君に打つ楔

ツヅミツヅ

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1、意外な再会

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「ねえ、美優。俺の事愛してる?」
 壱弥はスマホのカメラを美優に向けた。瞳の中に狂気の色を宿してそれと同じ位の熱量で愛おし気に美優を見つめた。
「あ、あいして……る……、……っ!!!! あっ! ダメっ!!」
 ぎっちりと荒縄で縛られた美優の身体がうねる。その度に荒縄はギリギリと美優の柔肌を締め付けた。
 二人の繋がっている処は熱く熟れ、壱弥の腰はどんどんスピードを上げていく。
「あ、おねがいっ!! 撮らないでっ!! ……あ……!! ダメっ! なか、出しちゃダメ!! お願い止めて! 抜いて! お願い! 壱弥っ! お願い! ああんっ! あ……っ! ああああっ!!!!」
 涙に濡れて昇り詰めていく美優の懇願を無視して、壱弥は遠慮なく美優の肚にその精をぶちまけた。
「ああああああっ!!! ダメ~~~~っ!!」
 必死で身を捩る美優も達してしまう。身体を仰け反らせてその快感をカメラの前で表した。
 二人の結合した部分は熱くドクドクと脈打ち、壱弥の猛茎を包み込んだ美優の柔襞はきゅうきゅうと締め付け壱弥の精を健気に搾り取っていた。
「……美優? 君は俺の物なんだよ? どうして嫌がるの?」
「……だって……赤ちゃん出来たら……」
「俺達は結婚するから問題ないよ? 美優は俺達の子供欲しくないの?」
 美優は涙を流す。壱弥の狂った瞳が決して自分を捕らえて離さない。
 どうしてこんなに自分に狂った様に執着しているのか、美優にはさっぱりわからない。
 幼い頃に少しの間遊んでいた期間があっただけの関係でしかなかった。
 壱弥の優し気な雰囲気からはとてもではないけど、こんな狂気を隠し持っているとは見抜けなかった。
 抗えずに日々を過ごしている間に、いつの間にかこんな関係になってしまっていた。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 両親が交通事故で死んでしまったのは17の初夏。
 その悩みや寂しさや不安をSNSに吐露していたら、親身に応えてくれたのがSETOという20代の男性だった。
 秋の終わりになった頃、SETOの提案で会ってみる事になった。
 待ち合わせの場所に行って見つけたSETOらしき人物はとても目立っている。
 何せ長身の優し気なイケメンだったので道行く女性達がたくさん振り返っていて美優は気後れした。
 スマホでメッセージを送ってみる。
『今着きました』
 そのイケメンはすぐにポケットのスマホを取り出した。
 指定されていた特徴、服装、少し長めの茶色い髪、そしてそのイケメンがスマホを打ち込むとすぐさま自分のスマホが反応した。間違いなく彼がSETOだ。
『こっちももう着いてるよ』
メッセージが送られてくる。
 あまりに一緒に歩くのに不釣り合いな気がして声をかけようか迷っていると、そのイケメンがこちらを振り向いた。
 そのイケメンは一瞬目を見開いて、自分に足早で駆け寄る。
「……美優ちゃん?」
「え? あの、えっと、はい、美優です……」
 SNSではmilkというHNを使っていた筈で、何故本名を知っているのだろう? 自分がどこかで本名が分かる様な事をしてしまったのだろうか?
 そんな疑問が浮かんでいると、SETOは答えた。
「……もしかして、milkちゃんだったりする?」
 その質問に更に混乱した美優は戸惑いを隠せずまじまじとSETOを見つめてしまう。
「覚えてないかな? 俺、美優ちゃんが小学1年生の夏休みにいっぱい遊んだ、壱弥だよ」
 小学1年生の夏には確かに印象に残っている思い出がある。
 おばあちゃんの家に預けられたという歳上の少年と毎日の様に遊んでいた。
「……壱弥君? 本当に?」
 美優が少し小首を傾げて壱弥に問いかけると壱弥は喜色を浮かべて微笑んだ。
「ああ、そう、壱弥だよ。覚えててくれたんだ。凄く嬉しい!」
「覚えてるよ! だって、あの夏は本当に凄く楽しかったもん」
「俺もあの夏は特別な夏だったよ! で、美優ちゃんがmilkちゃん?」
