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前編
りんの悪戯
しおりを挟む俺たちは教室に入るとそれぞれの席に着く。俺はカバンを開けて英語の教科書を取り出した。宿題のやり残しがあったからだ。
『もう、宿題ぐらい家でやりなさいよ』
「言い訳できねぇな」
俺が宿題をやっている最中に、りんは教室を見渡していた。俺の席は窓際だから、窓の外にも出て校庭を眺めている。ふわふわと窓の外に浮いているりんを見るのは、ちょっとシュールな感じがする。
『へぇー、共学校ってこんな感じかぁ。なんか新鮮だなぁ』
「そうか? こんなもんじゃないか?」
『なんかさ、もうちょっと男子と女子が集まってキャイキャイ楽しそうにやってるイメージがあったよ』
「それはごく一部のリア充チームだけが為せる技だ」
俺はなんとか宿題を終えると、すでに結構いい時間になっていた。SHRまであと3分だ。
『ねえねえ、その学園のアイドル様はどの子? 教えてよ』
「ん? ああ、花宮はそこの席。まだ来てないけど……珍しいな」
俺は自分の斜め前の席に視線を送る。いつも花宮は早く来て本を読んだりしているのだが……すると教室の後ろの出入り口から、足早に入ってくる女子生徒。サラサラの黒髪を少し乱し、焦った表情の花宮だった。
花宮は席につくと、大きくため息のような深呼吸をした。そしてカバンを机の横にかける時、俺の方を向いて「城之内君、おはよう!」と笑顔で声をかけてきた。その瞬間、まわりの二酸化炭素濃度が500ppmほど下がる。
『う、うわーー、清楚系黒髪美少女キターー』
りんは叫んでいる。
「ああ花宮、おはよ。遅刻ギリギリなんて珍しいな」
俺は心臓の高鳴りを抑えながらそう言った。正面から見る花宮は、少し頬が紅潮して息も上がっている。なんというか……ちょっと色っぽかった。
「そうなの。朝起きたら英語の宿題忘れてたことに気づいて……ギリギリまでやってたら電車を乗り過ごしちゃった。さすがに駅から走ってきたよ」
「そうか。俺も英語の宿題、やってこなくてな。さっきまでここでやってたんだ」
「えー、そうなんだ。じゃあ私も早く来て、城之内君に見せてもらえばよかったな」
「俺の写したって、多分間違いだらけだぞ」
「私のだって、そんなに変わらないって」
そう言うと花宮は鼻の上にシワを寄せて、いたずらっぽく笑った。やばい……可愛すぎる。まるでテレビの中のアイドルと会話しているようだ。
そんな話を花宮としていたら、担任の吉川先生が入ってきた。俺たちは話をやめて前を向く。吉川先生、ちょっとは空気を読んで遅れて来てくれてもいいだろ……。
『ちょっとちょっと。ナオ、やけに学園のアイドル様と仲いいじゃない。席もこんなに近くだし……ひょっとして霊能力を使ったの? 式神くんを花宮さんに食べさせて操縦してるの?』
「俺は霊能者であって黒魔術師じゃねえぞ。そんなことする訳ねーだろ」
実はそういう俺自身、びっくりしている。雄介の友達というアドバンテージがあるにしても、この席になってから花宮は俺によく話しかけてきてくれる。よくよく考えると、花宮が他の男子生徒と話しているのをほとんど見ない。あの雄介でさえ、教室の中ではほとんど話していないと思う。まあ席が離れているというのもあると思うが。
(いやでも……思い過ごしだよな)
変な期待は持たないようにしよう。俺は妄想から現実に戻ることにする。
SHRを終えると1時間目は英語。山川先生、通称ガマ川の授業。50手前の男の先生で、でっぷり太って顔がガマガエルそっくりなのでこう呼ばれている。
『でも花宮さんだっけ? 本当に可愛いわね。下の名前、何ていうの?』
授業が始まってから、りんが訊いてきた。
「琴葉だ。花宮琴葉」
『可愛い名前だなー。琴ちゃんか。でも性格はどうなんだろ?』
「よくわからんけど……話をするかぎりは、いい子だと思うぞ」
『そんなのわかんないじゃない。もうこれだから脳内お花畑男子高校生は』
「お前にだけは言われたくねぇ」
『でもルックスは本当にアイドル並みだよね。ウエストなんかアタシの半分ぐらいかも。多分腎臓が1つしか入ってないよ。お金に困って1つ売ったんだよ』
「んな訳あるか」
『ちょっと……もう少し近くで見せてもらおうっと』
「お、おいっ」
りんはそう言うと、スーッと花宮の席の前に移動した。そして花宮の顔を正面からまじまじと見つめている。
『うわー、まつ毛長ーい。目元もきれいな二重瞼で……いいなぁ可愛らしいなぁ。肌だって白くてニキビ一つ無いよ。どこの化粧水使ってんだろ。鼻筋も口元もシュッとして、美人そのものだよね』
りんは顔の花宮の顔のパーツを一つずつチェックする。それから……りんは何故か花宮の胸元に顔を擦り付ける。
『どれどれ? うわぁ、この子相当な隠れ巨乳だよ。でもちょっとブラがきつそう。これじゃあ胸が可愛そうだよ。多分ブラは……Fカップぐらいだけど、胸自体はGかHぐらいあるんじゃないかな。下着売り場で測ってもらえばいいのに』
「おい、もうよせ。それぐらいにしろ」
『えーそんな事言って、ナオだって興味あるでしょ? じゃあ最後に下着のチェックだけ』
「やめろって」
りんは俺の制止を無視して、今度は大胆にも花宮のスカートの下から覗き込んでいる。
『おー、ピンクのレースだよ。大人可愛い感じ? でもね、透け感がちょっと強くてかなりエロいよ。もう可愛い顔して……あ、それにサイドが紐になってる!』
りんは興奮した表情で、俺の正面へスーッと移動してくる。
『紐パンだよ、紐パン。アタシ紐パンとか履いたことなかったなぁ』
「りん、頼むからもう静かにしててくれ」
『そんなこと言ってー。あ、ひょっとしてナオ、紐パン好きなの? やっぱりエッチの時とか盛り上がるのかな? パンツ脱がす時にさ、紐を口に咥えてスルスルって』
「お前ちょっとマジで黙れ!!」
「ちょっとマジで黙るのは、君のほうじゃないのかね!? 城之内君!」
「へっ?」
気がつくとガマ川が鬼の形相で俺のことを睨みつけている。
しまった……ついつい興奮して、普通に地声で怒鳴ってしまった。俺の怒鳴り声が教室中に響き渡ったようだ。
「私の授業が面白くないのはよーくわかった。しかし授業中に大声で寝言を言うというのはどうなのかね?」
「あ、はい……すいませんでした」
「授業が終わるまで、立ってなさい」
俺はクラス中の冷たい視線を浴びながら立たされた。花宮も俺の方を見ながらクスクスと可愛く笑っている。りんは……両手を合わせて『ごめんごめん』と頭を下げている。こいつマジで強制成仏が必要なのかもしれないな……。
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