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129、もふもふとブロンドの小さな天使
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ユリウス殿下の後ろには、一人の女騎士の姿が見える。
美しいブロンドのショートヘアが凛々しい女性だ。
彼女が身に着けている繊細な細工が施された銀色の鎧を見たところ、身分も高いことが分かる。
もしかすると貴族の家柄だろうか。
ただ、肩当に刻まれた紋章を見ると、エディファンの騎士ではないことが分かる。
あの紋章は確か……。
私はユリウス様に尋ねた。
「ユリウス様、その方は? もしかするとその紋章はトシュティアの」
私の言葉にユリウス様は頷くとお答えになった。
「ええ、ルナさん。彼女はエリゼ殿。トシュティアの伯爵令嬢で、聖騎士の称号を持つお方です」
ユリウス様に紹介されると、エリゼと呼ばれた女性はユリウス様と私たちに深々と一礼する。
そして、私を見つめた。
「貴方がエディファンの女神、王太子妃殿下のルナ様でいらっしゃいますね。先程アレクファート殿下にはご挨拶を致しましたが、私はエリゼ・ラファリーシェ。トシュティア聖騎士団の団長を務めております。どうかお見知りおきを」
「め、女神だなんて。こちらこそよろしくお願いします」
男装の麗人のような華麗なその立ち居振る舞いに、思わず気おされてしまう。
王太子妃になったのはいいけど、中身は庶民のころの感覚がいつまでも抜けないんだよね。
ミーナや、私の部屋の前にいた数名の侍女たちが彼女に見とれているのは、その中性的な美貌にだろう。
それにしても、まだ若い女性なのに聖騎士団の団長をしてるなんてビックリ。
アレクはさっきトシュティアから使いが来たと言っていたけれど、彼女のことだろう。
年齢は20代前半に見える。
「あら?」
ふと気が付くと、彼女の後ろに隠れるようにして可愛らしい子供がひょこんと顔を出す。
プラチナブロンドで年齢はまだ5歳ぐらいだろうか、男装の麗人のようなエリゼとは対照的にこちらはまるで女の子のような美少年だ。
私やアレクが見つめると、またエリゼの後ろに隠れてしまうのだが少し顔を出して、その大きな瞳で私の周りにいる仲間たちを見つめている。
「もふもふ……」
そう言ってエリゼを見上げる。
その姿があんまり愛らしかったので私は尋ねる。
「ふふ、貴方、動物が好きなの?」
その言葉に少年はコクンと頷く。
リンが私の肩の上で小首を傾げた。
『ルナ。あの子、ずっとこっちを見てるよ?』
『ええ、リン。リンたちとお友達になりたいみたい』
私がエリゼの傍に歩み寄って、後ろに隠れてる少年の前に手を差し出す。
その上にはリンが乗っている。
『私リンだよ、お友達になろう!』
その姿を見て少年は目を輝かせる。
小さな手でリンの頭をそっと撫でた。
そして、嬉しそうにエリゼに報告する。
「エリゼ! もふもふ、可愛いです」
女の子みたいな白い頬が、少し興奮したように赤らんでいるのが愛らしい。
エリゼは微笑みながら少年の前に膝をつく。
「良かったですねクリス殿下。殿下がお笑いになるのを久しぶりに見ました」
え? 今、殿下って言ったよね。
ルークさんが笑いをこらえたように私に言う。
「トシュティアの第三王子であられるクリス殿下です。このたびエディファンに新国王戴冠の知らせをくださったトシュティアからの使節の代表をされておられます」
アレクがふぅと溜め息をついて私を見つめる。
「まったくお前ときたら。確か、俺と出会った時もそうだったぞ」
「え? ……あはは」
そういえばそうだっけ。
リンたちと友達になった森で、アレクに出会った時も王子だってことに最初は気付いてなかったし。
エリゼが私に説明をしてくれた。
「母君が違われますので、新王となられたイシュナル殿下とは歳も二十歳以上離れてはおられますが。使節団を代表して王太子妃殿下にもぜひご挨拶をしたく思い参りました」
その言葉にユリウス様が頷かれる。
「父上との会談の後にエリゼ殿に頼まれたんです。アレクも途中で中座してしまったことですし」
はは……それも、もしかして私のせいかしら。
一方で私の仲間たちはいつものように自由気まま。
