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前編
おみくじ
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「ところでさ。城之内君、宿題やってる?」
「ん? ああ、やってるけど……なかなか進まなくて困ってるんだよ」
「そーなの、私も! なんかボリューム凄く多くない?」
「絶対多いよな。1年の時と比べて難しいのが多いし」
俺は修行の合間に宿題をやるようにしているのだが、これが結構難しい。やはり高1と高2のレベルの差が大きく、去年のようなペースでできると思っていたら全然進まなくて困っているところだった。
「そうだよね……ねえ城之内君、ここには夏休みの終わりまでいる予定なの?」
「いや、まだ予定は決めてないけど」
「最後の1週間とかさ、一緒に宿題できないかな? また雄君にも参加してもらったら、教えてもらえるかもしれないし」
「あ、それはナイスアイデアだな」
「でしょでしょ?」
わからないところは是非雄介に教えてもらいたいし、俺だって花宮に会いたい。それに……できれば8月の終わりに、俺は花宮に一度会っておきたい。
「ちょっとオヤジに相談してみるよ。多分反対はしないと思う」
「本当に? やったー! それでもし余裕ができたら、また遊びにいこうよ。せっかくの夏休みなんだしさ」
「それもいいな。そうしよう」
『ナオ、アタシも連れてってよ!』
よく考えたら、高2の夏休みなんて一番遊べる時期じゃないか。修行も大事だけど、今しかできないことをやらないとな。りんも一緒に皆で遊びに行ければ、そんなの楽しいに決まってる。
俺たちは立ち上がって再び歩き出した。敷地の奥には林の中を散策できる遊歩道がある。食後の運動にはちょうどいいだろう。
奥の遊歩道は木々に囲まれ、日差しが遮られている。この時間帯でも少しひんやりして、汗ばむ俺たちにはちょうどいい。
俺は花宮と二人で歩きながら、いろんな話をした。家族の話、学校での話、自宅のお寺の話、花宮のバイトの話……俺は今まで知らなかった花宮の一面を知ることができて、とても興味深かった。
「さて、じゃあおみくじ引かないとね」
花宮の声が弾んだ。遊歩道から戻った俺たちは、おみくじの販売所へ向かう。一人100円づつ払って、おみくじを引いた。
俺のおみくじは「末吉」だった。良いのか悪いのか……ただひとつ目を引いたのが、恋愛運の欄。
恋愛運:総じて吉、ただし二股厳禁
「二股厳禁って……ひとりだっていないってのに」
「城之内君、どうだった?」
「ん? ああ、末吉だって。いいのか悪いのかわからん」
「そうなんだ。どれどれ、私は……あ、中吉だって。悪くないよね?」
花宮は自分のおみくじを開けながら、そう訊いてきた。
「それはかなり良い方だ。中吉の上は大吉なんだから」
「本当? そっかぁ、やったぁ」
花宮は嬉しそうに笑っている。こういう花宮の自然な笑顔をスマホで撮りたいな……俺はそんな事を思った。
「俺の恋愛運なんてひどいぞ。これ」
俺は自分のおみくじを、花宮の方に向けて見せた。
「見せて見せて……え、二股厳禁?」
「ひどくね? ひとりだっていないのに」
「あははっ、でも実は城之内君、ひそかに人気あったりして?」
「んなわけないだろ」
わかんないよーとか言いながら、花宮はまだ笑っている。
「どれどれ、私の恋愛運は、っと……」『琴ちゃんのおみくじ、見ちゃおーっと』
りんは花宮の背後にスーっと移動して、花宮のおみくじを盗み見る。俺が「おいっ」と注意をしても、りんは『いいからいいから』と取り合わない。
おみくじを見た花宮は「えっ」と小さく口にした後、俺に視線をあげた。と思ったら……なぜか急に頬を朱色に染めた。その後ろでりんが『おーー』とか声をあげている。
「? どうした、花宮?」
「へっ? あ、うん……えっと、恋愛運あんまりいいこと書いてなくて」
そう言って花宮は、手にしたおみくじを丁寧に畳んでしまった。
「ああ、そんなことか。所詮はおみくじだからな。いいことだけ信じておけばいいんじゃないか?」
「う、うん。そうだよね」
花宮だってお寺の娘なのに、そんなことを気にするんだな。俺は意外だった。
それから俺たちは境内の横にある、おみくじを結ぶ場所へ移動した。その間も花宮は、俺の顔をちらちらと恥ずかしそうに見上げてくる。いったいどうしたんだ?
