身代りの花嫁と軍服のこじれた初恋

絵麻

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身代わり花嫁と軍服のこじれた初恋

三十一話『軍人の妻達』

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「茶会?」
「そ、私達陸軍の軍人を夫に持つ妻が集まり、お茶と菓子とおしゃべりを楽しむの」
「―――なるほど」
「でね、清華さんも参加しない?旦那様が仕事の間、ほんの一時間ていどよ」
「それなら」

 清華は承諾した。

「で、明日は出かけると」
「はい、午後二時から三時までのお茶会だそうです」
「行ってくるといい、友達も出来るだろうし」
「はい」
 清華が少し、頬を緩めた。

「やりたい事があるなら、やればいい。誰も咎めたりしない」
「はい」
「ただし―――」
「はい?」
 鏡弥が見つめた。
「男は駄目だ」
「わ、分かってます!もう、足りてます」
 茹で上がる。
「そうか、足りてますか」
 楽しげに、鏡弥が笑う。
(あんな破廉恥なこと、鏡弥さんだけで充分――って、何考えてるのよ)

 鏡弥さんは
 友達の意味―――

 百面相をする清華を、鏡弥は微笑ましく見つめた。

「頬に傷のある軍人、もしくは役人か――」
「何か、ありましたの?」
 実彩子が訊ねた。
「いや、襲撃の日のことで、清華ちゃんが思い出したらしい。清輝が相手に傷を負わせたと」
「まあ」
「可哀想に、見ていたんだな。両親が殺される瞬間を」
 
 まだ幼い清華が、血塗れで保護された。ガラス玉のように空虚な瞳をした、五歳の清華を思うと、胸が裂かれる思いだった。

「はじめまして、長谷川清華です」
 初めて参加した茶会、清華は初めて『長谷川』と名乗った。
(長谷川清華って、言っちゃった)
 本当に結婚したのだと女が実感するのは、夫の苗字で名乗る時だ。
 
 心臓が破裂しそうに、動悸が速くなる。
「長谷川さんといえば、若くして少佐になられた―――長谷川紡績の?」
「・・・はい」
 清華は俯く。
「なら、大丈夫よ。長谷川さんは真面目な仕事人間で、色恋の噂が全くなかったの」
「そうよ、浮気や不倫の心配は、まず無くてよ」
「あ、ありがとうございます」
 皆が優しく、清華を迎え入れてくれた。

「でね、軍人さんは大声で言えない会話は隠語で話すの」
「だから、さっぱりわからない時があるわ。例えば料亭はレスだったかしら?」
「あと芸者遊びは――」

 楽しいままに、茶会は終わる。
「皆さん、そろそろ三時ですから。おひらきにしましょうか、次は来月の」

「ね、月一だから気楽だし、悩み相談も受けてくれる方達よ」
「はい、皆さん。とても優しい方ばかり」
「またね、清華さん」
「はい」
 同世代の女の子と話す機会があまりなかった清華にとって、息抜きの場所が出来た。
(また、会いたい)
 心が温かい。
 清華は楽しい気持ちのまま、家路に着いた。

「どうだ、茶会は」
「皆さん、優しい人ばかりでした」
「そうか」
 優しい眼差しで鏡弥が見る。

 色恋の噂が無い
 浮気の心配なし

 疑ったりした事はないが、改めて鏡弥は誠実な人だと感じた。
「なんだ?」
「いえ」
 清華は微笑んだ。

「鏡弥さん、大好きです」
 突然に告げた言葉に、鏡弥はビクッとなる。
「なんだ、急に」
 抱きつく清華に、鏡弥は驚く。
「改め、今日思いました。私、鏡弥さんが好きです」
 背後から抱きしめ、清華は目を閉じた。
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