とある王国の執事ですが男装しているのがバレ、好色侯爵からアプローチされました?!

曼珠沙華

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一章

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「嫌だと言ったら…?」

「ふむ…お前は主人の命令に背くのか?」

ニヤリとジール・ダルクが笑う。
その姿に執事は被り物の中で、小さく舌打ちする。


しかし痛い所を突かれ、諦めたのか恐る恐る被り物を取った。

四角い被り物から、さらりと流れる黒髪。
被り物が完全に執事の顔から退くまで、まるでスローモーションのようだ。




「…ッッ!?」

被り物が完全に下に下がった瞬間、ジール・ダルクが顔を真っ赤に染め上げた。
そして執事の顔を見続け、フリーズしている。


整えられた長い黒髪。
大きな深紅の瞳は、まるでルビーをはめ込んだかのように美しく輝く。
瞬きするたびに動く長いまつ毛は、透き通っているかのようで神秘的だ。
白い肌には荒れた様子は一切無く、弾力と柔らかさが見て取れる。
血色のいい唇は愛らしく、思わずキスをしてしまいたくなる。

これほど美しい娘は見たことがなかった。
女好きで、かつ女をコレクションする身であるジール・ダルクでさえ…だ。


「…どうしました?」

ぱちぱちと大きな瞳を瞬かせ、執事はジール・ダルクを見上げた。

「い…いや、何でもない。」

フイッと顔を逸らすジール・ダルクだが、頬はまだ真っ赤なままだ。
なんせ、自分好みの美しい女性が目の前に立っているのだから。
しかも、これからこの屋敷で…メイド自分のモノとして働くのだから。

上がる口角を、誰が抑えられるというのだ。

おほん…と一つ咳ばらいをして、ジール・ダルクは執事へと向き直る。

「着替えて貰って悪いが、今は湯浴みの時間だ。貴様も風呂に来るんだ。」

「いえ、俺は水が嫌いなので掃除でもしています。」

間髪入れず断る執事にジール・ダルクは舌打ちをする。
血で汚れた体を今すぐ流したい気は山々だが、この男と入るのは絶対に嫌だったからだ。
たとえ、それが主人であろうが…。

「さぁ、さっさと消え…出て行って下さい。」

言い直した意味が無い執事の発言。
そんな執事にジール・ダルクはにぃっと笑った。

「貴様が来ない限り此処を動かない。」

そして徐々に近付いて来る。
執事はそんなジール・ダルクを睨みあげる。
真っ赤なルビー色の瞳が何がどうあれ此方を向いている。その事にゾクゾクするジール・ダルク。

「貴様は実に美しいな…」

そう告げ、ジール・ダルクはうっとりと瞳を細める。
言いようも無い気持ち悪さを感じた執事。
しかし、此処で逃げればコイツの思うがままだ。そう思っているからか、執事は一歩も引かない。

引くべきであったのに…。

「っ!!」

小さなリップ音。
それと同時に唇の違和感を感じる執事。
目の前には桃色の瞳がドアップで…。

「っ、やめろっ!!!」

すぐ様ジール・ダルクから離れる執事。
口元をゴシゴシと拭う執事つの様子に、ジール・ダルクはくつくつと笑った。

「流石暗殺者であるな。どうすれば男が悦ぶか分かっておる。」

「何言って…っ」

ふと、執事は視線を下へと下げる。
ジール・ダルクの股下に主張する山があり…。
ブワワッと頬に熱が集まった。

「あぁ、そんな顔をされては抑えきれなくなってしまうではないか。」

ペロリと口端を舐め、ジリジリと執事へと近付くジール・ダルク。
激しく恐怖と気持ち悪さを感じた。
今まで女として過ごした時間が少なかったからか、男からの欲に過剰に怯んでしまう執事。

「く、来るな!」

ジール・ダルクに肩を掴まれ、腰を撫でられる。
ゾワゾワとした気持ち悪さだけが執事を支配し、耐えられない。
咄嗟に執事はスカート姿だという事を忘れ、ジール・ダルクを思い切り蹴り飛ばす。

ガンッ!

大きな音を立てて、ジール・ダルクが床へと倒れる。
両手で股間を押さえ、顔は痛みで真っ青だ。
執事の蹴りは、どうやらクリティカルヒットした様だ。

「くそっ…!」

端麗な顔を歪め、執事は床で悶えるジール・ダルクを睨み付けた。
何なら今此処で殺したいが、自身の身の安全が大切だ。
執事は血濡れた燕尾服を引っ掴み、部屋を飛び出した。

そのまま誰かの部屋へと侵入し、メイド服を脱ぎ捨てる。

「癪に触るが、到底こんな所では働けない…」

先程のジール・ダルクを思い出し、ぶるりと震える執事。
少し着心地は悪いが、ピンクのフリフリを着るよりはマシだ。
燕尾服に袖を通し、被り物を被る。

「さて、帰りましょうか。」
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