?」

「それは、そうだけど……」

 邪神の器と化したルファリシオ。
 アレクと一緒に弓を引いたことは後悔していない。
 フェニックスは私を見つめながら言う。

「まだ、かつてここを訪れたリディアの記憶を完全に取り戻したわけではないのだな。お前が何故あの腕輪を使えるのか、あの時背中に広がった翼の意味も分かってはいまい」

「腕輪の力? 私の背中の翼って……ルファリシオを倒した時のことを言っているの?」

 右手の腕輪が強く光り輝いて、私の背中に燃え上がるような白い翼が広がったのを覚えている。
 あれがどうかしたのかしら?
 私は思わず右手の腕輪を見る。
 神獣フェニックスの腕輪、私の体は一度消え去ってしまったはずなのに不思議なことにそれは今もそこにある。

「その腕輪は本来、有翼人しか使うことはできない。それもごく限られた者にしか」

「どういうことなの?」

 フェニックスは私を見つめると答える。

「お前は元々、我らと同じ有翼人だということだ。それも特別な存在のな」

 私が有翼人、それに特別なってどいうこと? 意味が分からない。
 彼の思わぬ言葉に私は茫然としてしまう。

「そんなはずないわ。私は人間だし、それにリディアだったころも銀狐族だったはずよ?」

 私がそう尋ねたその時、部屋の中に男性の神官が数人入ってくる。
 そして、フェニックスに耳打ちした。

「分かった、今行こう」

「はい、よろしくお願いします陛下」

 そう呼ばれる姿を見ると、彼が有翼人の王だってことを改めて感じる。
 フェニックスはこちらを振り返ると私に言った。

「詳しい話は我が帰ってきてからだ。いいなリディア」

「え、ええ。でも、早く私、みんなの所に帰らないと。きっとみんな心配しているわ」

(みんなに……それにアレクに会いたい!)

 彼やみんなのことを思うと心が締め付けられるように苦しくなる。
 きっと私が死んだと思って、悲しんでいるに違いないもの。
 フェニックスはその美しい顔で私を見つめている。
 そして、私に答えた。

「リディア、お前を帰すつもりはない。初めからお前のいるべき場所はここなのだからな」
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