俺が先に自分のおみくじを結んでいると……
「ねえ城之内君。このおみくじ、持って帰ってもいいよね?」
「ん? ああ、もちろん。でもあんまりいいことが書いてなかったんじゃ」
「いいのいいの! せっかくの記念だしね。やっぱり持って帰ろっと」
そう言って花宮は、おみくじを小さなカバンの中にそっとしまい込んだ。花宮の一連の行動を不思議に思った俺は、何気なくりんに視線を送る。
『ねぇ、知りたい? 知りたいよね? 琴ちゃんのおみくじになんて書いてあったか!』
りんはウキウキで、もったいぶって言い出す。
『あとで教えてあげるね。今教えたら、ナオ絶対キュン死するから』
なんだそれ? と思いながら、俺は花宮と再び社務所に向かって歩き出す。そこにはオヤジと兄貴、それに花宮のお父さんの3人が揃っていた。
「ん? ああ、やってるけど……なかなか進まなくて困ってるんだよ」
「そーなの、私も! なんかボリューム凄く多くない?」
「絶対多いよな。1年の時と比べて難しいのが多いし」
俺は修行の合間に宿題をやるようにしているのだが、これが結構難しい。やはり高1と高2のレベルの差が大きく、去年のようなペースでできると思っていたら全然進まなくて困っているところだった。
「そうだよね……ねえ城之内君、ここには夏休みの終わりまでいる予定なの?」
「いや、まだ予定は決めてないけど」
「最後の1週間とかさ、一緒に宿題できないかな? また雄君にも参加してもらったら、教えてもらえるかもしれないし」
「あ、それはナイスアイデアだな」
「でしょでしょ?」
わからないところは是非雄介に教えてもらいたいし、俺だって花宮に会いたい。それに……できれば8月の終わりに、俺は花宮に一度会っておきたい。
「ちょっとオヤジに相談してみるよ。多分反対はしないと思う」
「本当に? やったー! それでもし余裕ができたら、また遊びにいこうよ。せっかくの夏休みなんだしさ」
「それもいいな。そうしよう」
『ナオ、アタシも連れてってよ!』
よく考えたら、高2の夏休みなんて一番遊べる時期じゃないか。修行も大事だけど、今しかできないことをやらないとな。りんも一緒に皆で遊びに行ければ、そんなの楽しいに決まってる。
俺たちは立ち上がって再び歩き出した。敷地の奥には林の中を散策できる遊歩道がある。食後の運動にはちょうどいいだろう。
奥の遊歩道は木々に囲まれ、日差しが遮られている。この時間帯でも少しひんやりして、汗ばむ俺たちにはちょうどいい。
俺は花宮と二人で歩きながら、いろんな話をした。家族の話、学校での話、自宅のお寺の話、花宮のバイトの話……俺は今まで知らなかった花宮の一面を知ることができて、とても興味深かった。
「さて、じゃあおみくじ引かないとね」
花宮の声が弾んだ。遊歩道から戻った俺たちは、おみくじの販売所へ向かう。一人100円づつ払って、おみくじを引いた。
俺のおみくじは「末吉」だった。良いのか悪いのか……ただひとつ目を引いたのが、恋愛運の欄。
恋愛運:総じて吉、ただし二股厳禁
「二股厳禁って……ひとりだっていないってのに」
「城之内君、どうだった?」
「ん? ああ、末吉だって。いいのか悪いのかわからん」
「そうなんだ。どれどれ、私は……あ、中吉だって。悪くないよね?」
花宮は自分のおみくじを開けながら、そう訊いてきた。
「それはかなり良い方だ。中吉の上は大吉なんだから」
「本当? そっかぁ、やったぁ」
花宮は嬉しそうに笑っている。こういう花宮の自然な笑顔をスマホで撮りたいな……俺はそんな事を思った。
「俺の恋愛運なんてひどいぞ。これ」
俺は自分のおみくじを、花宮の方に向けて見せた。
「見せて見せて……え、二股厳禁?」
「ひどくね? ひとりだっていないのに」
「あははっ、でも実は城之内君、ひそかに人気あったりして?」
「んなわけないだろ」
わかんないよーとか言いながら、花宮はまだ笑っている。
「どれどれ、私の恋愛運は、っと……」『琴ちゃんのおみくじ、見ちゃおーっと』
りんは花宮の背後にスーっと移動して、花宮のおみくじを盗み見る。俺が「おいっ」と注意をしても、りんは『いいからいいから』と取り合わない。
おみくじを見た花宮は「えっ」と小さく口にした後、俺に視線をあげた。と思ったら……なぜか急に頬を朱色に染めた。その後ろでりんが『おーー』とか声をあげている。
「? どうした、花宮?」
「へっ? あ、うん……えっと、恋愛運あんまりいいこと書いてなくて」
そう言って花宮は、手にしたおみくじを丁寧に畳んでしまった。
「ああ、そんなことか。所詮はおみくじだからな。いいことだけ信じておけばいいんじゃないか?」
「う、うん。そうだよね」
花宮だってお寺の娘なのに、そんなことを気にするんだな。俺は意外だった。
それから俺たちは境内の横にある、おみくじを結ぶ場所へ移動した。その間も花宮は、俺の顔をちらちらと恥ずかしそうに見上げてくる。いったいどうしたんだ?
俺が先に自分のおみくじを結んでいると……
「ねえ城之内君。このおみくじ、持って帰ってもいいよね?」
「ん? ああ、もちろん。でもあんまりいいことが書いてなかったんじゃ」
「いいのいいの! せっかくの記念だしね。やっぱり持って帰ろっと」
そう言って花宮は、おみくじを小さなカバンの中にそっとしまい込んだ。花宮の一連の行動を不思議に思った俺は、何気なくりんに視線を送る。
『ねぇ、知りたい? 知りたいよね? 琴ちゃんのおみくじになんて書いてあったか!』
りんはウキウキで、もったいぶって言い出す。
『あとで教えてあげるね。今教えたら、ナオ絶対キュン死するから』
なんだそれ? と思いながら、俺は花宮と再び社務所に向かって歩き出す。そこにはオヤジと兄貴、それに花宮のお父さんの3人が揃っていた。
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