リンが友達になったのを皮切りに、ルーやスー達も興味津々といった様子でクリス殿下の傍にかけていく。
『私も友達になる!』
『スーもだよ』
足元に駆け寄った羊うさぎの姉妹の体を撫でるクリス殿下。
そのはにかんだ笑顔は天使のようだ。
体の大きなシルヴァンやピピュオには最初は驚いていたが、私が促すとそのもふもふとした体に身を埋めてニッコリと笑う。
私はエリゼに尋ねる。
「もし、殿下やエリゼさんがよければ一緒に昼食をどうですか? 私もエリゼさんに尋ねたいことがあるんです」
トシュティアに入国する前に、カイたちのお母さんを助けるための手がかりが何か分かるかもしれない。
「ええ、喜んで。母君が亡くなられてから、殿下がこんなに嬉しそうになさるのは初めて見ましたから」
「まあ……」
クリス殿下のお母様は亡くなっているのね。
まだこんなに小さいのに可哀そうに。
一方で、フェニックスは彼女たちには興味なさげに私に言う。
「ルナ、俺のカレー……」
「ふふ、フェニックス黙っててくれる?」
この腹ペコ神獣はまったく。
今度天空の神殿に遊びに行ったら、彼の傍に仕えている侍女のローナにカレーのレシピを渡しておこう。
気が付くと、動物たちに囲まれてクリス殿下が私の傍にくると、ドレスの裾をきゅっと握っている。
エリゼはそれを見ていった。
「殿下……殿下の母君も動物たちに愛されている優しいお方でした。もしかすると、王太子妃殿下にどこか母君の面影を感じておられるのかもしれません」
「私に?」
そんなことを言われると、なんだか放っておけなくなる。
私はクリス殿下に尋ねた。
「殿下。一緒にご飯を食べますか? 仲間たちも一緒よ」
私が手差し出すと、ドレスの裾を握っていた小さな手でそれを握る。
そして、こくりと頷く小さな王子。
私はその手を引いて、東宮の厨房へと向かう。
まずは、長旅でお腹を空かせたカイやミアの為のご飯だ。
侍女たちに事情を話すと、すぐに必要なものを用意してくれた。
新鮮な大耳ヤギのミルク、そして旅の疲れを癒してくれる幾つかの薬草を細かく刻んでそこに混ぜていく。
それを白いお皿に入れて、私はカイとミアの前に差し出した。
大耳ヤギというのは、まるで象のように大きな耳を持つこの世界特有のヤギの一種だ。
そのミルクやミルクから作るチーズはとても美味しくて、エディファンの名物の一つでもある。
『はい、二人とも慌てないように飲んでね。大耳ヤギのミルクは消化もいいし、とっても美味しいわよ』
長旅で疲れた子犬たちにはぴったりのはずだ。
カイとミアは嬉しそうに私を見上げる。
『いい匂いがする!』
『ほんとだ、お兄ちゃん!』
そう言って、お皿によそったミルクを身を寄せ合って舐める二人の姿はとても可愛い。
よっぽどお腹がすいていたのだろう、夢中になってミルクを飲んでいる。
そんな二人の頭をクリス殿下がそっと撫でている。
「美味しいですか?」
そう呟く殿下をエリゼは少し悲し気に見つめた。
「母君が亡くなれた日から殿下はあまりお話にならないようになられて。まるで自分の殻の中に閉じこもってしまわれたかのように」
「そうなんですか?」
「ええ、ですから先ほどルナ様のドレスの裾を握られたときは少し驚きました。動物たちに囲まれているルナ様を見て母君を思い出したのでしょう。殿下の母君もいつも動物たちに囲まれていましたから」
そう言った後、彼女は少し思いつめた顔をして私を見つめた。
「実は私も、アレクファート様と王太子妃殿下にご相談したいことがあるのです」
その言葉にアレクと私が顔を見合わせた時、慌ただしくエディファンの騎士たちが厨房に入ってくるのが見えた。
先頭にいるのは、この東宮の護衛の総責任者である赤獅子騎士団の一番隊長リカルドさんだ。
アレクがリカルドさんに尋ねる。
「どうした、リカルド? そんなに慌てて」
「はい、アレクファート様! 実は少々問題が起きていまして」
「問題だと?」
アレクの問いにリカルドさんは頷く。
「はい、先ほどトシュティアの正式な使者と名乗る者たちがやって参りまして。陛下にお目通りを願い出ています」
「正式な使者? トシュティアからの使者ならば、ここにクリス殿下とエリゼ殿がいるではないか?」
アレクの言う通りだ。
一体どういうことだろう?
