学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太

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前編

りんの思い出

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『カップ麺にポテトチップスって……ナオ、絶対長生きできないと思うよ』

「毎日じゃないからいいだろ? 今日はテスト明けで疲れてるし」

 スーパーからの帰り道、俺はまた言い訳をする。部屋に戻って、早速カップ焼きそばを作ることにした。

 電気ポットで湯を沸かし、カップ焼きそばの中に注ぐ。中に入っていたスープの小袋を開け、マグカップに入れた。湯切りのときのお湯を入れるらしい。

『じゃあその間に卵を焼いていくわよ』

「卵?」

『そう。薄焼き卵の要領でね』

 俺はりんに言われた通り、卵2つを割って塩と砂糖を入れ箸で混ぜる。そして油を引いて温めたフライパンの上に注いだ。

 ジューッという音がしている間にフライパンの中の卵を箸で軽くかき混ぜ、形を整えた。

『あとは予熱でいいよ。焼きそばのお湯を切って』

 俺は焼きそばのお湯をスープのマグカップに入れ、残りを流しに捨てる。そして焼きそばにソースを入れて箸で混ぜる。これで焼きそばは完成。

『じゃあその焼きそばをフライパンの中に入れちゃって』

「全部入れるのか?」

『そうそう』

 俺はりんに言われた通り、フライパンの中の薄焼き卵のようなものの上に焼きそばを入れる。そしてその上に大きめの皿を乗せて、フライパンと一緒に上下逆さまにひっくり返した。

 すると上に丸い卵焼き、その下に焼きそばという食べ物が出現した。

『オムそばだよ』

「なるほど、面白いな。りんはよく作ったのか?」

『ううん、これはね……ママがよく作ってくれたんだ』

「りんのお母さんが?」

『そう。アタシが子供の時にさ、ママは忙しくて料理も苦手だったから、このカップ焼きそばでよく作ってくれたの。簡単にできるでしょ?』

 りんが昔を懐かしむように、言葉を続ける。

『それでさ、卵の上にケチャップでいろいろ書いてくれたんだ。お手伝いしたときは『ありがとう』とか、テストの点数が良かった時は『はなまる』書いてくれたりとかさ』

「そうか。いいお母さんじゃないか」

『そうだね。アタシもそれが嬉しくってさ。なにかあると『オムそば作って!』て、よくお願いしてた』

「そうだったんだな」

 俺は冷蔵庫の中のカット野菜で簡単なサラダを作り、スープとオムそばと一緒にテーブルへ運んだ。

「あ、ケチャップ忘れた」

 俺は冷蔵庫にケチャップを取りに戻る。

「さてと。何を書けばいいんだ?」

『べつに何も書かなくていいよ。好きなようにかけたら?』

 りんは笑いながらそう言った。俺は少し考えた後、卵の上にケチャップで文字を書き始める。30秒ほどすると、黄色い卵の上に「ありがとう」という無骨な赤い文字が浮かび上がった。

『なにしてんのよ、もう』

 りんが照れながら笑う。

「いや、考えてみればりんに結構助けられてるなぁと思ってな。料理のこともそうだし、今回の花宮のことだってそうだ」

『そんなこと……アタシだってナオに助けられてるじゃん。おあいこでしょ?』

「まあそういうことにしといてくれ」

 俺は少し苦笑いしたあと、手を合わせて小さく「いただきます」と口にした。スープを一口飲んだ後、オムそばを食べ始める。

 赤いケチャップ、黄色い卵、茶色い焼きそばというアンバランスなコントラストの食べ物を、箸でつまんで口に運んだ。

「ああ、なるほど。面白い味だな。子供が好きそうな味というか……でも旨いぞ」

『そうでしょ? ちょっとクセになる味なんだよ』

 ちょっとジャンクフードっぽい味。これは子供にはクセになるだろう。ちょっと変わった味だが……これがりんの、お母さんとの「思い出の味」なんだな。

 俺はサラダを食べながら、思考を巡らせる。それが霊能者としてやっていい事なのかどうなのか、判断がつかなかったが……

「りん」

『ん? なに?』

「一緒に食べるか?」

 俺はそう言葉にしていた。

『は? なに言ってんの? そんなのできるわけないでしょ?』

「俺に憑依しろ」

 りんは驚いて、目を大きく見開いている。

『な、何言ってるのよ? だいたい霊能者に憑依なんてできるの?』

「ああ、俺は普段は憑依されないように防御態勢でいるんだが、その防御レベルは調整できる。りんが憑依できるように、そのレベルを下げることだってできる」

『でも……できたとしても、アタシが憑依してる間ナオの記憶が飛んじゃうわよ?』

「俺をその辺の低レベルな霊能者と一緒にするな。りんが憑依しても、俺の体はりんの思いどおりには動かない。もちろん意識もだ。その辺の調整は可能だ。つまりりんが俺の体に憑依して、『感覚共有』することができる」

