身代りの花嫁と軍服のこじれた初恋

絵麻

文字の大きさ
48 / 67
身代わり花嫁と軍服のこじれた初恋

四十五話『奈都へ』

しおりを挟む
「旅行」
「ああ、まだ新婚旅行に行ってないからな。明後日から行く」
「いいんじゃね、嫁さんも気分転換になるさ」

 七月十五日、清華と鏡弥は帝都の東にある奈都へ向かった。
 帝国は五つの主要都市があり、中央の帝都、西の旧都・北の北都・東の奈都がある。
 
「奈都って、小説の舞台になってるんですよ」
「へえ、どんな話だ」
 汽車の中で、清華は愛華から借りていた小説の話をする。
「華族のお嬢様が、結婚を目前で婚約者と引き離されるんです」
「へぇ」
「婚約者は主人公と、宿屋で一夜を明かすことになるんですけど。真珠のネックレスをプレゼントして、必ず迎えに行くと言って清い仲を守るんです」
「―――オレには、無理だな」
 鏡弥の言葉に、清華は吹き出す。
「鏡弥さんだって、半年も待ってくれましたよ」
「だが、接吻はしたぞ」
「ふふ、そうでしたね。で、話は戻しますけど、主人公は真珠のネックレスを胸に、成金の子持ち男性に嫁ぐんです。親子ほど年の離れた男性に」
「絵に描いた悲劇だな」
「はい、でもちゃんと結ばれます。夫の死後、恋人と再会して。互いに自由になって、また宿屋に行くんです」

 駅で降りた二人は、宿屋に荷物を預ける。
「お部屋に案内しますか、それとも外出なさいますか」
「外出します」

 身軽になり、観光を楽しむ。
「どこか、目的地はあるのか?」
「えと―――尼寺に」
「尼寺?」

 そこは、小さな宿坊になっていた。
「ここなんです。二人が結ばれたのは」
「え?尼寺でしたのか」
「も、尼寺です。そんな露骨に」
 清華が頬を染めた。

「へぇ、いい感じの部屋だな」
「お遍路さんしか泊まれない筈なんですけど」
「ま、小説だからな。いいんじゃないか?」
 鏡弥が笑う。
「そうですね、野暮ですね」
「しかし、いい所だな。静かで、清水が流れる音を聞きながら、二人きり」
「おじいちゃんとおばあちゃんになったら、私達もお遍路さんしますか」
「そうだな。楽しそうだ」

 白髪になっても、一緒にいたいと清華は思う。

「私、諦めません。ずっと一緒にいたいですから」
「ああ、生きてゆこう」
 しっかりと手を握る。
「どんな気持ちだったんだろ。一生の思い出として、恋人と過ごすのって」
「一生の思い出?」
「末期癌だったんです、主人公。幸せになれるのに、末期癌だとわかるんです」
「―――耐えられないな。もし清華が、そんな病なら。オレは幸せだな。妻が健康でいる」
「はい、私も幸せです」
 鏡弥の背中に抱きつく。
「鏡弥さん、これからも飽きるほどに傍に居て下さい」
 いなくならないでと、清華は告げる。
「ああ」
 清華の手を握る。
「私と、生きて下さい。それだけです、私が願うのは」 



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

処理中です...