身代りの花嫁と軍服のこじれた初恋

絵麻

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身代わり花嫁と軍服のこじれた初恋

四十六話『記念写真』

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 尼寺を出て、案内板を見て、次はどこに行こうかと話す。
「足湯があるな」
「後で行きましょ。えと」
「土産物は最後だな、荷物になるし」
「はい。三日もいますから」
 何をしようか、何を食べようか。そんな計画を話した。

「奥様、いかがですか。旅の記念に、一枚撮りませんか」
「旅の記念に」
 木造の古い写真館の前に、清華は立っていた。
「清華」
「鏡弥さん、だめ、ですか?」

 鏡弥と二人で、清華は椅子に腰掛けて撮影した。

「私、忘れません。今日のこと、再会出来てからの一年を」
「ああ、オレも忘れない」

 さ、笑って

 小さなガラス板に焼き付けられた、一枚の写真には幸せな二人が写る。
 正面を向き、すました顔、二枚目は鏡弥が清華を抱きしめていて―――。清華は幸せに、目を細めた。

「いい笑顔」
 清華が笑う。
「どれ」
 見た瞬間に、鏡弥はそっぽを向いて歩き出す。
「きょ、鏡弥さん?待って」

(鏡弥さんが照れた理由は、二枚目の写真にある。向かい合う写真の鏡弥さんは、優しい眼差しで私を抱きしめていた)

 締まりのない顔だ

 首筋まで赤くなり、鏡弥はスタスタと歩く。清華はクスと笑う。
「嗤うな」
「いいじゃないですか、私の一番すきな笑顔です」
「!」
「優しくて、私を愛してくれる。大好きな旦那様の笑顔ですよ」
 足が止まる。
「オレは嫌だ。ニヤけて、かっこ悪い」
 耳まで紅い。
「鏡弥さんが私といて、幸せに笑うなら私にはカッコいい顔ですよ」
 一番好きな、鏡弥の優しい顔がある。
「そうか、清華がいいなら」
「はい!」
 清華は笑顔になる。
(この笑顔を見るだけで、幸せになれる。清華が朝、笑顔で名前を呼ぶ。それだけで、泣きたくなる幸せを感じる)

『守ってくれなくていいです。一緒に生きてくれれば』
 以前、涙を零しながら、清華は話した。
『誰も、失いたくない』

 五歳の冬に、両親を殺された。あれから、甘えが許されない淋しい日々だった。

「鏡弥さん?」
「オレは清華が笑う顔が一番好きだ。朝起きて、名前を呼んでくれるだけで幸せでいられる」
 失いたくない、この笑顔と声を。
「鏡弥さん」
「だから、傍にいろ。それで、今は充分に幸せだから」
「!」
 
 淋しいなら
 抱きしめてやる

 清華は笑う。涙より、これからは沢山笑って生きよう。
(泣き虫な自分が嫌いだった。鏡弥さんと再会して、私は弱くなった。抱きしめられないと不安で、姿が見えないと寂しくて)

「いいですか、私で。本当に、後悔はしませんか?」
「後悔などする訳がない。オレが妻にしたいと望んだんだからな」
 鏡弥が笑って答えた。
「ならば、私も後悔はしません」
 清華は口付けた。
「愛しています、鏡弥さん」
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