1 / 6
マリアの場合
しおりを挟む「あらぁ。地味すぎて気がつきませんでしたわ、マリア様」
転ばせた男爵令嬢を見下ろしながら、スカーレットは悪し様に罵る。
耳を塞ぎたくなるような罵詈雑言の嵐に、周囲はドン引きだ。
彼女の名はスカーレット・ガルタニス。宰相を勤める侯爵家の御令嬢である。
見事な金髪碧眼にスラリとした肢体。手足が長くて細い印象があるが、出るとこは出たナイスボディ。
ドン引きしながらも紳士諸君の視線は、たわわな膨らみを持つ彼女の胸元に集まっていた。
スカーレットは軽く腕を組み、男爵令嬢の前に立つ。
「だいたい、貴女のお家は男爵でしょう? 幼馴染みか知らないけど、伯爵家令息であらせられるロビン様に慣れなれし過ぎじゃありません事? やだわ、自分を知らない娘って。ロビン様も呆れておられますわ。御迷惑よ」
口元を軽く指で抑え、あからさまに嘆息しながら、スカーレットの眼は愉悦に弧を描く。
男爵令嬢は今にも泣き出しそうだ。
そこへ一人の令息が飛び込んできた。
「いい加減にしろっ、スカーレット嬢っ!」
やって来たのは件の伯爵令息ロビン。彼は、男爵令嬢マリアがスカーレットに絡まれていると聞き、急ぎ駆けつけたのだ。
「大丈夫か? マリア」
「ロビン...様」
「ロビンで良い、君が恥じる事は何もない」
そういうと、ロビンは辛辣な眼差しでスカーレットを睨め上げる。
「金輪際、マリアに近寄らないでくれっ! マリアは....僕の大切な女性だっ!!」
「ロビン?!」
驚く男爵令嬢にスカーレットは汚物でも見るような蔑みを浮かべ、軽く頭を振る。
「有り得ませんことよ、ロビン様。そんな婢に」
「彼女は男爵令嬢だ、婢などではないっ!」
「男爵なんて下級も良い所じゃないですか。婢同然ですわよ」
「貴女という人は....っ、話にならないっ、失礼するっ!!」
令息はマリアを連れて、足早にそこから立ち去っていった。
それを見送りながら、スカーレットは蠱惑的な笑みを浮かべる。
何かを含むようなその笑みは妖しく扇情的で、周囲の令息達の胸を鷲掴みにしていた。
翌日、スカーレットは学園裏庭のガゼボで読書を嗜む。侍女に用意させたお茶と茶菓子を摘まみつつ、静かにページを捲っていた。
「スカーレット様っ!!」
呼ばれて振り返ると、そこには昨日の御令嬢、マリアが小走りに駆けてくる。
息急ききってやって来たマリアは、極上の笑みを輝かせて、スカーレットを見つめた。
「ありがとうございましたっ、ロビンも、やっと覚悟を決めてくれたみたいですっ、わたくしと....婚約したいとっ」
顔を真っ赤にして、マリアは小さな袋をテーブルにそっと置く。
それを受け取り、スカーレットは満面の笑みで応えた。
「よろしかったこと。お幸せにね」
「はいっ!」
マリアは深々と頭を下げると、足取りも軽くガゼボをあとにする。
それを見送りつつ、喉の奥だけで笑うスカート。
「ほんと。手のかかる殿方が多いのね」
数日前、スカーレットはマリアから相談を受けた。
身分差を気にして幼馴染みが婚約に踏み切ってくれないと。
御互いに想い合っているのは薄々察しているのだが、気の弱い令息は、とても父親である伯爵に楯突くことが出来ない。
そんな彼を思いきらせるために、男爵令嬢がイジメの被害者である事実をデッチ上げたのだ。
もし、令息が本気なら見過ごすことはしないだろう。
身分を吹っ切る切っ掛けになるやもしれない。
愛は強し。
.....幻想かと思っておりましたが、有りますのねぇ。まだまだ貴族の世界も捨てた物ではないのかもしれませんわ。
そして彼女は、テーブルに置かれた小さな袋を持ち上げる。
ちゃりっと小さな音をたてる袋。それにスカーレットはにんまりと口角を上げた。
袋の中身は金貨。
恋愛成就は金貨五枚。婚約破棄は金貨七枚。他にも高位貴族の演出や茶番が必要な依頼に、彼女は値段をつけて協力していた。
知る人ぞ知る、悪役令嬢スカーレット。
お金が大好きな彼女は、今日も誰かの企みに寄り添う。
111
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる