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前編

高額商品

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 俺たちはさっそく駅の向こうのマクドへ移動し、1階で飲み物やバーガー類を買って2階へ上がった。そして窓際の4人がけの席に陣取る。俺はヨーグルトシェイクとフィッシュバーガー、雄介はビックマクドのセット、花宮はヨーグルトシェイクだけだった。

「でも城之内君、偉いよね。毎日お弁当、自分で作ってるんでしょ? すごいと思う」

「いや……といっても、簡単なものばかりだよ」

『そうそう。それにナオひとりじゃ、まだ作れないしね』

 花宮も毎日お弁当だが、お母さんに作ってもらっているらしい。

「花宮はヨーグルトシェイクだけなのか?」

 気になった俺は、花宮に話しかける。

「うん。でもこのシェイクだけでも、結構カロリー高いんだよ」

「そんなこと気にするのか? 逆に痩せすぎぐらいじゃないのか?」

『そうだよ。でも栄養が全部、乳に回るのかなぁ? いいなぁ』

「うーん……でもちょっと油断すると、すぐにお腹の周りがね、きつくなったりするんだよ」

「いやでも、花宮のウエストって明らかに細いだろ? スカートのサイズとか合ってないんじゃないか?」

『そうそう。それにブラのサイズも合ってないよ。下着売り場でちゃんと測ってもらいなよ』

「確かに琴葉は昔から細いよなぁ……でも高校に入って急に胸が成長したよな。そこはオレも計算外だった」

「け、計算外って、何を計算してたのよ? 雄君、そういうのをセクハラって言うんだよ!」

『え? 高校に入ってから胸が急成長したの? ちょっと、なんで? 何食べてたの? それとも育乳マッサージ? ねえナオ、ちょっと聞いてみてよ』

「お前ちょっと黙ってろって!」

「ん?」「?」

「あ、いや、なんでもない」

 どうしたって口が少し動くからな……雄介と花宮には不審がられてしまう。それにしても、りんの胸に対する執着が思ったより強すぎる。

「でも琴葉、よかったな。ナオと席も近くなって、結局友達になれたじゃん」

「も、もう……そういう事、今言わなくてもいいでしょ?」

「?」『おっ?』

 花宮が俺と……友達になりたかったのか? なんで?

「あ、あのね、深い意味とかないから! ほら、前に助けてくれてプリントを運ぶのを手伝ってくれたでしょ? だからお礼も言いたかったし」

「ああなんだ、そんなことか。全然大したことしてないし」

 どうやら深い意味はないらしい。そう言えば……雄介も言ってたよな?

「あんまり期待するな」

 期待はしないにしても……そのあとに花宮の表情がちょっと暗くなったことが、俺は逆に気になった。なにかあるのか? 俺はシェイクを飲みながら、花宮の憂いた表情をチラ見していた。口数が少ない花宮も綺麗だな……と思いながら。



