君に噛み跡を遺したい。

卵丸

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小さな一歩

幼稚園

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退院した要だったが今日は会社を休んでリビングが騒がしかったので部屋に行くと母親と
結衣がテレビを見ていた。

「結衣達は何、見てるの?」

要はテレビに視線を向けるとそこには可愛らしい小さい栗色の髪をした男の子が桃太郎の格好をして舞台上に立ってあどけない声でセリフを叫んでいた。

『いぬくんにきびだんごをあげよう!』

「・・・・・・これって・・・。」

「ふふ、幼稚園の劇を見てるのよ。」

「これって小さいママ?」

「そうよ~。」

ビデオカメラをテレビに繋いで見ているらしく画質は粗かったが結衣は要だと気づいてきゃあきゃあ騒いで見ていた。

『おにたち、かくごしろー!!』

「ママ、カッコイイ!!」

「そうね~ママカッコイイねぇ~」

二人には悪いが普通に恥ずかしくてリモコンを持って電源をさり気なく消そうするとタイミングが悪く隆志が現れてしまった。

「わぁ、桃太郎のかなちゃんだ~懐かしいね!」

「でしょう、もう要もリモコン置いて一緒に見ましょう?」

母にリモコンを取られて渋々見る羽目になったが結衣が喜んでいたので諦めていた。

『おにたちをたおしたぞー!!』

小さい要とお供がぴょんぴょん跳ねて喜んで劇は終了して、次に運動会が映し出されて要が1番に走っていた。

「ママはやーい!」

要が1番だったが転んでしまい、ゆっくり立ち上がって泣かずに痛みに耐えながらもひたすら走ってギリギリ4位の旗を持って座った。

「泣かないママ偉い!」

「かなちゃんは強い子だからね」

「・・・・・恥ずかしいなぁ・・・」

その後も遠足やお祭りや卒業式等の映像が流れて要は恥ずかしさで顔を赤くしていた。

***

晩御飯にカレー食べていると結衣は食べながら時々固まっていて要は気になり彼女に話しかけた。

「どうしての、どこか痛い?」

要は聞くと結衣はゆっくり顔を左右に振って否定をして、とても小さな声で囁いた。

「結衣・・・幼稚園に行きたい」

「えっ!?」

まさかの言葉に要は驚いてガラスコップに入っていた麦茶をテーブルの上に零してしまった。それを隆志が動揺しながら布巾で拭いてくれた。

「結衣、本当に言ってるの?」

「・・・うん、ママが幼稚園に行ってて楽しそうだったから結衣ももう1回行ってみたい!」

結衣の真剣な眼差しに要は微笑み彼女の頭を優しく撫でて言った。

「・・・じゃあ、明日いい幼稚園探してみるね。」

「うん!ママありがとう!」

結衣は笑顔でお礼を言ってカレーを嬉しそうに食べていた。

『結衣から言うなんて・・・次は僕のせいでイジメに遭わなければいいけど』

***
次の日、要は休憩時間にスマホで幼稚園を調べていた。

「ここは少し遠いな・・・でも、ここだと値段が高いし・・・。」

「何、見てんの?」

声に驚いて振り向くと要のスマホ画面を興味津々に飯村が見ていた。彼は少し不思議な顔をした後、思い出したように言った。

「あぁ、娘さんの為か!」

「ちょっと声が大きいです。」

「あぁ、悪い・・・幼稚園に通わせたいのか?」

「まぁ・・・そうですね・・・でも、どこも人数の問題で通えなくて・・・。」

要は困り笑顔で飯村に愚痴を言うと彼は考える素振りを見せた後、思いついたように指をパチンと鳴らして要に聞いた。

「・・・・・それなら俺の所に頼んでみようか?」

「えっどう言う意味ですか?」

「俺と言うか俺の姉ちゃんの旦那さんが幼稚園の先生なんだよね。だから義兄さんに聞いてみるよ。それがこの幼稚園なんだけど」

飯村が調べて見せてくれた幼稚園は値段は悪くなく、バス停に幼稚園バスが行き帰り付きで来てくれて、もし忙しくて時間が遅くなっても夜の8時まで預けてくれるみたいで要は感動してスマホをガン見してしまい飯村の苦笑を聞いて慌てて離れた。

