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No.06:「よろしくね。翔君」
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「だから僕も一人よりは二人の方が寂しくないですし、何より防犯上にもいいと思うんです」
「そうだったんだね」
桐島さんは、その表情に憐憫の色を浮かべた。
「でもね……もし、もしだよ。私が住むことになったら、お部屋がものすごく狭くなっちゃうよ」
「えーと、ちょっと前なんですけどね……もし自分の部屋に妹が生きてて一緒に暮らしてたら、どんな風だったかなあって妄想したことがあるんです」
その妄想を、他人に披露する日が来るとは思わなかったな。
僕はカバンから、ルーズリーフ1枚とシャープペンを取り出した。
そして今の部屋の間取りを書き出す。
「ベッドの横に二人掛けのソファーがあるんですけど、これソファーベッドになってるんです」
「うん」
「で、テレビを動かして、このソファーベッドを壁際につけて、っと」
僕はルーズリーフの上に、自分のベッドとソファーベッドを平行に配置した。
「それで2つのベッドの間に、突っ張り棒を使って仕切りのカーテンを取り付けるんです」
2つのベッドの間に、僕は線を引く。
「後はテレビをキッチンテーブルの近くに持ってくれば、なんとか二人生活できると思いますよ。僕のいない間は、勉強机を使ってもらってもいいですし」
30平米の1Kだから、狭いけどなんとかなるはずだ。
桐島さんは、僕が書いた図をじっと眺めていた。
「翔君は、本当にそれでいいの?」
まだ戸惑いの表情を浮かべている。
「はい。僕も楽しいですし、何よりこのままだったら桐島さんが痛い目にあう将来しか見えないです」
「ひどいなー」
桐島さんは、ようやく笑顔になった。
「もちろん次に住むところが決まるまでの短期間でもいいですし。それに僕はこんな体格だから、万が一襲われても桐島さんなら逆にねじ伏せられますよ」
僕は身長170センチ弱のひょろ長体型だ。
特に鍛えていないので、筋肉だってそんなにない。
「翔君はそんなことしないでしょ。そこは信用できるから」
「そんなの、わかんないじゃないですか」
「もしそんなことする子だったら、この間なんかチャンスだったんじゃない? でも翔君は私を助けてくれて食べ物まで出してくれて。それに連絡先を聞こうともしなかった。これでもし翔君が悪い人だったら、私は世の中そのものを疑うわ」
彼女は笑ってそう言った。
でもあのとき、ちょっと胸を触っちゃいました。
ごめんなさい、と心の中で謝った。
「でも……翔君が本当にそれでいいんだったら、次が決まるまでお世話になっちゃっていいかな?」
「もちろんどうぞ。えーと、じゃあ早い方がいいですね。今日は木曜日か……桐島さん、今日と明日の夜はネットカフェですか?」
「うん、今日の分はもうお金払っちゃったし。明日の夜は、お店の友達のところに泊めてもらうことになってる。女子会しようって言ってくれてるの」
「そうですか。じゃあ土曜日、僕はホームセンターに行って突っ張り棒とカーテンを買ってきます。ちょうどシフトも入ってないですし。だから、土曜日の夜から泊まれるようにしますよ」
「ホントに? すっごく助かる! あ、カーテンのお金はちゃんと請求してね。それと……家賃っていくら払えばいいかな?」
「え、家賃? 家賃って、もらえるってことですか? えっと……考えてなかったな。タダでも別にいいんですけど」
「それはダメだよ。水道光熱費だって、余分にかかってくるんだから」
「あ、そうか。そうですよね……それじゃあ月5千円とかでどうですか?」
「ダメよ、何言ってるの? そんなんじゃあ安すぎるよ。この辺の相場だと、ルームシェアで個室の部屋を借りたら、水道光熱費込みで3万5千円ぐらいするんだから」
「そうなんですか?」
「そうだよ。ねえ、あの部屋ってwifiは使える?」
「はい、使えますよ」
「それは助かるな。じゃあ個室じゃない分だけ安くしてもらって……オールインで月2万円とかでお願いできると、凄い助かるんだけど。どうかな?」
「えー、それはもらい過ぎのような気がします」
「いいのいいの。それでもこっちはすごく助かるんだから」
「そうなんですか? それじゃあ一緒にいる時は、たまに僕がご飯作るようにしますよ。一緒に食べましょう。といっても、冷凍食品が多いですけど」
「本当に? やったー、嬉しい!」
「桐島さん、料理ってされるんですか?」
「……」
「されないんですね」
「違うの! やろうとは思っているのよ。でもなかなか時間がなくて」
「それ、やらない人の典型的な言い訳ですから」
「不器用でね……卵割ると、いつも殻が中に入っちゃうの……」
早慶大卒の才媛でも、できないことがあるんだな。
「その代わりね、掃除洗濯は得意だよ! だからそっちは任せて!」
「本当ですか? それは助かります。僕、すごく面倒くさがりで」
「まあ男の子は、そうだよね。でも料理できるだけでも、凄いと思うなー」
なんだか楽しくなってきた。
桐島さんも、さっきの泣き顔が嘘みたいだ。
それにしても……本当にこの人綺麗だな。
笑うと無邪気で幼い感じがして、逆にそれがとても可愛い。
それに話し上手で、聞き上手だ。
さすがに教員を目指しているだけのことはある。
「じゃあ翔君、Lime交換しよ?」
桐島さんは、スマホを出してきた。
僕のQRコードを読み込んでもらう。
「それから私のこと、すみかでいいからね」
「はい、すみかさん。土曜日の夕方、待ってますね」