『感覚……共有?』

「まあ説明しても分かりにくいか……とにかく俺に憑依するかしないか、どっちだ?」

『え? う、うん。やってみる』

「よし。少し待ってくれ」

 俺は一つ深呼吸し、霊に対する防御レベルを下げていく。

「いいぞ。入ってきてくれ」

『う、うん……』

 りんが上の方から、俺の中にスルッと入って来る感覚が分かる。そして俺の体と完全に一致すると……

『あ、入れた』

『そうだな。で、体をうごかしてみろ』

『え? なにこれ? 全然動かないんだけど』

『今は俺がりんの体を完全に制御してるからな。でもその制御レベルを下げると……』

『あ、今度は手が動くようになったよ。こんなことができるんだね。それに……いまナオ、声を出してないよね?』

『ああ。憑依している間は俺は声を出さなくても、りんが同じ体の中にいるわけだから念話で会話が可能なんだよ。それで、と……』

 俺は手を伸ばし、テーブルの上にあるスープのマグカップにそっと指を触れた。

『熱っつい!』

『熱いよな? 俺も熱かった。つまりこれが『感覚共有』だ。五感の全てを、俺とりんで共有できる』

『す、凄いことができるんだね? でも……なんで今まで黙ってたのよ?』

『感覚共有はイレギュラーだし、俺自身も危険だからだ。それに……これは俺の体力をメチャメチャ必要とするんだよ。体力というより霊能力だな。だから長時間は無理なんだ』

『そうなんだね』

『じゃあさっそくオムそば、食べようぜ』

 俺はもう一度箸を手に持って、オムそばを口に運んだ。

『あー、この味……なつかしいなぁ』

『ごはんというより、オヤツ感覚だな。駄菓子屋で出てきそうな』

『そうそう! そうだね……あーなんだか、いろいろ思い出してきたよ』

 俺はもう一口二口、オムそばを口に運んだが……

『りん、自分で食べてみろよ』

『え? う、うん……』

 俺は自分の体の制御レベルを極力落として、その動きをりんに委ねるようにする。りんが俺の体をうごかして、オムそばを食べ始めた。

『アタシがまだ小学校入ったばっかりの時だったかな。アタシ、ママを随分困らせたことがあってね』

 りんは昔の思い出を話し始めた。

『困らせたこと?』

『うん。うちにはパパがいなかったじゃない? たまに外で会うぐらいだったんだけど……でも友達の家には当然パパがいてさ』

『ああ、そうか』

『それでさ、アタシなんでパパは家にいないの? 皆の家にはいるのにって、随分ママに泣きついたみたいなんだ』

『まあそれぐらいの時期だと、大人の事情なんてわかんないもんな』

『そうだね。それでママは『パパは仕事が忙しくて、家には来られないのよ』って散々アタシを慰めたんだけど、アタシそれでも納得できなくてね。随分ママを困らせた』

『それは……仕方ないんじゃないか?』

『そんな時にさ。ママがこのオムそばを作ってくれたんだけど……ケチャップでなんて書いてくれたと思う?』

 俺はなんとなく予想がついたが……黙っていた。

『『ごめんね』だって。子供ってさ、悪気はないんだけど時として残酷だよね』

 そういうとりんはスープを一口飲んで、またオムそばを食べ始める。俺は目の周りに異変を感じて……次の瞬間、大粒の涙がこぼれてきた。

『あ、あれ? なんで……』

 りんは戸惑っているようだ。霊は涙を流せない。でも俺の体を借りているあいだは、人間としての行動ができる。

『もう……なんで涙が……いやになっちゃうな』

『りん、我慢するな。いままでずっと一人で我慢してきたんだろ? 泣きたい時に泣いた方がいい』

『そんなこと……』

『最近の研究では、思春期に泣くのを我慢した女性は、胸の成長が妨げられるという研究結果もでているぞ』

『そんな訳ないでしょ? もう……バカじゃないの』

 しばらくりんの嗚咽は続いた。りんが俺の中で泣いている。俺の目から次から次へと溢れ出すりんの涙に、俺は不思議な心地でいた。

『ナオ』

『ん? なんだ?』

『ありがとね』

『……はいはい、どういたしまして』

 しばらくしてからまた、りんと俺はオムそばを食べ始めた。その頃にはスープはすっかり冷めてしまっていたが、りんはそのジャンクな食べ物を愛おしそうに完食した。

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