ユリウス様やルークさんも顔を見合わせている。
リカルドさんはアレクに言う。
「ですが殿下、新しく参った使者たちはトシュティアの新国王イシュナル陛下の印の入った書簡を持っております。このまま国王陛下への目通りを許して良いものか私では判断できぬゆえに、まずはアレクファート様にご相談しなければと」
「新国王の印の入った書簡だと?」
そうこうしているうちに、入り口で押し問答するような声が聞こえたと思うと侍女たちの静止も聞かずに数名の男たちが入ってくる。
その身なりを見る限りどうやら騎士のようだ。
それを見てリカルドさんが声を荒げた。
「ガイゼス殿! 無礼ではないか、外でお待ちいただくようお伝えしたはずだ」
ガイゼスと呼ばれた男の鎧の肩当には、エリゼと同じ紋章が刻まれている。
「無礼はどちらですかな? 正式なイシュナル陛下の書状を持ち尋ねてきた我らを、一介の騎士ごときが足止めするなどと」
傲慢そうなその顔を見て、クリス殿下が私の手をぎゅっと握り締めた。
エリゼは男を睨みつけて唇を噛む。
「ガイゼス……貴様」
「これはこれは、エリゼ騎士団長。ふふ、ふはは、そうではなかったな。イシュナル陛下はそなたの任を解かれた。クリス殿下をかどわかし国を出奔した謀反人としてな」
「黙れ! 私は聖騎士として恥じるような真似はしていない」
エリゼの言葉を聞いてガイゼスは嘲笑うかのように言った。
「申し開きは陛下の前ですることだな。まずはこの謀反人を捕え、クリス殿下をお守りするのだ」
「はっ! ガイゼス様」
「こい、この謀反人が!」
エリゼに迫る騎士たち。
青ざめるクリス殿下の目からは、ぼろぼろと涙がこぼれている。
私は思わず叫んだ。
「やめなさい! 何がお守りするよ! とてもそうは思えないわ、貴方たちにこの子を渡すわけにはいきません」
「なんだと!?」
怒りに満ちた目でこちらを見るガイゼス。
アレクとルークさんは私を守るように前に立つと、頷いた。
「ああ、ルナ。そのようだな」
「ええ、殿下」
ガイゼスは血走った眼でこちらを睨んでいる。
「アレクファート殿下。このようなことをなされて只で済むとお思いか? これは我がトシュティアの問題なのですからな」
アレクは真紅の髪を靡かせながら堂々とした態度でそれに答えた。
「黙れ。例えどのような事情があろうとも、お前のような男に泣いている子供を渡すつもりはない」
=============
☆お知らせ
皆さんの応援のお蔭で、この作品がコミカライズされることになりました。
漫画を描いて下さるのは上原誠様、連載の開始は8月21日になります。
上原様が描いて下さるもふもふたちはとっても可愛らしいので、よろしければ一度ご覧になって頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします!
