想告 ー オモツゲ ー

keyokun

文字の大きさ
1 / 10

【第一話】再会

しおりを挟む
 2023年12月25日、今夜はクリスマスの日。
 時刻は午後6時を過ぎ、イルミネーションに照らされた雪が優しく降り注ぐ。
 街頭に照らされた薄暗い道を、僕は歩いている。
 
 彼の名前は、木ノ内蒼井(キノウチアオイ)。
現在、実家から引っ越し、アパートに住むようになってから1週間が経とうとしている。
 仕事にまだ慣れてないせいか、両足に蓄積された疲労が重くのしかかる。
 コンビニで夜食を買い、2階へ上がる外階段を登りきると、街頭に照らされた2人のカップルがふと目に入る。

蒼井「はぁ……」

 蒼井は羨望の眼差しで、それを見つめていた。
 その後、玄関へ入り、ぶっきらぼうに靴を脱ぎ捨てると、蒼井はハッとした様子で、靴を元に戻そうと前屈みになる。すると、持っているコンビニ袋から物が散乱する。

蒼井「あっ、もう……」

 リビングへ向かい、コンビニ袋をそっとテーブルの上に置く。中には、冷凍パスタとレモンティー、そしてグミ等のお菓子が入っている。
 シャワーを浴び、部屋着に着替えた蒼井は、テレビを観ながら解凍したパスタを食べ終えた後、冷蔵庫を開ける。

蒼井「そういや、昨日買ったショートケーキがあるんだ
              った。」

 そして、同じ場所でケーキを食べ終えた後、実家から持ってきたダンボールの中身を整理すべく、立ち上がる蒼井。すると、テーブルに置いてあるスマホが、通知音を鳴らす。蒼井はスマホを手に取り確認する。

咲[昨日は飲みに付き合ってありがと!]

凛[おひさぁ。今、蘭とフードコートに集まってるけ 
      ど、蒼井も来るかー?]

 時計を見ると、時刻は19時半を指していた。

蒼井「まぁ、明日休みだし行くか。」

    着信は、知り合い2人からの誘いと返信だった。
軽いため息を混じえながらそう呟いた後、蒼井は再度出掛ける準備を済ませ、フードコートへ向かう。
 外は、先程よりも人集りが少なくなり、静かに降り注ぐ雪も止んでいた。
 寒さで悴む両手を、蒼井はコートのポケットに深くしまいながら、道なりの商店街を進む。
辺りは、居酒屋の灯りや、イルミネーションで明るく照らされている。また、すれ違う人集りを目だけで追いながら蒼井は、様々な持論を思索する。

 こうしてすれ違う人達にも、様々な人生があって、皆何かの為に生きている。家族や恋人、夢など色々ある。
皆、何かのために……。
 世の中、想いを伝えるのはそんなに簡単なことじゃない。
感謝の気持ちや、ごめんなさいの一言。そして、告白や自分の意見だったりも。

 商店街を抜け、公園の道端を歩く蒼井。すると、あの日一緒に座ったベンチに、飲みかけのミルクティーが置いてあった。
 蒼井はそれを見て、あの日の出来事を思い起こす。

 僕には好きな人がいる。榊原 楓、1つ下の後輩だ。
楓のお陰で、今の僕がいる。お世辞なんかじゃない。
僕がレモンティーを好きになったのも。
 この時期になるといつも思い出す。あの時、ちゃんと伝えていたら、結果はまた違っていたのかもしれない。
 僕は彼女に、プレゼントを渡せていない。何故なら、
榊原 楓は、もうこの世には居ないから。


―2020年5月11日(月曜日)―

 晴れた空の下、桜の花びらが散り終わる頃、僕は電車に揺られながら通信校に向かっていた。
慣れない人混みの中、僕はパーカーに付いているフードを深く被る。周りの視線を遮るように。
 駅に着き、リュックサックを背負った後、僕はゆっくりと道なりを歩く。周りは電車が走り出す音や、人の声、鳥のさえずりなどが耳に入りこんでくる。今日は初めて通信校へ通う日だ。
 僕は、ポケットからイヤホンを取り出し、周りの音をシャットアウトする様に、音楽を聴きながら前に進む。
 そして、駅の改札口を出ようとした時、遠くで子供達を連れた家族がふと目に入る。小さい子供がはしゃぎながら改札口に向かって走ってくる。すると、前のめりになりながら僕の目の前で転んでしまった。大声で泣き出す子供に駆け寄る家族を、避けながら通り過ぎる。
 イヤホンの外側で薄らと親子のやり取りが頭の後ろから聞こえてくる。

親「だから言ったでしょ、走ると危ないって!」

子「ごめんなさい……!」

親「さっきの人にぶつかったらどうするの!」

 僕は、何も無かったかのように進み続けた。
途中、コンビニでミルクティーを購入した後、駅のホームを出ると、車やバス、横断歩道や工事する機械音などが、イヤホン越しに聞こえてくる。
 学校に近づくに連れ、足取りが重くなる。緊張や不安で額に汗が染み出してくる。同時に喉も渇き、リュックサックのチャックを開けた時、ミルクティーが床に転げ落ちてしまった。
 僕は慌てて拾おうと手を伸ばした時、蒼井よりも先に何者かがミルクティーを拾う。

  「これ、落としましたよ!」

僕は、慌てて顔を隠しながらそのミルクティーを受け取る。フードの影から横目で相手を顔を見た時、激しい嫌悪感を抱いた。
 蒼井は、小さく会釈をした後、逃げる様にその場から立ち去り、通信校へ向かう。 
 
 第一話【再会】―終了―
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...