150年のりんご採取で異世界最強の大魔導士になった私は、林檎の聖女と讃えられ可愛い弟子たちと平和なスローライフを満喫します!

風戸輝斗

文字の大きさ
30 / 40
第三章 そんなこんなで、魔族の皆さんからも聖女と讃えられるようになりました。

第30話 5年後はもっと上手に笑えますよ。

しおりを挟む
 流星群を3人と1匹で眺めた翌朝。
 
 パチリと意識が覚醒すると同時、すぅすぅと軽やかな寝息が左右から私の耳をくすぐりました。
 私の両隣では可愛いふたりの弟子が天使のような寝顔で身体を丸めています。

「ふふっ」

 朝からほっこりしてしまいます。
 ふたりに毛布を掛け直し、グッと背中を伸ばして窓の向こうに目をやります。今日も澄んだ空が私たちを歓迎しています。

「……今日で最終日か」

 日暮れ前には戻るとアリスラースさんと約束しているので、お昼を済ませて、少し休憩してから出立という流れになるでしょう。

 ……転移魔法を使えばもっと長時間滞在できるじゃないかって? 
 ちっちっ、わかっていませんね。寂寞感に苛まれつつ帰路をたどるのも旅行の醍醐味なのですよ。

 あくびを噛み殺しつつリビングに顔を出すと、エプロンをつけて髪をうしろでくくったエリシュナさんが鼻唄交じりに朝食の用意をしていました。
 私に気づくと、かっと顔を赤らめます。

「い、いいいつからそこに!?」
「たった今です。おはようございますエリシュナさん。なんだか上機嫌ですが、素敵なことでもありましたか?」
「今のは忘れろ! 朝はいつもこんな感じなんだよ! 文句あるか!?」
「いえいえ、人生を楽しんでいて素晴らしいと思います」

 前世の私は廃人みたいな猫背でトースターがカチカチ鳴る音を聞いていましたからね。breakfastが憂鬱な日も数えきれないほどありました。

 ま、今は朝食担当の日は、エリシュナさんに負けないくらいハイテンションで朝食づくりに励んでいるんですけどね。
 メープルがいる。モカモカがいる。誰かのために料理をつくるのって楽しいんですよ。

 ジークリフさんは相変わらずお寝坊さんなので、モカモカとギルティアが席についたところでミートパイを頬張ります。エリシュナさんの料理は今日も絶品でした。

「プリオリ、ちょっといいか?」

 玄関でブーツをとんとん鳴らしていると、エリシュナさんが神妙な顔つきで私を呼び留めました。

「どうかされましたか?」
「そのギルのことなんだが……ほんとに養育をまかせちまっていいのか?」
「えぇ問題ありませんよ。むしろ感謝したいくらいです」

 即答して、私はグイっととんがり帽子のツバを持ち上げます。

「あなたの娘は私が責任をもって大切に育てます。まかせてください」
「世界一信頼できる『まかせてください』だな。おう、まかせたぜプリオリ!」

 ニッと笑って突き出された拳に、私はこつんと拳をぶつけます。

 さも今生の別れのような雰囲気が漂っていますが、月に1度くらいの頻度で顔を出すつもりでいるんでご安心くださいな。

 ◇◆◇◆◇

 最高級のフカヒレスープに舌鼓を打ち、温泉に浸かって疲れを癒し、ついにその時がやってきました。

「では皆さん、ご元気で」
「寂しいこと言わないで永住してくれよ聖女ちゃぁぁぁんっ!」
「モカモカちゃんの足音で起きるのが日課だったのにぃぃ!」
「ギルティアちゃんに蔑まれないと生きてけねぇよぉぉ!」
「えっと、さてはお見送りに来たのは変態さんばかりだったりします?」

 まぁそれだけモカモカとギルティアが愛されているということなので良しとしますか。

 モカモカは苦笑いしながら手を振り返しています。
 その一方で、ギルティアはぼーっと街を眺めていました。

「街を発つ実感が湧きませんか?」
「……そうね。これからしばらく私はこの街の住人ではなくなるのよね」
「ギルティアはこの街が好きですか?」
「えぇ好きよ。大好き。街のみんなも大好きだわ。……だからほんの少し寂しい」

