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前編
キュン死
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「城之内君、ありがとう。娘を案内してもらって悪かったね。琴葉、そろそろ帰るよ」
「えー、もう帰っちゃうの?」
「ああ、できたら高速が渋滞する前に帰りたいんだ。お二方ともお忙しいでしょうし」
花宮のお父さんはそう言って、オヤジと兄貴に帰りの挨拶を始めた。全員お互いにお辞儀をし合う。
お見送りをするために、駐車場へ5人+1霊でぞろぞろと移動した。
「じゃあ城之内君、また……できたら夏休み中にね」
「ああ、また連絡するよ」
『琴ちゃん、またねー』
花宮は車に乗り込んだ。運転席の窓が開いて、花宮のお父さんが顔を出した。
「皆さん大変お世話になりました。本当にありがとうございました。城之内君、今度は是非うちの寺にも遊びに来てね。待ってるから」
「あ、はい。よろしくお願いします!」
車はゆっくりと出口に向かって走っていく。途中花宮は数回、手を振ってくれた。俺も手を振り返した。
『琴ちゃん、行っちゃったねー』
「ああ」
『なんかさ、二人でいい感じだったじゃない』
「そうか? そうでもないだろ」
『もー……なんだか羨ましいなー』
「なんでりんが羨ましがるんだよ」
『アタシだってさぁ、体があったらナオとデートできたのに』
「体がなくったって、りんは時々俺の体に入ってくるだろ?」
『もー、そういうんじゃないんだけどなー……でもまあ仕方ないか』
りんは少し拗ねたような、それでもちょっと楽しそうな声でそう言った。俺たちはそのまま寺の奥の自宅へと歩いて行った。
「花宮住職には、うちの寺でやってきたことをそのままお伝えしておいた。うちの場合確かに映画のヒットは大きかったが、とにかく寺の名物となるようなものを作ることと、それをPRすることが大事だと伝えておいた。メディアによるPRはもちろんだが、今はやっぱりSNSだ」
夕食の時間、兄貴は今日花宮のお父さんを案内した時の様子を話してくれた。
「特に若い女性からのインタスグラムが効果が高い。本当はあのお嬢さんに発信してもらうといいと思ったのだが……」
「それは今は無理だと思う。以前ストーカーまがいの被害を受けたらしいんだ」
「ああ、その話は聞いた。ご住職もお嬢さんが高校生の間はそういう活動をさせたくないと話されていたよ」
たしかに花宮がそれこそ巫女装束で情報発信したら、絶対にバズる。でも……今はその時期じゃないだろう。
俺は食事を済ませて風呂に入り、部屋に戻る。スマホを見ると、1件の着信。
花宮:今日はいろいろありがとう。夏休み中に雄君も誘って、勉強会しようね!
『琴ちゃんから?』
「ん? ああ、今日はありがとうって」
『そっかぁ……そうそう、そういえば琴ちゃんのおみくじの恋愛運、なんて書いてあったか知りたいでしょ?』
「ん? ああ……でも何度も言ってるけどな、勝手に人のものを見るのは良くないぞ」
すると俺のスマホが震え、ピコンと音を立てる。Limeのメッセージだ。確認すると花宮から写真が送られてきた。よく見ると……
「ん? これはおみくじだな」
『え? 琴ちゃん、自分で送ってきたの? うわー、やるなー』
りんはちょっと冷やかすような声色で、そう言った。
俺は写真を拡大する。おみくじの上部には、大きな文字で中吉と書いてある。今日花宮が引いて持ち帰ったやつだ。それぞれの項目は、総じて良い内容だ。そして……その恋愛運にはこう記されていた。
恋愛運:待ち人、眼前に現る
『ふふっ、顔真っ赤にしてる琴ちゃんが目に浮かぶなー』
俺はそれを見て、花宮がおみくじを引いたときの仕草を思い出す。何故か急に頬を紅潮させ、その後も俺の顔をちらちらと恥ずかしそうに見上げていた。そして……そのおみくじを結ばずに丁寧に折りたたんで持ち帰った。
それを思い出した俺は……悶絶し、確実にキュン死した。
◆◆◆
8月も半ばが過ぎた。俺の夏休みはあいかわらず修行・家の手伝い・宿題の毎日だ。ただ修行がなかなかハードで、家に帰って自室に戻って昼寝をすることも多くなった。俺が昼寝をする時は霊壁を張るので、りんもかまってもらえず退屈そうだ。
8月20日を過ぎても、学校の宿題が半分以上残ってしまっていた。これはマジでヤバい。夏休みの宿題をやっておかないと、内申点に響いてくる。そうすると栄花大学への推薦が取れない可能性も出てくる。
俺は「アパートに戻って、友達に宿題を手伝ってもらうようにしたい」と正直にオヤジに話した。
オヤジは「仕方ないのう」と笑っていたが、兄貴から「夏休みの宿題なんかは、最初の10日ぐらいで終わるはずだろ?」と小言を言われた。ただ……俺は兄貴のような明晰な頭脳を持ち合わせていない。仕方ないだろ?
翌日俺は荷物をまとめ、バスと電車を駆使してアパートへ戻った。美久には「なんでこんなに早く帰っちゃうのよ!」と縋《すが》りつかれたが、なんとか振り切って実家を出てきた。
実家に戻る電車の中で、俺は雄介と花宮とのグループLimeを開く。
城之内:雄介、宿題がヤバい。助けてくれ。
花宮:雄君、私からもお願い!
俺が書き込むと、花宮も便乗した。しばらくすると雄介から返事が。
雄介:しょうーがねーな……たまたま明日なら予定あいてるぞ。3人で集まるか?