 2階で食べ終えた俺たちは、マクドを後にして駅に向かう。雄介と花宮は、俺と逆方向の電車だ。

「じゃあな、ナオ」「城之内君、また明日ね」

「ああ、また。二人とも気をつけてな。特に花宮、雄介に気をつけて」

「だってよ、琴葉。気をつけろよ」
「何言ってるのよ。変なことしたら、マジでおばさんに言いつけるから!」

 いとこ同士の二人はそう言いながら、仲良く?帰っていった。

『あーやっぱり育乳マッサージだったのかなー』

「お前マジで乳から離れろよ。それにもう手遅れだろ?」

『そうなんだけどさ。もーそれはそれで新たな後悔だよ』

「もう……これ以上問題の種を増やさないでくれよ」

 俺たちは電車に乗り、アパートへ向かう。ちょうどラッシュ時間が始まったところなので、車内はそれなりに混雑していた。

『でも琴ちゃんさぁ、本当に可愛いよね』 

 電車を降りてアパートへ歩き始めた時、りんがそう呟いた。

「ん? ああ……なんだ、どうした?」

『アタシだってさ。こう見えて中学の時『クラスで3本の指が入る美少女』って言われたこともあったんだよ』

「3本の『指に』な。『指が』だと意味変わってくるから」

『でも琴ちゃん、なんだか最後の方ちょっと元気なかったよね?』

「……りんもそう思ったか? そうなんだよ、俺もそれがちょっと気になってな」

『……あ! わかった! そういうことか!』

「なんだよ、いきなり?」

『ナオ、謎は全て解けたわ! 私の名推理、聞きたい?』

「いや、いい」

『なんでよ! 聞きなさいよ!』

 半ギレのりんが、勝手に続ける。

『おそらくなんだけどね……琴ちゃんのところのお寺、完永寺だっけ?』

「ああ、そうだ」

『きっとね、お客さんが少なくてお金に困ってるんだよ』

「なんでそう思うんだ?」

『だって琴ちゃん、腎臓一つ売るぐらいなんだよ?』

「だから売ってねぇって」

『それでね、琴ちゃんのお父さんはね、琴ちゃんに仕事をさせてるのよ』

「仕事? 何の仕事だ?」

『琴ちゃん、美人じゃない? だからナオみたいなチョロい男をたらしこんで、高額商品を売りつけようとしてるわ』

「お前、なに言ってんだ?」

『きっとナオと二人っきりで会ったらさ、こう言ってくるんだよ。『城之内君の部屋には、悪い霊が住みついている!』って』

「単なる事実じゃねーか」

『『でもこの壺を買って部屋に置いておけば……あら不思議! 悪霊は即刻退散! 幸せな毎日が訪れることでしょう! 今なら60回の分割払いも可能! 金利・分割手数料は当社が負担します! お電話は今すぐ! 0120』』

「お前、昼のバラエティーの見過ぎだ!」

 話に付き合って損した……俺はアパートまでの道を歩きながらあれこれと考えていたが、結局元気がなかった花宮の理由は皆目見当がつかなかった。まあ単なる俺たちの勘違いなのかもしれない。

◆◆◆

 翌朝俺はいつものようにりんを連れて、学校へ向かう。りんはもうすっかり慣れて、俺にしてみれば普通のクラスメートのような感覚だ。

 もちろん他の生徒には姿も見えないし、声も聞こえない。ただりんがあまりにも馴染みすぎているので、「コイツ、本当に成仏する気があるのか?」と思わないわけでもない。

 午前中の授業が終わり弁当も食べ終え、午後の授業に備えて少しくつろいでいたら……

「城之内君、ちょっといいかな?」

 花宮の可愛らしいソプラノボイスが聞こえてきた。

「ああ、どうした?」

「あのね……その……連絡先とか聞いちゃったりしてもいい?」

 花宮はうつむき加減で少しモジモジしながら、小さな声でそう訊いてきた。

 俺? 俺に訊いてるよな?

「もちろん。俺も花宮の連絡先、訊きたかったんだ」

「本当? じゃあ……私ね、インタスもツイッテーもやってないのね。だからLimeでいい?」

「ああ、じゃあちょっと待って」

 俺はスマホを取り出して、急いで自分のQRコードを表示する。花宮がそれを読み取ると、すぐに俺のスマホに「花宮琴葉」の名前が表示される。

 おおっ、栄花の巫女様の連絡先をゲットしたぞ。しかもSNSの相互フォローじゃなくてLimeだ。

 花宮は「ありがと」と少しはにかみながら笑うと、席に戻って前を向いた。その直後、俺のスマホ画面には「よろしくお願いします」と頭を下げるキャラクターのスタンプが送られてきた。

 やべー、超可愛い。

『うーん……琴ちゃんついに動き始めたわね』

「なにがだよ」

『次に来る連絡はね、高額商品のご案内よ』 

「お前、まだ言ってるのか?」

『アタシの勘だとね、壺か英会話の教材か鍋のセットね』

「りん……ひょっとして、これまでに買わされたことがあるのか?」

 やけに詐欺商品に詳しいりんだった。それにしても……花宮に上目遣いで「お願いっ」とか言われたら、壺だろうがなんだろうが俺は断る自信がない。


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