美しいブロンドのショートヘアが凛々しい女性だ。
彼女が身に着けている繊細な細工が施された銀色の鎧を見たところ、身分も高いことが分かる。
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あの紋章は確か……。
私はユリウス様に尋ねた。
「ユリウス様、その方は? もしかするとその紋章はトシュティアの」
私の言葉にユリウス様は頷くとお答えになった。
「ええ、ルナさん。彼女はエリゼ殿。トシュティアの伯爵令嬢で、聖騎士の称号を持つお方です」
ユリウス様に紹介されると、エリゼと呼ばれた女性はユリウス様と私たちに深々と一礼する。
そして、私を見つめた。
「貴方がエディファンの女神、王太子妃殿下のルナ様でいらっしゃいますね。先程アレクファート殿下にはご挨拶を致しましたが、私はエリゼ・ラファリーシェ。トシュティア聖騎士団の団長を務めております。どうかお見知りおきを」
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王太子妃になったのはいいけど、中身は庶民のころの感覚がいつまでも抜けないんだよね。
ミーナや、私の部屋の前にいた数名の侍女たちが彼女に見とれているのは、その中性的な美貌にだろう。
それにしても、まだ若い女性なのに聖騎士団の団長をしてるなんてビックリ。
アレクはさっきトシュティアから使いが来たと言っていたけれど、彼女のことだろう。
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「あら?」
ふと気が付くと、彼女の後ろに隠れるようにして可愛らしい子供がひょこんと顔を出す。
プラチナブロンドで年齢はまだ5歳ぐらいだろうか、男装の麗人のようなエリゼとは対照的にこちらはまるで女の子のような美少年だ。
私やアレクが見つめると、またエリゼの後ろに隠れてしまうのだが少し顔を出して、その大きな瞳で私の周りにいる仲間たちを見つめている。
「もふもふ……」
そう言ってエリゼを見上げる。
その姿があんまり愛らしかったので私は尋ねる。
「ふふ、貴方、動物が好きなの?」
その言葉に少年はコクンと頷く。
リンが私の肩の上で小首を傾げた。
『ルナ。あの子、ずっとこっちを見てるよ?』
『ええ、リン。リンたちとお友達になりたいみたい』
私がエリゼの傍に歩み寄って、後ろに隠れてる少年の前に手を差し出す。
その上にはリンが乗っている。
『私リンだよ、お友達になろう!』
その姿を見て少年は目を輝かせる。
小さな手でリンの頭をそっと撫でた。
そして、嬉しそうにエリゼに報告する。
「エリゼ! もふもふ、可愛いです」
女の子みたいな白い頬が、少し興奮したように赤らんでいるのが愛らしい。
エリゼは微笑みながら少年の前に膝をつく。
「良かったですねクリス殿下。殿下がお笑いになるのを久しぶりに見ました」
え? 今、殿下って言ったよね。
ルークさんが笑いをこらえたように私に言う。
「トシュティアの第三王子であられるクリス殿下です。このたびエディファンに新国王戴冠の知らせをくださったトシュティアからの使節の代表をされておられます」
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『私も友達になる!』
『スーもだよ』
足元に駆け寄った羊うさぎの姉妹の体を撫でるクリス殿下。
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私はエリゼに尋ねる。
「もし、殿下やエリゼさんがよければ一緒に昼食をどうですか? 私もエリゼさんに尋ねたいことがあるんです」
トシュティアに入国する前に、カイたちのお母さんを助けるための手がかりが何か分かるかもしれない。
「ええ、喜んで。母君が亡くなられてから、殿下がこんなに嬉しそうになさるのは初めて見ましたから」
「まあ……」
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「ふふ、フェニックス黙っててくれる?」
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気が付くと、動物たちに囲まれてクリス殿下が私の傍にくると、ドレスの裾をきゅっと握っている。
エリゼはそれを見ていった。
「殿下……殿下の母君も動物たちに愛されている優しいお方でした。もしかすると、王太子妃殿下にどこか母君の面影を感じておられるのかもしれません」
「私に?」
そんなことを言われると、なんだか放っておけなくなる。
私はクリス殿下に尋ねた。
「殿下。一緒にご飯を食べますか? 仲間たちも一緒よ」
