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一章
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しおりを挟む「うわぁ…。」
メイド服を着た自分を見て、執事は思わず声を漏らしてしまった。
明らかに非効率的な…見栄え重視なメイド服だったからだ。
胸元にある大きなリボン。
半袖の膨らんだ袖口。
ふんわりと盛り上がるスカートは膝上どころか、隠れているのか心配になるくらい短い。
ピンク色の生地の上には白いエプロンはあるが汚す用のものではないことは一目瞭然だ。
しかも所々に大きなフリルがあしらわれている。
奴の悪趣味はこれで終わらなかった。
白のニーハイソックス。
薄ピンクのハイヒール。
そして真っ赤なリボンのついたカチューシャ。
まるでコスプレ用のためのメイド服に、執事はぶるぶると震えた。
ここでやっていけるのか、本当に心配になってしまったのだ。
血で汚れた燕尾服は使い物にならなく捨てる予定だったが、ここで過ごす間この服だけでは絶対に生きていけない。そう判断した執事は、そっとタンスの上に綺麗に畳んだ燕尾服を置くのだった。
そこでふと、鏡の前の自分と目が合う。
フリフリのメイド服に、奇妙な被り物。
サラシによって潰されているぺちゃんこな胸元。
なかなか似合ってないが、逆にこっちの方がいいのでは?
そうだ、彼奴はスタイルがよく、顔のいい女が好きだと言っていた。
この格好で仕えていれば、いつか解放してくれるに違いない。
しかし、本当に非効率な格好だ。
ヒールで歩きずらいし、股がスースーする。
これじゃあ、どうやって腕を上げたり足を広げるんだ?
執事はスカートの端っこを指で摘まみながらため息を吐いた。
「ほう…、似合ってるじゃないか。」
気配はなかった。
しかも、部屋に鍵を掛けていたから、確実に他人が入ってこれる所はないはずだ。
瞬間移動のできる主人(仮)以外は。
いきなり後ろから声が聞こえ、執事は内心驚いていたが顔にも…そして動作にもなんの隙もなかった。
「そりゃあどうも…。」
素っ気なく返す執事。
声は一定のトーンで感情は読み取りづらい。
だからこそ、そんな執事をかき乱すのは、ジール・ダルクにとってとても面白いことだった。
「あぁ、そうであった。その被り物は取ってもらうぞ。」
「…は?」
いかにも反抗的な態度にジール・ダルクは、笑いをこらえるのに必死だった。
しかし、取ってもらわねばならない。
あの日、あの仮面舞踏会で出会ったあの端麗な輝きをこの目で確かめるために。
ジール・ダルクは、無類の女好きだ。
とくに美しいものに目がなく、顔と体型の整った女を囲うのに、どんな苦労も厭わなかった。
ある時は他国の姫を攫ったり…
ある時はモンスターの赤子を攫う…。
とにかく女には一歩も譲らない性格だった。
それが成し得れたのは単純に、彼の顔も美しかったからだ。
切れ長の瞳、高い鼻、怪しい雰囲気に紳士的な態度は、どんな女性をも恋に堕としてしまう。
そんな女好きのジール・ダルクが目を付けたのが、仮面舞踏会で出会った紳士。
スラリとした手足、仮面をつけていても拭い切れない美貌。
一目で分かった。
彼が、女性だということを。
急激に欲しくなった。
喉から手がでるとはまさにこの事。
此処まで苦労して手に入れたんだ。
後は吾輩の目に狂いが無かったか確かめるだけだ。
ジール・ダルクは密かに笑んだ。
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