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前編
「?」「?」『?』
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りんが目を閉じると、りんの体はやがてゆっくりと光の粒となって少しずつ消えていく……ことはなかった。
というか……なにも起こらなかった。
「?」「?」『?』
りんは俺たちの目の前で目を閉じているが……消えることもなく成仏することもなく、そのまま動かない。しかし……あえて言うなら大きな変化が見られた。
りんの霊力が大幅に回復しているのだ。さっきまではりんの姿は消えてなくなるほど薄かったのだが、いまでは俺と出会った頃のようにくっきりと、はっきりとその姿が見える。
なにが起こったんだ?
『あ、あれ? なんで? 成仏するタイミングだと思ったんだけどな……』
りん自身、不思議そうにボヤいている。
「ああ、俺もりんの霊力が尽きそうな気配を感じていたが……今、りんの霊力はフルで回復した感じになってるぞ」
『そ、そうだよね? アタシも霊力が戻ったのはわかるんだけど……なんでだろ?』
俺もりんも首をかしげるばかりだった。
「ね、ねえ、城之内君」
俺の胸から離れた花宮が恥ずかしそうに、そして控えめに声を出した。
「どうした花宮? とりあえず……大丈夫か?」
「う、うん。私は大丈夫なんだけど……」
花宮は少し言いよどむ。
「そもそもりんちゃんが成仏できないのって、『こういうことがやりたかった』っていう思いが強いから、成仏できなかったってことだよね?」
「ああ、そうだ」
そんな思いが強かったりんは地縛霊としてこの世に残り、そして今その思いが達成された。だから成仏してもいいタイミングだったのだが……。
「だったらね……りんちゃんは今、もっとやりたいことができちゃったんじゃないかな?」
「……もっとやりたいこと?」
りんがもっとやりたいこと? いったい何があるっていうんだ?
「だって……あんなことされたら……その……それ以上のこと、もっとしたいって思っちゃうんじゃないかな」
「えっ……」
それ以上のことって……俺はりんの方に視線を送る。りんは明らかに動揺して、恥ずかしそうに下を向いている。
俺は少し冷静になって状況を整理する。りんは霊力が切れて成仏しそうだったが、俺とのキスで……それ以上のことを望む気持ちになり、霊力が一気に回復したと。こういうことか? でも……
「ということは、花宮も、その……りんと同じような気持に」
「わ、私のことは今はいいのっ!」
花宮は顔を真赤に染めて、胸の前で両手を小さく振ってあわあわしている。うわーやべぇ、超可愛い。それはそうと……
「りん」
『ひゃいっ!』
りんは驚いたように顔を上げた。
「お前……霊になってまで、その脳内が煩惱まみれっていうのは、どうかと思うぞ」
『う゛ー……恥ずかしいよ……恥ずかしすぎる! 誰かアタシを殺して! あ、もう死んでるんだった! お願い、誰かアタシを強制成仏させて!』
りんは頭から湯気が出そうなぐらい、羞恥にまみれていた。顔全体を紅潮させたりんの姿が、俺にはかなりはっきりと見えるようになっていた。俺はハァーッと静かに息を吐く。
「全く……でも仕方ないか。りん、その願いが成就されるかどうかわからんけど……とりあえずもう少し俺と、いや、俺と花宮と一緒にいよう」
『えっ? い、いいの?』りんは遠慮がちに小さな声でそう言った。
「いいも何も、他に方法がないだろ? それに……りんが亡くなったことには俺も関係しているわけだから、俺には最後まで責任をとる義務があると思う」
『あーもう、そんな風に言ってほしくないなぁ。だからアタシが死んだことにナオは関係ないんだって。あ、でも責任とってくれるんだったら、避妊しなくてもいいよね?』
「その責任じゃねーわ」
俺はツッコんだが……りんなりに気を遣ってボケてくれたんだろう。それでも俺の罪悪感は心の中でずっと残ると思う。その事は忘れちゃいけないんだ。
「でも私は嬉しいな。りんちゃんとまだ一緒にいられて。また3人で遊びに行ったりできるんだよね?」
『うん! アディショナルタイムがもうちょっと伸びちゃったけど、あと少しの間一緒に遊んでくれる?』
「もちろん! いっぱい遊びに行こうよ」
花宮も明るい声でそう言った。俺は二人の笑顔を見て、なんだかとても安心した。りんの魂は、もう少しこの世に留まることになった。俺とりんと花宮の物語も、もう少し続くことになるようだ。
というか……なにも起こらなかった。
「?」「?」『?』
りんは俺たちの目の前で目を閉じているが……消えることもなく成仏することもなく、そのまま動かない。しかし……あえて言うなら大きな変化が見られた。
りんの霊力が大幅に回復しているのだ。さっきまではりんの姿は消えてなくなるほど薄かったのだが、いまでは俺と出会った頃のようにくっきりと、はっきりとその姿が見える。
なにが起こったんだ?
