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ユートピア村

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 屋台街も好評だったようだ。

 道草に時間がかかったが、ようやく宿屋に到着した。木の匂いが心地よい宿だ。

 僕らが到着すると、宿屋の責任者をしている最年長のヘルガが出迎えにやって来た。

 「ようこそいらっしゃいました。この宿の責任者のヘルガと申します。お疲れでしょう?どうぞ中へお入り下さい。」

 建物に入ると、ロビーにあるソファに腰掛けた。

 「このソファーも上等だな。」

 父さんは、あちこちチェックに余念がない。

 「お部屋の準備が出来ておりますので、お部屋にご案内します。」

 部屋までの移動中、ヘルガはこの村の成り立ちを僕の両親に説明している。辛い経験だったはずだが、かなり吹っ切れているみたいだ。

 「うちのノアが?商売の才能がある事は知ってましたが!皆さんのお役に立てて嬉しいですわ。特別魔法学校を辞めたと聞いた時は心配だったのですが……皆さんの協力に感謝致します。」

 「いえ私達は何も……全てノア様が私達の為にしてくれて。まさに神童です。」

 「ヘルガさん、僕の事はもういいですよ……」

 ヘルガは僕の両親に感謝の気持ちを伝えたかったのだろう。充分に気持ちが届いた。

 「わー、凄い素敵なお部屋!」

 部屋に入ると、リビングには上等なソファーとテーブルが用意してある。奥の部屋には、フカフカなエアベッド、さらに24時間利用可能な内風呂に、半露天風呂、陶器で出来た水洗トイレが完備してある。

 テーブルの上に置いてあるリモコンを押せば、そこそこの灯りが点灯する仕組みだ。魔石に光魔法を付与した魔道具で、リモコン式電灯を作製しているのである。

 「これお風呂じゃない?お湯が捨てるように湧き出ているわよ。なんて贅沢なの!?」

 内風呂は母親とジェシカが、半露天風呂には男達が利用する事にした。

 父さんは、お湯が湧き出る魔道具にいたく感動していた。この世界では、お湯を木桶に入れ身体を清拭するだけでも、かなりの贅沢であり、浴槽にお湯を入れるなど、貴族でもなかなか出来ない事であった。

 浴室の中の冷蔵庫に気付いたアル兄さんが、冷蔵庫を開けてみた。

 アルコール度数を控えた炭酸ワインと、炭酸フルーツジュースを冷やしていたのである。

 半露天風呂に浸かりながら、大人は炭酸ワインを、子供達は炭酸フルーツジュースを飲むのである。

 「何という贅沢だ。店を閉めて来た甲斐があった!」

 父さんが、風呂をとても気に入ってくれたようなので、僕は嬉しくなっていた。

 結構、みんな内風呂も入り、半露天風呂には数回入る始末であった。
 
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