私が手差し出すと、ドレスの裾を握っていた小さな手でそれを握る。
そして、こくりと頷く小さな王子。
私はその手を引いて、東宮の厨房へと向かう。
まずは、長旅でお腹を空かせたカイやミアの為のご飯だ。
侍女たちに事情を話すと、すぐに必要なものを用意してくれた。
新鮮な大耳ヤギのミルク、そして旅の疲れを癒してくれる幾つかの薬草を細かく刻んでそこに混ぜていく。
それを白いお皿に入れて、私はカイとミアの前に差し出した。
大耳ヤギというのは、まるで象のように大きな耳を持つこの世界特有のヤギの一種だ。
そのミルクやミルクから作るチーズはとても美味しくて、エディファンの名物の一つでもある。
『はい、二人とも慌てないように飲んでね。大耳ヤギのミルクは消化もいいし、とっても美味しいわよ』
長旅で疲れた子犬たちにはぴったりのはずだ。
カイとミアは嬉しそうに私を見上げる。
『いい匂いがする!』
『ほんとだ、お兄ちゃん!』
そう言って、お皿によそったミルクを身を寄せ合って舐める二人の姿はとても可愛い。
よっぽどお腹がすいていたのだろう、夢中になってミルクを飲んでいる。
そんな二人の頭をクリス殿下がそっと撫でている。
「美味しいですか?」
そう呟く殿下をエリゼは少し悲し気に見つめた。
「母君が亡くなれた日から殿下はあまりお話にならないようになられて。まるで自分の殻の中に閉じこもってしまわれたかのように」
「そうなんですか?」
「ええ、ですから先ほどルナ様のドレスの裾を握られたときは少し驚きました。動物たちに囲まれているルナ様を見て母君を思い出したのでしょう。殿下の母君もいつも動物たちに囲まれていましたから」
そう言った後、彼女は少し思いつめた顔をして私を見つめた。
「実は私も、アレクファート様と王太子妃殿下にご相談したいことがあるのです」
その言葉にアレクと私が顔を見合わせた時、慌ただしくエディファンの騎士たちが厨房に入ってくるのが見えた。
先頭にいるのは、この東宮の護衛の総責任者である赤獅子騎士団の一番隊長リカルドさんだ。
アレクがリカルドさんに尋ねる。
「どうした、リカルド? そんなに慌てて」
「はい、アレクファート様! 実は少々問題が起きていまして」
「問題だと?」
アレクの問いにリカルドさんは頷く。
「はい、先ほどトシュティアの正式な使者と名乗る者たちがやって参りまして。陛下にお目通りを願い出ています」
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「新国王の印の入った書簡だと?」
そうこうしているうちに、入り口で押し問答するような声が聞こえたと思うと侍女たちの静止も聞かずに数名の男たちが入ってくる。
その身なりを見る限りどうやら騎士のようだ。
それを見てリカルドさんが声を荒げた。
「ガイゼス殿! 無礼ではないか、外でお待ちいただくようお伝えしたはずだ」
ガイゼスと呼ばれた男の鎧の肩当には、エリゼと同じ紋章が刻まれている。
「無礼はどちらですかな? 正式なイシュナル陛下の書状を持ち尋ねてきた我らを、一介の騎士ごときが足止めするなどと」
傲慢そうなその顔を見て、クリス殿下が私の手をぎゅっと握り締めた。
エリゼは男を睨みつけて唇を噛む。
「ガイゼス……貴様」
「これはこれは、エリゼ騎士団長。ふふ、ふはは、そうではなかったな。イシュナル陛下はそなたの任を解かれた。クリス殿下をかどわかし国を出奔した謀反人としてな」
「黙れ! 私は聖騎士として恥じるような真似はしていない」
エリゼの言葉を聞いてガイゼスは嘲笑うかのように言った。
「申し開きは陛下の前ですることだな。まずはこの謀反人を捕え、クリス殿下をお守りするのだ」
「はっ! ガイゼス様」
「こい、この謀反人が!」
エリゼに迫る騎士たち。
青ざめるクリス殿下の目からは、ぼろぼろと涙がこぼれている。
私は思わず叫んだ。
「やめなさい! 何がお守りするよ! とてもそうは思えないわ、貴方たちにこの子を渡すわけにはいきません」
「なんだと!?」
怒りに満ちた目でこちらを見るガイゼス。
アレクとルークさんは私を守るように前に立つと、頷いた。
「ああ、ルナ。そのようだな」
「ええ、殿下」
ガイゼスは血走った眼でこちらを睨んでいる。
「アレクファート殿下。このようなことをなされて只で済むとお思いか? これは我がトシュティアの問題なのですからな」
アレクは真紅の髪を靡かせながら堂々とした態度でそれに答えた。
「黙れ。例えどのような事情があろうとも、お前のような男に泣いている子供を渡すつもりはない」
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