「うん、よろしくね。翔君」
すみかさんは、今日一番の笑顔を見せた。
ひまわりの花が咲いたような笑顔だった。
「そうだったんだね」
桐島さんは、その表情に憐憫の色を浮かべた。
「でもね……もし、もしだよ。私が住むことになったら、お部屋がものすごく狭くなっちゃうよ」
「えーと、ちょっと前なんですけどね……もし自分の部屋に妹が生きてて一緒に暮らしてたら、どんな風だったかなあって妄想したことがあるんです」
その妄想を、他人に披露する日が来るとは思わなかったな。
僕はカバンから、ルーズリーフ1枚とシャープペンを取り出した。
そして今の部屋の間取りを書き出す。
「ベッドの横に二人掛けのソファーがあるんですけど、これソファーベッドになってるんです」
「うん」
「で、テレビを動かして、このソファーベッドを壁際につけて、っと」
僕はルーズリーフの上に、自分のベッドとソファーベッドを平行に配置した。
「それで2つのベッドの間に、突っ張り棒を使って仕切りのカーテンを取り付けるんです」
2つのベッドの間に、僕は線を引く。
「後はテレビをキッチンテーブルの近くに持ってくれば、なんとか二人生活できると思いますよ。僕のいない間は、勉強机を使ってもらってもいいですし」
30平米の1Kだから、狭いけどなんとかなるはずだ。
桐島さんは、僕が書いた図をじっと眺めていた。
「翔君は、本当にそれでいいの?」
まだ戸惑いの表情を浮かべている。
「はい。僕も楽しいですし、何よりこのままだったら桐島さんが痛い目にあう将来しか見えないです」
「ひどいなー」
桐島さんは、ようやく笑顔になった。
「もちろん次に住むところが決まるまでの短期間でもいいですし。それに僕はこんな体格だから、万が一襲われても桐島さんなら逆にねじ伏せられますよ」
僕は身長170センチ弱のひょろ長体型だ。
特に鍛えていないので、筋肉だってそんなにない。
「翔君はそんなことしないでしょ。そこは信用できるから」
「そんなの、わかんないじゃないですか」
「もしそんなことする子だったら、この間なんかチャンスだったんじゃない? でも翔君は私を助けてくれて食べ物まで出してくれて。それに連絡先を聞こうともしなかった。これでもし翔君が悪い人だったら、私は世の中そのものを疑うわ」
彼女は笑ってそう言った。
でもあのとき、ちょっと胸を触っちゃいました。
ごめんなさい、と心の中で謝った。
「でも……翔君が本当にそれでいいんだったら、次が決まるまでお世話になっちゃっていいかな?」
「もちろんどうぞ。えーと、じゃあ早い方がいいですね。今日は木曜日か……桐島さん、今日と明日の夜はネットカフェですか?」
「うん、今日の分はもうお金払っちゃったし。明日の夜は、お店の友達のところに泊めてもらうことになってる。女子会しようって言ってくれてるの」
「そうですか。じゃあ土曜日、僕はホームセンターに行って突っ張り棒とカーテンを買ってきます。ちょうどシフトも入ってないですし。だから、土曜日の夜から泊まれるようにしますよ」
「ホントに? すっごく助かる! あ、カーテンのお金はちゃんと請求してね。それと……家賃っていくら払えばいいかな?」
「え、家賃? 家賃って、もらえるってことですか? えっと……考えてなかったな。タダでも別にいいんですけど」
「それはダメだよ。水道光熱費だって、余分にかかってくるんだから」
「あ、そうか。そうですよね……それじゃあ月5千円とかでどうですか?」
「ダメよ、何言ってるの? そんなんじゃあ安すぎるよ。この辺の相場だと、ルームシェアで個室の部屋を借りたら、水道光熱費込みで3万5千円ぐらいするんだから」
「そうなんですか?」
「そうだよ。ねえ、あの部屋ってwifiは使える?」
「はい、使えますよ」
「それは助かるな。じゃあ個室じゃない分だけ安くしてもらって……オールインで月2万円とかでお願いできると、凄い助かるんだけど。どうかな?」
「えー、それはもらい過ぎのような気がします」
「いいのいいの。それでもこっちはすごく助かるんだから」
「そうなんですか? それじゃあ一緒にいる時は、たまに僕がご飯作るようにしますよ。一緒に食べましょう。といっても、冷凍食品が多いですけど」
「本当に? やったー、嬉しい!」
「桐島さん、料理ってされるんですか?」
「……」
「されないんですね」
「違うの! やろうとは思っているのよ。でもなかなか時間がなくて」
「それ、やらない人の典型的な言い訳ですから」
「不器用でね……卵割ると、いつも殻が中に入っちゃうの……」
早慶大卒の才媛でも、できないことがあるんだな。
「その代わりね、掃除洗濯は得意だよ! だからそっちは任せて!」
「本当ですか? それは助かります。僕、すごく面倒くさがりで」
「まあ男の子は、そうだよね。でも料理できるだけでも、凄いと思うなー」
なんだか楽しくなってきた。
桐島さんも、さっきの泣き顔が嘘みたいだ。
それにしても……本当にこの人綺麗だな。
笑うと無邪気で幼い感じがして、逆にそれがとても可愛い。
それに話し上手で、聞き上手だ。
さすがに教員を目指しているだけのことはある。
「じゃあ翔君、Lime交換しよ?」
桐島さんは、スマホを出してきた。
僕のQRコードを読み込んでもらう。
「それから私のこと、すみかでいいからね」
「はい、すみかさん。土曜日の夕方、待ってますね」
「うん、よろしくね。翔君」
すみかさんは、今日一番の笑顔を見せた。
ひまわりの花が咲いたような笑顔だった。
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