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No.18:「集中できないですよ」

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 週末の日曜日。
 今週末は、バイトのシフトが入っていない。
 理由は……明日から中間テストだからだ。

 勉強は苦手だ。
 うちの学校は、1学年350名前後。
 僕の学校での順位は、大体真ん中ぐらい。
 智也と亜美は部活をやっているのに、僕より成績が上だ。

「はぁ……」

 英語のテキストとノートを広げて、僕は嘆息する。
 英語は嫌いではない。
 でもなぜかテストで点が取れないんだ。

「どうしたの?」

 キッチンの前でコーヒーを飲むすみかさん。
 きょうのすみかさんは、メガネをかけている。
 最近家では、すみかさんのメガネ姿をよく見る。
 金のフレームで、とても知的なのだ。
 これはこれで、とてもいい。

 問題はその部屋着だ。
 今日はタイトなニットのセーター。
 しかも深いVネックだ。
 どうしたって視線がそこに持っていかれる。
 下は部屋着のスエットパンツだけど。

「明日から試験なんですけどね。どうも英語が苦手で」

「ふーん、どれどれ」

 すみかさんが椅子を持って、僕の勉強机のところまで来てくれる。
 僕のすぐ横に座った。

 うわ……。
 めっちゃいい匂いするし、そのたわわの胸が……胸が気になる。
 形がはっきり出てるし、またVネックが深すぎて谷間がくっきりと見えてしまう。

「すみかさん、あの……ブラ、見えてますけど」

「ん? ああもう……翔君、集中して」

 そう言って、Vネックの襟元を上に引っ張る。
 集中できません。
 これ、いわゆる「童貞を殺す」シャツってヤツじゃないの?

「ちょっとテキスト見せてね」

 そう言って僕の方に乗り出してくる。
 すみかさんは片腕を机の上に乗っけて、その上に胸が乗っかる。
 顔が僕のすぐ横に来て、髪の毛が頬をかすめた。
 なにこれ、ご褒美?それとも拷問?

「翔君、この章末問題、ちょっとやってみて」

「……」

「翔君?」

「あ、はい。すいません」

 意識を持って行かれた。
 集中だ、集中。
 僕は言われた章末問題をやり始める。


「うーん、そっか。基本部分のおさらいが必要だね。時制による文型の違い、受動態、仮定法とか、ひとつずつ押さえないといけないかな」

 練習問題の回答を見て、すみかさんはそう言った。

「そうなんです。なんだか全部ごっちゃになっちゃって」

「そうなるよね。でも一つずつ押さえていけば簡単だよ。ちょっとやっていこうか」

 すみかさんの個人授業が始まった。
 文型の違いをひとつずつ丁寧に説明してくれた。
 内容的には、中学レベルまで遡っておさらいしてくれる。
 その説明が、全部わかりやすい。
 頭の中で絡まっていた糸が、すっかり解きほぐされた感じだ。

「あと試験に出そうな単語とか、イディオムに印をつけていくね」

 そう言ってテキストの重要と思われる個所に、鉛筆でチェックしていく。
 後でもう一度、覚えよう。

「すみかさん、有難うございました。もの凄くよく分かりました。さすが教員免許を持ってるだけのことはありますね」

「そう? よかった。私も人に教えるの久しぶりだったから、やっぱり教師っていいなーって思ったよ」

「絶対いい先生になれますって。でもその服装だと、生徒は集中できないですよ」

「もう……これぐらいで動揺しないの。だって所詮は着衣じゃない」

「いやそれはそうなんですけど……さっきから視線を持っていかれます」

「別に見るぐらいならいいよ、翔君だったら。でもおさわりはダメだからね。嫌いになりたくないから、翔君の事……」

 そう言って、少し頬を紅潮させる。

「ごめん、いまのナシ! 全然深い意味ないから!」

「わ、分かってますから! そんなに強く否定しなくていいです。逆に傷つきます。それに僕だって、すみかさんにずっといて欲しいですから」

「……迷惑じゃない?」

「全然です。こうやって勉強も教えてもらえますし。それにすみかさん美人で優しいし、一緒にいて楽しいにきまってるじゃないですか」

「もー翔君、本当にいい子だなー!」

 すみかさんが僕の腕を取って、胸をグリグリと押し付けてきた。

「うわ、それやめて下さいって。しかも直です! 今日ヌーブラなしですよ! 直ですから!」

 ヌーブラ有りと無しの違いが分かってしまった。
 もう腕に感じる感触が違う。
 なんというか……プルンプルンなのだ。

「え? あ、そうか。でもいいや。翔君だけ、特別だよ!」

 この人、絶対に面白がってるよね?
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