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128、トシュティアへの使節
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私はアレクたちに事情を話した。
二人が私に会いに山を越えてここまでやってきたことを。
「ねえ、アレク。私はこのまま、この子たちのことを放っておけないわ」
アレクは私の話を聞いて暫くカイとミアを見つめると、腰をかがめて二人を見つめる。
精悍な獣人の王子の眼差しに思わず身を固くするミアたち。
『あ、あの、俺たち頑張ってここまで来たんだ!』
『ママを助けて欲しいの!』
二人は勇気を振り絞ったようにアレクを見つめている。
その頭をアレクはそっと撫でた。
「そうか、母親の為にたった二人であの山を。偉かったな」
二人が私に会いに必死にここまでやってきた理由は私から伝えてある。
言葉は通じなくても、優しく頭に触れるアレクを見上げて二人は嬉しそうに尻尾を左右に振った。
「アレク……」
その姿に私は思わず嬉しくなった。
ルークさんはそんなアレクを眺めながら微笑んでいる。
「殿下も、随分と動物たちに慣れてきましたね。これもルナさんの影響でしょうか?」
確かに。
最初にアレクに出会った時は、私や仲間たちと大喧嘩だったもの。
まあ、あの時は私のことを密猟者だと思ってたから仕方ないのだけれど。
私がピピュオが二人を守ったことをアレクに伝えると、アレクはピピュオの首を撫でながら褒めた。
「よくやったな! ピピュオ」
『うん! パパ。えへへ、褒められちゃった!』
『ふふ。良かったわね、ピピュオ』
ピピュオも嬉しそう。
大きく胸を張った姿が誇らしげだ。
アレクはルークさんに言う。
「西の山脈を越えた先といえばトシュティアだな、ルーク」
「ええ、殿下。トシュティアなら例の一件もあります、丁度いいかもしれませんね」
その言葉に私は首を傾げた。
「ルークさん、例の一件って?」
私の疑問にルークさんはこちらを見つめると話し始める。
「そういえば、まだルナ様にはお話をしていませんでしたね。以前から病を患っていたトシュティア王が先日亡くなられて、王太子であられたイシュナル殿下が新たに国王になられたと今朝がた知らせがありまして」
「まあ、トシュティア王が!? それはお気の毒に……」
その言葉にアレクも頷く。
「山を越えた地で、深い交流こそないがトシュティアとは隣国でもある。国王崩御のお悔やみと新国王戴冠の祝いの為に我が国からも使節を送るべきだと先程父上と話をしていた。その最中に……」
「ええ、ルナ様の城門前での冒険譚が飛び込んできたというわけです」
ルークさんのその言葉に私は思わず顔を赤くする。
残念ながら、私のお転婆ぶりは両陛下にもしっかり伝わったみたいだ。
アレクはふぅとため息をついて笑みを浮かべる。
「トシュティアとの親交を深めるためにも、俺が使節団の代表を務めるつもりだった。ルナ、お前も連れてな。だが、そういうことならば準備を急がせ明日にでも、使いの者と共にトシュティアへと発つとしよう」
「ほんとに? アレク、ありがとう!」
思いがけない申し出に心が弾む。
アレクは頷くと少し考えこんだ。
「それに、その魔女というのも気になる。トシュティア王ならば何か知っているかもしれないからな」
「ええ、そうね」
邪神の使徒だったルファリシオのことを思い出すと、背筋がぞっとする。
石化の魔法を使う魔女の正体が誰なのかは分からないけど、もしルファリシオと同じようなことを企む者がいるとしたら放ってはおけない。
それに母親の為に必死に山を越えてきたこの子たちのことを考えたら、出来る限りのことはしてあげたい。
私はカイたちに言う。
『カイ、ミア、二人がやってきた国へ行けることになったわ。二人の為に出来る限りのことはするつもりよ、約束するわ!』
『ほんとに!?』
『ありがとう、女神様!』
私の言葉に安心したのか、二人のお腹がくうと鳴る。
『お腹が減ってるのね。いいわ、厨房に行きましょう。何か作ってあげる』
その言葉にカイたちよりも早く反応した人がいる。
