とある王国の執事ですが男装しているのがバレ、好色侯爵からアプローチされました?!

曼珠沙華

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一章

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王を寝かしつけ、大臣を部屋に放ったところから執事の夜の仕事がスタートする。


自室に鍵をかけ、カーテンを閉め切り、被り物を外す。

長年夜に生きてきたからか、鏡台に映る自分の忌々しい顔が見える。
執事は小さく舌打ちした。



長い髪を頭上で纏め上げ、燕尾服からタキシードへと袖を通す。
その髪をシルクハットによって覆い隠す。
最後にカラスの仮面をつければ夜の仕事人へとなり替わる。

タキシードには家門の紋章はつけない。

何せ、夜の仕事も王への…王国へのための物であるが、秘密裏に行わなければいけないからだ。






カーテンを開け、窓から月夜に身を投じる。
























煌びやかな城。

紳士淑女の皮を被った権力の獣サタンたち。

ここは隣国の仮面舞踏会。
いや、その名義を装った裏の社交場だ。
汚職に隠蔽、殺人から人身売買まで、ここには様々な目的を持った貴族達が来る。


反吐がでそうだった。


貴婦人はセンスを口元で揺らしながら、絶好の機会を伺い、
紳士たちは自らチャンスを掴まんと、首元のネクタイを調節する。



執事は長い脚を伸ばし、滑らかにホールを突っ切る。

貴族らしく、そして誰にも声が掛けられぬ速さで。




ドンッ

その時だった。
執事の肩と誰かがぶつかった。

しまった。

執事は、焦った。
しかし、顔には出していない。


「すみません、お怪我はありませんか?」


さも本当にすまないと思っているかのように演技する。


「いいえ、こちらこそ周りをよく見ていませんでした。」


目の前の男は、そういってニコリと笑った。

高身長の不気味な男だった。
仮面を着けていても、その男の不気味さは拭えないのか、目元からチラつく桃色の瞳は嫌な光を放っていた。


「ちょっとぉ、行きましょうよぉ!」


男の背後から仮面を着けた淑女があらわれた。

美しいスタイルで、仮面越しですらわかる綺麗な顔立ちの女。
執事は彼女の登場に、ホッとため息を吐いた。

「ごめん。行こうか。」

「はぁい。」

ぎゅっと男の腕にしがみつく女。
その目は完全に男に入れ込んでいるのが見て取れる。


「では、失礼します。」


シルクハットを外さない程度に傾け、軽く会釈をする執事。

できれば、関わりたくなかった。
足早に男女の元から離れ、探し人ターゲットの元へと急ぐ。




背後で妖しく光る桃色の瞳に気付かずに…。


















人の少ないテラス。

一人で酒を嗜む、年老いた紳士。


彼は裏社会の重要人物の一人。
子どもやモンスターを売ることによって、その地位に上り詰めた男。



そして、も連れ去らった男。



執事はその男に近付く。

その顔に憎悪、嫌悪などの色はなかった。
内心は嵐の如く吹き荒れていたが、そんな私情でこの仕事を失敗してたまるか。


歩いて、歩いて、男と執事の影が重なり合う…。



しかし、執事は平然と男のそばを通り過ぎる。

男も何の傷もなく、満足そうに手元のグラスに入ったワインを飲んでいる。




執事はそのまま、屋敷の外へと出ていく。



ここまで見ると執事は何もしていないかのように見えるが、彼はちゃんと仕事のノルマを果たしている男を殺している


すれ違いざま、執事は男の首に毒を打込んだのだ。

それも、一瞬で的確に…そして確実に首の頸動脈に。




彼の昼の顔は執事、夜の顔は




「やれやれ…、私の国は手がかかりますね。」




さぁ、帰ろう。

もう少しで、王が目覚める。
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