「凄く条件が良いですけど、何か悪いですよ。」

「まだ決まって無いしさ聞くだけだし、それに今更だけどプレゼンに行けなかったお詫びとして受け取ってよ。」

正直何十件も幼稚園を調べてもいい所が無くて困っていたので甘える事にした。

「・・・・では、お願いしても宜しいでしょうか?」

「あぁ、もちろん」

「・・・ありがとうございます。」

「どういたしまして、もし良かったら俺と「Talk」の交換しない?」

「えっ?」

「Talk」とは会話ができる無料アプリで要は交換する理由が分からなかったが彼の表情に飯村が気づいて話してくれた。

「直ぐに情報聞きたいでしょ?それにパパ友にもなるかも知れないしさ・・・箕輪の場合はママ友になるのか?」

「そうですね、このQRコードを読み込んでください。」

「オッケー、これだな、追加したよ、なんか送ってみるよ」

「あっ届きましたよ」

飯村から猫のスタンプが届いたのを確認し、二人は別れて飯村はトイレに向かうと絢斗が手を洗っている最中だった。その時、要から「ありがとうございます。」と書かれた文字にフッと吹き出してしまった。

「箕輪のやつ固すぎんだろ!」

「箕輪がどうした?」

絢斗が聞いてきたので飯村は画面を見せながら説明した。

「いや、箕輪と「Talk」交換したんだけど絵文字も無くて真面目だなぁ~と思ってさ。」

絢斗は険しい表情で飯村の画面に釘付けになっていたので飯村は苦笑いをしながら後ずさったが離してくれなかった。

「・・・・・・・・。」

「氷室・・・無言はやめて・・・・・。」

『俺・・・箕輪と「Talk」交換してないんだが!?』

絢斗は悔しい思いをしながら画面を睨みつけていると他の人が入ってきて怪訝そうな顔で二人を見てきたので絢斗は飯村から一旦離れた。

「・・・飯村、箕輪に言ったら「Talk」交換してくれるかな?」

「・・・・・多分、してくれんじゃない?」

絢斗はわかりやすいように落ち込みながらトイレを出て行き飯村は安心して息を吐いた。

「・・・・まさか、あいつ・・・・。」

***

「「Talk」の交換、別にいいですよ?」

「本当か!!」

「ちょっ近いです!」

要を見つけた絢斗は早速「Talk」のことを話すと許可を貰いグイグイ近づいてしまい彼に注意されてしまった。

「ごめん・・・これ、俺のQRコードだから」

「わかりました、これですね。」

要は飯村と同じように「よろしくお願いします」と固い返事を返すと彼にしては珍しくニマニマした顔をしていたので思わず引いてしまった。

「うわぁ・・・どうしました、気持ち悪い」

「なっ気持ち悪いって失礼な・・・まぁ、何かあったら連絡してくれ!」

絢斗もスマホを操作すると要のスマホがブブっと鳴り「よろしく!」と親指を立てているクマのスタンプが送られてきた。

「・・・氷室さんってスタンプ使うんですね。」

「まぁ、文字を撃つのが面倒な時に使いやすいしな。」

『僕もスタンプ買おうかな?』

スマホを眺めている要を見つめて絢斗は心が弾んでいた。

『箕輪と「Talk」交換できて嬉しいな。』

***

飯村は家に帰ると早速、義兄さんに電話を掛けた。

『もしもし、真中です。・・・あぁ、光輝こうき君、どうしたの?』

「こんばんは裕一郎ゆういちろうさん、仕事帰り悪いんだけど俺の同期の娘ちゃんがさ幼稚園に入園したいみたいで・・・」

そして要の「Talk」に飯村から幼稚園の入園の件が届いたのは次の日の朝だった。
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