「ちょっと待て、ルナ。俺のカレーの方が先約だぞ」
「……フェニックス、貴方もう帰ったら?」
まったく、さっきからカレーカレーって。
フェニックスはツンとしたような顔でソッポを向くと私に答えた。
「そうはいかん。俺もついていってやる。石化の魔法とやらをお前ひとりで解けるとは限るまい。そ、それにお前のことが心配だからな」
少し頬を染めながらそう言うフェニックス。
ミーナはそれを見てくすくすと笑っている。
そして、私の耳元で囁いた。
「結構可愛いところもあるんですね、フェニックス様。これってツンデレってやつですよね」
「ツンデレって、ミーナ」
いつも私と一緒にいるミーナは、少し私の前世の文化に毒されている。
ミーナは本好きだから侍女たちに人気の小説とかを読みながら、結構二人でわいわい言い合ったりしてるのよね。
アレクには見せられない姿だ。
確かにフェニックスが一緒に来てくれるなら頼もしい。
別の意味で心配はありそうだけどね。
私はため息をつくとみんなに言った。
「いいわ。どうせもうお昼でしょう? みんなで昼食を取りましょう」
シルヴァンの背中の上でジンがくるっと宙返りする。
『へへ、そうこなくっちゃ!』
ルーやスーもカイたちの傍で丸くなってこちらを眺めている。
『私もお腹減っちゃった』
『うん、スー私も』
『リンも!』
リンも同意見のようだ。
ご飯を食べながらカイたちからもっと詳しい話も聞きたい。
まだこの子たちは小さいけれど、あの赤い尻尾はフレイムドッグと呼ばれる魔獣に特有なものだ。
私は図鑑でしか見たことがないけれど、大きくなるとその身に炎の力を宿すと言う。
成長すると聖獣と呼ばれる存在になるものもいる。
「さあ、行きましょう」
私の言葉にみんな頷くと部屋を出る。
と、そこには思わぬ人物が立っていた。
月光のように美しい銀髪。
そして、とても端正な顔立ちをした貴公子。
「ユリウス様!」
アレクのお兄様であるユリウス殿下が、侍女を連れて立っている。
「アレク、ルナさん、少しお時間はいいですか? 実は二人に話したいことがあるのです」
美しい貴公子のその言葉に、私とアレクは思わず顔を見合わせた。
二人が私に会いに山を越えてここまでやってきたことを。
「ねえ、アレク。私はこのまま、この子たちのことを放っておけないわ」
アレクは私の話を聞いて暫くカイとミアを見つめると、腰をかがめて二人を見つめる。
精悍な獣人の王子の眼差しに思わず身を固くするミアたち。
『あ、あの、俺たち頑張ってここまで来たんだ!』
『ママを助けて欲しいの!』
二人は勇気を振り絞ったようにアレクを見つめている。
その頭をアレクはそっと撫でた。
「そうか、母親の為にたった二人であの山を。偉かったな」
二人が私に会いに必死にここまでやってきた理由は私から伝えてある。
言葉は通じなくても、優しく頭に触れるアレクを見上げて二人は嬉しそうに尻尾を左右に振った。
「アレク……」
その姿に私は思わず嬉しくなった。
ルークさんはそんなアレクを眺めながら微笑んでいる。
「殿下も、随分と動物たちに慣れてきましたね。これもルナさんの影響でしょうか?」
確かに。
最初にアレクに出会った時は、私や仲間たちと大喧嘩だったもの。
まあ、あの時は私のことを密猟者だと思ってたから仕方ないのだけれど。
私がピピュオが二人を守ったことをアレクに伝えると、アレクはピピュオの首を撫でながら褒めた。
「よくやったな! ピピュオ」
『うん! パパ。えへへ、褒められちゃった!』
『ふふ。良かったわね、ピピュオ』
ピピュオも嬉しそう。
大きく胸を張った姿が誇らしげだ。
アレクはルークさんに言う。
「西の山脈を越えた先といえばトシュティアだな、ルーク」
「ええ、殿下。トシュティアなら例の一件もあります、丁度いいかもしれませんね」
その言葉に私は首を傾げた。
「ルークさん、例の一件って?」
私の疑問にルークさんはこちらを見つめると話し始める。
「そういえば、まだルナ様にはお話をしていませんでしたね。以前から病を患っていたトシュティア王が先日亡くなられて、王太子であられたイシュナル殿下が新たに国王になられたと今朝がた知らせがありまして」
