君に噛み跡を遺したい。

卵丸

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小さな一歩

娘とご対面

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要は戸惑っているのを相手にバレない為に笑顔を作り自己紹介をした。

「おはようございます。今日からお世話になります、結衣の親の箕輪要です。よろしくお願いします。ほら、結衣も挨拶して」

要は結衣の手を引いて裕一郎の前にも立たせると結衣ははずかしさで体をもじもじさせながら小さい声で挨拶をした。

「・・・・・はじめまして、結衣です。・・・おはようございます。」

挨拶ができた結衣に要は優しく頭を撫でて褒めたが少し手が震えてしまった。

「結衣、挨拶できてえらいね・・・3時20分に桜坂のバス停まで迎えに行けばいいですよね?今日は娘をよろしくお願いします。」

作り笑顔で要は結衣達に背を向けると少し早歩きで幼稚園から出て行った。
それを隆志も動揺を隠さないで要に聞いていた。

「かなちゃん・・・あの先生って・・・」

「・・・多分、裕君だと思う」

その言葉に隆志はひゅっと息を吸った。要はただ俯いて車の助手席に乗り込んだ。
要と隆志から会話が無く車内は息苦しい空気が漂ったが隆志から要に恐る恐る聞いた。

「あの人、結衣ちゃんが自分の子って分からないよね?」

「・・・きっとね」

また、無言になり、そこから喋る事は無く、そのまま自宅に着いて要は自分の部屋のベッドに横になり少し涙を流したが隆志達に聞こえないように下唇を噛んで声を押し殺して啜り泣いた。

「うっ・・ふぅ・・・・」

『・・・まさか、幼稚園で裕君に会うなんて・・・どうしよう・・・怖い』

***

朝の出来事があり、心配になった隆志は要の部屋に入るとベッドの上に膨らんでいる布団が目につき、ゆっくり近づいて布団を揺さぶった。

「かなちゃん?」

「・・・・・・・・。」

布団からスースーと落ち着いた寝息が聞こえて隆志は微笑んでから起こさないように部屋から出て行った。隆志はダイニングに向かい、ホットコーヒーを飲むためにポットに入っている水を温めながら険しい表情をしていた。

***

裕一郎はいつも通り園児達に笑顔で挨拶してから結衣を紹介した。

「みんな、おはようございます。今日は新しいお友達が来ました。自己紹介できるかな?」

結衣は緊張で顔を赤くしながら大きな声で言った。

「箕輪結衣です。よっよろしくお願いします!!」

結衣が言い終わると園長達は笑顔で「よろしく」と元気に叫んでいた。それを裕一郎は寂しそうに結衣を見つめていた。

『もし、要が堕ろさずに出産してるならあの子は・・・・・』

最初は恥ずかしがって喋らなかったが色んな子が結衣に話しかけてきて結衣も慣れてきて笑顔が増えて休み時間では男子園児と混じってセイメイジャーごっこを楽しんでいた。
裕一郎は結衣が楽しんでいるのを見て安心していると子供たちが帰る準備になっていた。裕一郎は慌てて外で遊んでいる園児達を呼んだ。

「みんなー帰る準備をするよー誰が一番早いかなぁ~!」

すると園児達は一番になりたい為に鞄に連絡帳を入れたり黄色い帽子を被ったり、きゃあきゃあ騒いで帰る準備をしていた。何をしたら良いのかわからない結衣は呆然としていたが真希が丁寧に教えてくれていた。

「真希ちゃん、結衣ちゃんに教えてくれてありがとう」

「だって、真希は結衣ちゃんのお友達だから当然です!」

真希はえっへんと胸を逸らして自信ありげに言っていて裕一郎はクスリと微笑んでから園児達を連れてバスに向かわせて皆が乗るのを確認すると一息を吐いた。

「はぁ・・・結衣ちゃんって俺の子かな?」

「君の子だよ。」

男性の声に驚いて声の主を探していると険しい顔をした隆志がゆっくり裕一郎に近づいてきた。

「あっ貴方は・・・」

「園長先生には許可を取ってます。少し、近くのカフェで話せませんか。」

隆志は裕一郎に見えないように拳を力強く握っていた。


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