『あ、あれ? なんで? 成仏するタイミングだと思ったんだけどな……』
りん自身、不思議そうにボヤいている。
「ああ、俺もりんの霊力が尽きそうな気配を感じていたが……今、りんの霊力はフルで回復した感じになってるぞ」
『そ、そうだよね? アタシも霊力が戻ったのはわかるんだけど……なんでだろ?』
俺もりんも首をかしげるばかりだった。
「ね、ねえ、城之内君」
俺の胸から離れた花宮が恥ずかしそうに、そして控えめに声を出した。
「どうした花宮? とりあえず……大丈夫か?」
「う、うん。私は大丈夫なんだけど……」
花宮は少し言いよどむ。
「そもそもりんちゃんが成仏できないのって、『こういうことがやりたかった』っていう思いが強いから、成仏できなかったってことだよね?」
「ああ、そうだ」
そんな思いが強かったりんは地縛霊としてこの世に残り、そして今その思いが達成された。だから成仏してもいいタイミングだったのだが……。
「だったらね……りんちゃんは今、もっとやりたいことができちゃったんじゃないかな?」
「……もっとやりたいこと?」
りんがもっとやりたいこと? いったい何があるっていうんだ?
「だって……あんなことされたら……その……それ以上のこと、もっとしたいって思っちゃうんじゃないかな」
「えっ……」
それ以上のことって……俺はりんの方に視線を送る。りんは明らかに動揺して、恥ずかしそうに下を向いている。
俺は少し冷静になって状況を整理する。りんは霊力が切れて成仏しそうだったが、俺とのキスで……それ以上のことを望む気持ちになり、霊力が一気に回復したと。こういうことか? でも……
「ということは、花宮も、その……りんと同じような気持に」
「わ、私のことは今はいいのっ!」
花宮は顔を真赤に染めて、胸の前で両手を小さく振ってあわあわしている。うわーやべぇ、超可愛い。それはそうと……
「りん」
『ひゃいっ!』
りんは驚いたように顔を上げた。
「お前……霊になってまで、その脳内が煩惱まみれっていうのは、どうかと思うぞ」
『う゛ー……恥ずかしいよ……恥ずかしすぎる! 誰かアタシを殺して! あ、もう死んでるんだった! お願い、誰かアタシを強制成仏させて!』
りんは頭から湯気が出そうなぐらい、羞恥にまみれていた。顔全体を紅潮させたりんの姿が、俺にはかなりはっきりと見えるようになっていた。俺はハァーッと静かに息を吐く。
「全く……でも仕方ないか。りん、その願いが成就されるかどうかわからんけど……とりあえずもう少し俺と、いや、俺と花宮と一緒にいよう」
『えっ? い、いいの?』りんは遠慮がちに小さな声でそう言った。
「いいも何も、他に方法がないだろ? それに……りんが亡くなったことには俺も関係しているわけだから、俺には最後まで責任をとる義務があると思う」
『あーもう、そんな風に言ってほしくないなぁ。だからアタシが死んだことにナオは関係ないんだって。あ、でも責任とってくれるんだったら、避妊しなくてもいいよね?』
「その責任じゃねーわ」
俺はツッコんだが……りんなりに気を遣ってボケてくれたんだろう。それでも俺の罪悪感は心の中でずっと残ると思う。その事は忘れちゃいけないんだ。
「でも私は嬉しいな。りんちゃんとまだ一緒にいられて。また3人で遊びに行ったりできるんだよね?」
『うん! アディショナルタイムがもうちょっと伸びちゃったけど、あと少しの間一緒に遊んでくれる?』
「もちろん! いっぱい遊びに行こうよ」
花宮も明るい声でそう言った。俺は二人の笑顔を見て、なんだかとても安心した。りんの魂は、もう少しこの世に留まることになった。俺とりんと花宮の物語も、もう少し続くことになるようだ。
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