「まあ、トシュティア王が!? それはお気の毒に……」
その言葉にアレクも頷く。
「山を越えた地で、深い交流こそないがトシュティアとは隣国でもある。国王崩御のお悔やみと新国王戴冠の祝いの為に我が国からも使節を送るべきだと先程父上と話をしていた。その最中に……」
「ええ、ルナ様の城門前での冒険譚が飛び込んできたというわけです」
ルークさんのその言葉に私は思わず顔を赤くする。
残念ながら、私のお転婆ぶりは両陛下にもしっかり伝わったみたいだ。
アレクはふぅとため息をついて笑みを浮かべる。
「トシュティアとの親交を深めるためにも、俺が使節団の代表を務めるつもりだった。ルナ、お前も連れてな。だが、そういうことならば準備を急がせ明日にでも、使いの者と共にトシュティアへと発つとしよう」
「ほんとに? アレク、ありがとう!」
思いがけない申し出に心が弾む。
アレクは頷くと少し考えこんだ。
「それに、その魔女というのも気になる。トシュティア王ならば何か知っているかもしれないからな」
「ええ、そうね」
邪神の使徒だったルファリシオのことを思い出すと、背筋がぞっとする。
石化の魔法を使う魔女の正体が誰なのかは分からないけど、もしルファリシオと同じようなことを企む者がいるとしたら放ってはおけない。
それに母親の為に必死に山を越えてきたこの子たちのことを考えたら、出来る限りのことはしてあげたい。
私はカイたちに言う。
『カイ、ミア、二人がやってきた国へ行けることになったわ。二人の為に出来る限りのことはするつもりよ、約束するわ!』
『ほんとに!?』
『ありがとう、女神様!』
私の言葉に安心したのか、二人のお腹がくうと鳴る。
『お腹が減ってるのね。いいわ、厨房に行きましょう。何か作ってあげる』
その言葉にカイたちよりも早く反応した人がいる。
「ちょっと待て、ルナ。俺のカレーの方が先約だぞ」
「……フェニックス、貴方もう帰ったら?」
まったく、さっきからカレーカレーって。
フェニックスはツンとしたような顔でソッポを向くと私に答えた。
「そうはいかん。俺もついていってやる。石化の魔法とやらをお前ひとりで解けるとは限るまい。そ、それにお前のことが心配だからな」
少し頬を染めながらそう言うフェニックス。
ミーナはそれを見てくすくすと笑っている。
そして、私の耳元で囁いた。
「結構可愛いところもあるんですね、フェニックス様。これってツンデレってやつですよね」
「ツンデレって、ミーナ」
いつも私と一緒にいるミーナは、少し私の前世の文化に毒されている。
ミーナは本好きだから侍女たちに人気の小説とかを読みながら、結構二人でわいわい言い合ったりしてるのよね。
アレクには見せられない姿だ。
確かにフェニックスが一緒に来てくれるなら頼もしい。
別の意味で心配はありそうだけどね。
私はため息をつくとみんなに言った。
「いいわ。どうせもうお昼でしょう? みんなで昼食を取りましょう」
シルヴァンの背中の上でジンがくるっと宙返りする。
『へへ、そうこなくっちゃ!』
ルーやスーもカイたちの傍で丸くなってこちらを眺めている。
『私もお腹減っちゃった』
『うん、スー私も』
『リンも!』
リンも同意見のようだ。
ご飯を食べながらカイたちからもっと詳しい話も聞きたい。
まだこの子たちは小さいけれど、あの赤い尻尾はフレイムドッグと呼ばれる魔獣に特有なものだ。
私は図鑑でしか見たことがないけれど、大きくなるとその身に炎の力を宿すと言う。
成長すると聖獣と呼ばれる存在になるものもいる。
「さあ、行きましょう」
私の言葉にみんな頷くと部屋を出る。
と、そこには思わぬ人物が立っていた。
月光のように美しい銀髪。
そして、とても端正な顔立ちをした貴公子。
「ユリウス様!」
アレクのお兄様であるユリウス殿下が、侍女を連れて立っている。
「アレク、ルナさん、少しお時間はいいですか? 実は二人に話したいことがあるのです」
美しい貴公子のその言葉に、私とアレクは思わず顔を見合わせた。
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