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一章
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「クソッ…、毒薬のストックが無くなった…。」
満月の夜。
執事は王を寝かしつけた後、自室で暗殺の準備をしていた。
いつものように愛用の毒を使おうと箱を確認するが、その中身は空っぽだった。
証拠を残さない、なおかつ毒で殺されたかも分からないという遅行性の毒。
しかし、今回ばかりは違う方法で切り抜けるしかない。
壁に目をやるとそこには額縁に飾られた一本の剣。
一人目の王、執事の恩人から受け継いだダイヤの剣。
それは、手に取ると月の光に照らされてキラキラと美しく輝いた。
「グリツィア王よ…、またこの剣を血で汚すことをお許しください。」
剣を掲げ、そう呟くと執事はそれを家紋の入った鞘へと入れる。
被り物も、燕尾服もそのまま、執事は城を飛び出した。
これは彼なりの剣への礼儀だった。
この剣だけは誇りを賭けた殺し以外に使いたくなかったが、今日の獲物はそれなりに大物だ。
剣で殺すにふさわしい大貴族様。
どんなに血が高潔だろうが、やってることは外道だが…。
執事の姿は闇夜へと溶けるように消え去っていく。
*****
「ふぅ…。」
浴室に薔薇の花の如く散らばる鮮血。
ジャグジーの付いた豪華な浴槽に既に事切れている男。
執事は血の付いた剣を丁寧にハンカチで拭くと、鞘へと収めた。
ハンカチは男の方へと投げ捨てる。
この燕尾服も捨てないとダメだな…。
執事は脳裏でそう考えながら被り物越しに男を見下ろす。
今まで魔物を売るためや、労働に使うために攫うやつは沢山いた。
しかし、この男はその中でも類を見ない外道だった。
攫う魔物はメス、もしくはメスの子供のみに限定。
売ったり、奴隷にするには飽き足らず、無理矢理体を暴いた。
しかもそれを堂々と社交会の場で語る気狂いだ。
「…風呂に入りたい…。」
執事はそう呟くと、浴室を後にする。
城の衛兵を、気付かれないように殺して門前へと辿り着く。
満月がひどく大きく感じる夜。
嫌な予感がし、地を蹴る足に力を入れた。
その時。
腰から重みが消えた。
それに瞬時に気付き、執事はすぐさま後ろを振り返る。
「ふむ…、なかなか良い剣を持っておるではないか。」
背後には不気味な長身の男が一人。
手には王の形見のダイヤの剣。
「…チッ…。」
執事は隠しきれず舌打ちした。
それほどあの剣は執事にとって大切な物であった。
それに気付いたのか、男は目を細めた。
いやに桃色の瞳が鈍く光っている。
「ほう、お前がかの有名な殺し屋か。」
ぞくり、執事の全身を駆け回るように寒気がする。
この男は危険だ。
そう本能が訴えかける。
しかし、今あの男から逃げれば剣を失うことになる。
それだけは、あの剣だけは何としても失うわけにはいかない。
暗い。
相手の顔は黒のロングコートを着ているからか、分からない。
しかし、桃色に光る瞳を持つ長身の男はつい最近会ったことがある。
あの仮面舞踏会で…。
「…何が目的だ。」
執事は声を絞り出すようにそう言った。
満月の夜。
執事は王を寝かしつけた後、自室で暗殺の準備をしていた。
いつものように愛用の毒を使おうと箱を確認するが、その中身は空っぽだった。
証拠を残さない、なおかつ毒で殺されたかも分からないという遅行性の毒。
しかし、今回ばかりは違う方法で切り抜けるしかない。
壁に目をやるとそこには額縁に飾られた一本の剣。
一人目の王、執事の恩人から受け継いだダイヤの剣。
それは、手に取ると月の光に照らされてキラキラと美しく輝いた。
「グリツィア王よ…、またこの剣を血で汚すことをお許しください。」
剣を掲げ、そう呟くと執事はそれを家紋の入った鞘へと入れる。
被り物も、燕尾服もそのまま、執事は城を飛び出した。
これは彼なりの剣への礼儀だった。
この剣だけは誇りを賭けた殺し以外に使いたくなかったが、今日の獲物はそれなりに大物だ。
剣で殺すにふさわしい大貴族様。
どんなに血が高潔だろうが、やってることは外道だが…。
執事の姿は闇夜へと溶けるように消え去っていく。
*****
「ふぅ…。」
浴室に薔薇の花の如く散らばる鮮血。
ジャグジーの付いた豪華な浴槽に既に事切れている男。
執事は血の付いた剣を丁寧にハンカチで拭くと、鞘へと収めた。
ハンカチは男の方へと投げ捨てる。
この燕尾服も捨てないとダメだな…。
執事は脳裏でそう考えながら被り物越しに男を見下ろす。
今まで魔物を売るためや、労働に使うために攫うやつは沢山いた。
しかし、この男はその中でも類を見ない外道だった。
攫う魔物はメス、もしくはメスの子供のみに限定。
売ったり、奴隷にするには飽き足らず、無理矢理体を暴いた。
しかもそれを堂々と社交会の場で語る気狂いだ。
「…風呂に入りたい…。」
執事はそう呟くと、浴室を後にする。
城の衛兵を、気付かれないように殺して門前へと辿り着く。
満月がひどく大きく感じる夜。
嫌な予感がし、地を蹴る足に力を入れた。
その時。
腰から重みが消えた。
それに瞬時に気付き、執事はすぐさま後ろを振り返る。
「ふむ…、なかなか良い剣を持っておるではないか。」
背後には不気味な長身の男が一人。
手には王の形見のダイヤの剣。
「…チッ…。」
執事は隠しきれず舌打ちした。
それほどあの剣は執事にとって大切な物であった。
それに気付いたのか、男は目を細めた。
いやに桃色の瞳が鈍く光っている。
「ほう、お前がかの有名な殺し屋か。」
ぞくり、執事の全身を駆け回るように寒気がする。
この男は危険だ。
そう本能が訴えかける。
しかし、今あの男から逃げれば剣を失うことになる。
それだけは、あの剣だけは何としても失うわけにはいかない。
暗い。
相手の顔は黒のロングコートを着ているからか、分からない。
しかし、桃色に光る瞳を持つ長身の男はつい最近会ったことがある。
あの仮面舞踏会で…。
「…何が目的だ。」
執事は声を絞り出すようにそう言った。
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