身代りの花嫁と軍服のこじれた初恋

絵麻

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身代わり花嫁と軍服のこじれた初恋

五十六話『欲望の果て』

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「父上、これが私の意志です。今まで美作を捨てる勇気がなく、あなたの野心に従う日々でしたが」
 和俊は悲しげに目を伏せた。

「殺すべきは長谷川鏡弥ではない、晃嗣と光輝だぁ!」
 気狂いのように、昭三が叫んだ。反乱軍の兵士が剣を握り直し、戦闘態勢になる。 
 晃嗣が手を挙げる、その瞬間に祭壇の布が落ち鎧を着た兵士達が姿を現す。

 伏兵がいたか!

 どうりで落ち着いているはずだと、昭三は歯ぎしりした。
「行け、美作!早く主上に連判状をお渡ししろ」
 敬之が叫んだ。
「和俊を殺せ」
 もはや、息子ではなかった。いや、初めから昭三に、我が子に対する愛情などなかった。
 分かっていたよ、と和俊は嘲笑を浮かべた。
(僕はただ、愛が欲しかった。清華と結婚すれば、愛が手に入ると期待した)

 壇上にいる晃嗣に、連判状を差し出す。
「主上、これが今回の反乱に加担した者の連判状と、名簿でございます」
「たしかに受け取った。辛い役目、大義であった」
 晃嗣が優しい眼差しを向ける。
「ありがとうございます」
 剣を手に、鏡弥達と並ぶ。
「羨ましいよ、あんなに優しい父がいて」
「―――ああ」
 鏡弥は頷いた。
 一歩違えば、自分もそうだった。同じ女性を愛したが、運命は大きく違った。

 結果は歴然としていた。反乱軍の兵士は全て倒され、親政軍と鏡弥達に犠牲は一人もいなかった。
「ありがとう、あんたのお陰だ」
 鏡弥が手を差し出す。

「鏡弥さ、和俊く」

「清華」
 遠くに、清華の姿が見えた。しかし、その時だった。

「しね、長谷川鏡弥」
 ゆらりと立ち上がる兵士の手に、槍が握られていた。

(清華、君はきっと泣くだろう。こんな僕の為に、たくさんの涙を流す)

 ドッ

 大きな、鈍い不快音と同時に和俊の腹部を、兵士が投げた槍が貫いた。

「和俊く、しっかりして!」

(気づけば僕は、清華に膝枕されていた。不思議と痛みを感じず、僕は笑みを浮かべる。温かな涙が、僕の頬に落とされる)

「和俊くん」
「なぜだ、美作」
 鏡弥が目を潤ませる。
「清華」
「大丈夫、今、御医が診てくれるから」
 
(母上、もうすぐ会えますね。幼い日に亡くなった貴女の顔を、僕は覚えていません。ですが、今度はしっかり、顔をみせてください)

「和俊くん?」
 清華の顔が、泣き笑いに歪む。
「だめだよ、寝ちゃ」
 
 やだぁ。

(清華、僕は君が好きだった。幼くして死別した母、早くに嫁いだ姉。美作邸に僕を愛してくれる人はいなかった)

 だが、清華は違う。友として、友愛という愛をくれた。
(だから、愛してしまった。鏡弥を愛している君を。ありがとう、君を愛せて幸せだった。これからも、ずっと愛している)

 さよなら、清華
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