乙女ゲームのヒーローやってます

かべうち右近

文字の大きさ
15 / 23

ゲームの終焉

しおりを挟む
 パキパキと音を立てて、何かが壊れていく。私は何も見えない闇の中に、ゆらゆらと漂っているようだった。

 やっと、この世界がゲームになる前の記憶を思い出した。我ながら愚かなものだと乾いた笑いが漏れてしまう。ただ彼女を救いたかった筈で、彼女が世界にいないのなら意味がないのに、なぜ乙女ゲームの世界になど作り変えてしまったのだろう。

 闇の中には他の人間はおらず、周りに何があるのかさえ判らない。これは彼女を忘れ、事実から目を反らし逃げた私への報いなのだろうか。ここで、一人死んでいくのかもしれない。

 恐らく、先ほどから音を立てて壊れていっているのは、私の魔力で編み上げたゲームのシステムなのだろう。

 今私の身体には、魔力が一切感じられなかった。何十年、何百年分の時を繰り返し逆巻いて、世界を作り変える程の魔法を行使し続けて、ようやく使い切ったらしい。逆に私の魔力が今まで枯渇することなく『ゲームの世界』を保ち続けられたことの方が、奇跡に等しい。

 しかしそれももう終わりだ。

 丁度魔王を倒し、エンディングを迎えた所だから、ゲームが終わってしまっても問題はない。私が死ぬことで、迷惑は掛かるかもしれないが、仕方なかろう。魔王のいない世界ならば、歩むことはできよう。

 ああ。私の魔力がないから、あの子を元の世界に返してやるのが難しいな。あの子は……何故だろう、名前が思い出せない。10周も一緒にいたというのに。

 各国の神官が協力して、彼女を国に返してやれるといいのだが。

 ゲームのキャラクターとして動き出して以降、私には恋愛感情というものはなかったと思う。ただ、試行を繰り返していただけだ。

 だと言うのに、彼女には強く惹かれた。ゲームのシステムに従わない彼女だから、一人の人間として接することができたのかもしれない。今思えば、彼女が最初に召喚された時から、私の作ったゲームの世界は魔力の減少によってほころびはじめていたのだろう。

 あるいは、彼女に惹かれることで崩されたのか。

 いずれにせよ、もう全てが終わりだ。彼女に会う事も。

 闇の世界に、小さく光が灯る。ポツポツと現れた光はやがて広がり、辺りを包み込む。暖かい光だ。地獄へ向かうと思っていたが、どうやら天国に向かうらしい。ありがたいことだ。

 視界一杯に光が満ち、私は。

「ミカ……起きて、ミカ…」

 うっすらと開けた視界に映ったのは、私の手を握って伏す黒髪の女性の姿だった。やがて光が彼女の身体に収まっていき、私はベッドの上で寝かされていたのだと知れる。

 黒髪の彼女が、祈りで私を死の淵から引っ張りあげてくれたらしい。

「カ、ナエ……?」

「ミカ!?」

 口から、彼女の名前が知らずのうちに漏れる。ぱっとあげた顔と目が合って、私は、息を飲んだ。

 ここは『ゲーム』になる前の世界なのだろうか。いや、そんな筈はない。でも、目の前にいるのは、確かに、一番最初に召喚された彼女だ。

「良かった……! 急に倒れるから……ミカが……」

 いや、違う。

 ……今、目の前にいるのは、一番最後に召喚されたカナエだ。そして、一番最初に召喚された彼女と同じ、カナエだ。

 どうして忘れていたんだろう。記憶を取り戻してさえ、何故彼女と同一だと気づかなかったんだろう。

「……すまなかった」

 彼女の手を握り返すと、カナエは泣きながら笑った。

「へへ。起きたから、もういいですよ」

 よく見れば、彼女はまだ婚礼衣装をまとったままだった。

 私はカナエとの10周目のエンディングの後に倒れ、そんなに時間が経っていない、ということらしい。

「けど、11周目なかなか始まりませんね。いつもなら、もうとっくに始まってるのに」

 泣いていた目をこすってから、カナエは首を傾げた。

 そうだ、今目の前にいるカナエは『ゲーム』としてこの世界を周回していたのだ。だからゲームが続かないことを不思議に思っても、仕方ない。

「ゲームは、もう始まらない」

「え?」

「この世界をゲームにしていた魔法はもうなくなったんだ」

 そう告げれば、カナエはぽかんとした顔をして、一拍置いてから叫んだ。

「えっええええ? ゲームだったんじゃないんですか!? ここ現実なんですか? ゲームじゃなくて!? ゲームだから生き残れてたんだと思って……えっ? どういうこと? 本当だったの?」

 取り乱して叫ぶのに、つい笑ってしまう。

 私が引き起こしてしまった事態なのに、彼女の反応が可愛くて笑いが止まらない。

「何で笑ってるんですか、私は真剣なのに!」

「ああ、すまないな。お前が可愛くて」

「へっ」

 瞬間にカナエの顔が沸騰する。

「えっ? でも、だって、ミカが私を好きだっていうのは、ゲームの役割で」

「もうゲームじゃない」

「でも」

「カナエ、愛している。私の愛を受け取ってくれるだろうか?」

 大昔に使った、プロポーズの言葉だ。カナエは息を飲んで、破顔した。

「……また乙女ゲームごっこですか?」

「いいや? 私は本気だ」

「へへ、嬉しいな……」

 カナエが言いながら、私に抱き着いた。

 そうして私は、同じ女性に二度も恋に落ち、とんでもない遠回りをして、彼女とやっと結ばれたのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜
恋愛
旧タイトル:五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです! フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

処理中です...