さすが救世主! 俺と花宮は即OK、翌日3人で集まることにした。
「えー、もう帰っちゃうの?」
「ああ、できたら高速が渋滞する前に帰りたいんだ。お二方ともお忙しいでしょうし」
花宮のお父さんはそう言って、オヤジと兄貴に帰りの挨拶を始めた。全員お互いにお辞儀をし合う。
お見送りをするために、駐車場へ5人+1霊でぞろぞろと移動した。
「じゃあ城之内君、また……できたら夏休み中にね」
「ああ、また連絡するよ」
『琴ちゃん、またねー』
花宮は車に乗り込んだ。運転席の窓が開いて、花宮のお父さんが顔を出した。
「皆さん大変お世話になりました。本当にありがとうございました。城之内君、今度は是非うちの寺にも遊びに来てね。待ってるから」
「あ、はい。よろしくお願いします!」
車はゆっくりと出口に向かって走っていく。途中花宮は数回、手を振ってくれた。俺も手を振り返した。
『琴ちゃん、行っちゃったねー』
「ああ」
『なんかさ、二人でいい感じだったじゃない』
「そうか? そうでもないだろ」
『もー……なんだか羨ましいなー』
「なんでりんが羨ましがるんだよ」
『アタシだってさぁ、体があったらナオとデートできたのに』
「体がなくったって、りんは時々俺の体に入ってくるだろ?」
『もー、そういうんじゃないんだけどなー……でもまあ仕方ないか』
りんは少し拗ねたような、それでもちょっと楽しそうな声でそう言った。俺たちはそのまま寺の奥の自宅へと歩いて行った。
「花宮住職には、うちの寺でやってきたことをそのままお伝えしておいた。うちの場合確かに映画のヒットは大きかったが、とにかく寺の名物となるようなものを作ることと、それをPRすることが大事だと伝えておいた。メディアによるPRはもちろんだが、今はやっぱりSNSだ」
夕食の時間、兄貴は今日花宮のお父さんを案内した時の様子を話してくれた。
「特に若い女性からのインタスグラムが効果が高い。本当はあのお嬢さんに発信してもらうといいと思ったのだが……」
「それは今は無理だと思う。以前ストーカーまがいの被害を受けたらしいんだ」
「ああ、その話は聞いた。ご住職もお嬢さんが高校生の間はそういう活動をさせたくないと話されていたよ」
たしかに花宮がそれこそ巫女装束で情報発信したら、絶対にバズる。でも……今はその時期じゃないだろう。
俺は食事を済ませて風呂に入り、部屋に戻る。スマホを見ると、1件の着信。
花宮:今日はいろいろありがとう。夏休み中に雄君も誘って、勉強会しようね!
『琴ちゃんから?』
「ん? ああ、今日はありがとうって」
『そっかぁ……そうそう、そういえば琴ちゃんのおみくじの恋愛運、なんて書いてあったか知りたいでしょ?』
「ん? ああ……でも何度も言ってるけどな、勝手に人のものを見るのは良くないぞ」
すると俺のスマホが震え、ピコンと音を立てる。Limeのメッセージだ。確認すると花宮から写真が送られてきた。よく見ると……
「ん? これはおみくじだな」
『え? 琴ちゃん、自分で送ってきたの? うわー、やるなー』
りんはちょっと冷やかすような声色で、そう言った。
俺は写真を拡大する。おみくじの上部には、大きな文字で中吉と書いてある。今日花宮が引いて持ち帰ったやつだ。それぞれの項目は、総じて良い内容だ。そして……その恋愛運にはこう記されていた。
恋愛運:待ち人、眼前に現る
『ふふっ、顔真っ赤にしてる琴ちゃんが目に浮かぶなー』
俺はそれを見て、花宮がおみくじを引いたときの仕草を思い出す。何故か急に頬を紅潮させ、その後も俺の顔をちらちらと恥ずかしそうに見上げていた。そして……そのおみくじを結ばずに丁寧に折りたたんで持ち帰った。
それを思い出した俺は……悶絶し、確実にキュン死した。
◆◆◆
8月も半ばが過ぎた。俺の夏休みはあいかわらず修行・家の手伝い・宿題の毎日だ。ただ修行がなかなかハードで、家に帰って自室に戻って昼寝をすることも多くなった。俺が昼寝をする時は霊壁を張るので、りんもかまってもらえず退屈そうだ。
8月20日を過ぎても、学校の宿題が半分以上残ってしまっていた。これはマジでヤバい。夏休みの宿題をやっておかないと、内申点に響いてくる。そうすると栄花大学への推薦が取れない可能性も出てくる。
俺は「アパートに戻って、友達に宿題を手伝ってもらうようにしたい」と正直にオヤジに話した。
オヤジは「仕方ないのう」と笑っていたが、兄貴から「夏休みの宿題なんかは、最初の10日ぐらいで終わるはずだろ?」と小言を言われた。ただ……俺は兄貴のような明晰な頭脳を持ち合わせていない。仕方ないだろ?
翌日俺は荷物をまとめ、バスと電車を駆使してアパートへ戻った。美久には「なんでこんなに早く帰っちゃうのよ!」と縋《すが》りつかれたが、なんとか振り切って実家を出てきた。
実家に戻る電車の中で、俺は雄介と花宮とのグループLimeを開く。
城之内:雄介、宿題がヤバい。助けてくれ。
花宮:雄君、私からもお願い!
俺が書き込むと、花宮も便乗した。しばらくすると雄介から返事が。
雄介:しょうーがねーな……たまたま明日なら予定あいてるぞ。3人で集まるか?
さすが救世主! 俺と花宮は即OK、翌日3人で集まることにした。
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