 まつげの下に紫紺の瞳を伏せるギルティアの頭を撫で、私は微笑みかけました。

「次にこの街の住人になるときは、その気持ちを素直に告げられることを目指しましょうか」
「い、嫌よ。恥ずかしい」
「気持ちはわかりますけど、ギルティアはもう少し感情に正直になってもいいと思いますよ。ほら、街の人たちがあたたかく見送ってくれています。手を振り返して」
「……まぁ旅立ちの時だものね」

 ふっと頬をほころばせ、ギルティアは街の人たちに手を振り返しました。その表情を見て、街の人たちは驚いた顔をしています。

「そうやって笑える子だって知ってもらえれば、あなたはきっともっとたくさんの人に愛されますよ」

 愛嬌は正義ですからね。モカモカの窃盗だって、愛嬌があったから許されたわけですし。
 
 ギルティアの頬はゆるんでいますが、まだそれは微笑みに満たない微笑です。ですが、始終ぶっきらぼうだったこの子が少しでも笑えているだけで大きな成長でしょう。一歩ずつ、一歩ずつ、です。5年後はもっと上手に笑えますよ。

 1匹の黒馬に3人でまたがり、私たちはゆっくりと帰路をたどります。背中に浴びせられる歓声が徐々に遠ざかっていきます。

「魔族の人たち、いいひとばかりだったなぁ」

 不意にモカモカがつぶやきました。

「でしょう? 魔族だから悪と決めつけるのは早とちりなんですよ」
「帰ったら、街のひとたちに魔族はいいひとばっかだったよって伝えないとね」
「はい、思う存分広めちゃってください」

 子どもの率直な意見は大人の心に深く突き刺さるものでしょうから。

 そうやって誤解がほどけていけば、ゆくゆくは人間と魔族が同じ土地で共存する未来が拓けるかもしれませんし。……そんな未来になるといいですね。

 思い出話に花を咲かせていると、あっという間にプリテンドに到着しました。たった1週間見ていなかっただけですが、なんだかとても懐かしい気持ちになります。

 黒馬から降りて街に足を踏み入れると、懐かしい灼熱の髪色が私めがけて大急ぎで迫っていました。

「ただいまですフレアさん。そんなに焦って、さては私に会えなくて寂しかったのですか?」
「ふざけてる場合じゃないんだ! プリオリ、異常はないか? 異変はないか!?」

 私の身体を許可なくまさぐってきます。ちょ、くすぐったいですって。

「なんもありませんよ。風土病的なものを懸念しているんですか?」
「そういった類なら皇女さまが治せるから問題ないんだ。……昨日のことなんだが、占いおばばが新たな預言を賜ったんだよ」

 占いおばばというのは、プリテンドにいる的中率100%の預言をするおばさまのことです。私が聖女として活躍することを予知していたのも彼女でした。

「そんなマズい預言だったんですか?」
「あぁ」
 
 ごくりと唾を呑んでフレアさんは告げました。

「聖女さまが命を無くす。それが占いおばばが賜った預言なんだ」



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~

Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。 うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。 でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。 上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。 ——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?

異世界カントリーライフ ~妖精たちと季節を楽しむ日々~

楠富 つかさ
ファンタジー
 都会で忙しさに追われる日々を送っていた主人公は、ふと目を覚ますと異世界の田舎にいた。小さな家と畑、そして妖精たちに囲まれ、四季折々の自然に癒されるスローライフが始まる。時間に縛られず、野菜を育てたり、見知らぬスパイスで料理に挑戦したりと、心温まる日々を満喫する主人公。現代では得られなかった安らぎを感じながら、妖精たちと共に暮らす異世界で、新しい自分を見つける物語。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【第2部開始】ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

月森かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

追放先で気づいた。この世界の精霊使いは全員、聞き方を間違えている~最安もふもふ白狐と始めた、問いかけの冒険~

Lihito
ファンタジー
精霊と暮らす世界で、ノエルはギルドを追い出された。処理ミスは誰より少ない。でも「やりづらい」の一言で、理由には足りた。 手元に残ったのは、最安で契約した手のひらサイズの白い子狐だけ。言葉はたどたどしいし、力もない。誰が見ても「使えない」と笑う精霊だ。 たどり着いた町では疫病が広がっていた。高額な精霊が三度探して見つからない薬草。ノエルは最弱の白狐と半日で見つけ出す。 力で勝ったんじゃない。聞く範囲を絞り、段階を分け、小さな鼻に合った問いを重ねただけ。 ——なぜこの世界では、誰も精霊への「聞き方」を知らないのか。 その違和感が、ノエルの旅を動かしていく。

処理中です...