「うん、もしかして壱弥君、SETOさんなの?」
「そうだよ。凄い偶然だね! 奇跡だ」
「ホント、凄い偶然!」
「俺、ずっと美優ちゃんに会いたかったんだ」
 優しい笑顔で美優を見つめた壱弥はそっと美優の頭を撫でた。
 小さい頃によくやってくれた行為で、それは5歳年上の優しいお兄ちゃんという雰囲気の壱弥がしてくれるとなんとなく癒しになった。
 懐かしくそれを受けていると、壱弥がくすりと笑う気配がして少し恥ずかしくなり俯く。
「……美優ちゃんは変わらないね。さ、予約してる店行こうか」
 そういうと予約してくれているというイタリアンのお店に連れて行かれた。
 店の佇まいからして、高級そうな感じがしたので美優は意を決した。
「あの、私、その辺のファーストフードで食べるものだとばかり思ってたの、だから……」
 親が死んで、生命保険と学資保険をかけてくれていたとは言え、持ち家だった小さな家は売り、ここ最近マンションの一室を借りて一人暮らしを始めたばかり、収入源はバイトだけの高校生の美優にはあまりにも分不相応なお店だった。
 手持ちのない美優は恥を忍んで壱弥にその旨を伝える。
「そっか。じゃあ、再会のお祝いに今日は奢るよ。安心して」
「でも、そんな、悪いよ……」
「ん~……、じゃあ、また会って?」
「え、そんなん全然釣り合ってないよ」
「俺にとっては釣り合ってるから大丈夫。それに、色々相談にも乗ってあげたいし」
 両親を亡くしてから、叔父が色々手続きを手伝ってくれて何とか生活出来るようにはなった。
 しかし最近子供が生まれたばかりの叔父に頼っていては奥さんやその子供に申し訳ない。
 家を借りる保証人になってもらってるし、美優としてはこれ以上迷惑をかけたくなかった。
 SNSで悩みはもちろん、困った事にも相談に乗ってくれた優しい壱弥には出来ればこれからも会いたいと思った。
「……じゃあ、今度私が何か奢らせてもらうよ。こんな高いお店は無理だけど」
 微笑んでそう提案すると、壱弥は曖昧に笑ってメニューを手に取って美優に向ける。
「美優ちゃん、どれが好き? イヤじゃなかったらシェアしようか?」
「……えっと、シェアして欲しいかな。私好き嫌い無いから何でも大丈夫だよ」
「そっか。じゃあまずパスタ。何系が好き? トマト? クリーム? ここジェノベーゼも美味しいよ?」
 一つ一つを確認してオーダーを決めていく壱弥は頼もしく、でも決して押しつけがましくなく、物腰柔らかくリードしてくれる。
 親を失って、一人きりになってしまった美優にとっては、頼れる優しいお兄さんという感じの壱弥はとても魅力的な男性に見えた。
 お店の人と朗らかにやり取りをし終えて、改めて壱弥は美優に向き直った。
「遅くなったけど、ご両親の事、本当に大変だったね」
「ありがとう。でも壱弥君がネットでずっと聞いてくれてたから。支えてもらったよ」
 両親が事故死してから本当に色々と大変だった。
 横断歩道を通過中の両親はトラックに轢かれた。
 そのトラックの所属する会社の質が悪く事故交渉は難航した。叔父が弁護士を立てて今やっとなんとか交渉の席につけたという様な所だ。
 恐らく十代の女の子が交渉相手なので舐めてかかっていたのだろう。
 病院とのやり取りや葬式の準備、そういう煩雑な事務的な作業の心労をとてもではないけれど同じ年の友達には相談する事が出来なかった。
 そしてSNSでその心労や事故対応の悩みなどを吐き出していたら、壱弥が一番親身になって相談に乗ってくれた。
 とても慰められたし、励まされたし、壱弥のもたらしてくれた情報はとてもためになった。
 単発単発で親切にしてくれた人はたくさんいたけど、ずっと親身になってくれたのは壱弥だけだった。
「でも、どうしてそんなに気にしてくれたの?」
「……実はさ、milkちゃんと接してると、美優ちゃんを思い出したんだよね」
「そうなの?」
「美優ちゃんと同じ年の女の子が大変な目に遭ってると思ったら、放っておけなくて」
「……ずっと覚えててくれてたんだね……。本当に嬉しいよ」
 壱弥はテーブルに肘をつき、指を顔の前で組んだ。
「忘れた事なんてないよ? 俺にとっては本当にあの夏は特別な夏だったからね」
「……どうして?」
「あの後、実家で色々とあったんだ。まあ、今はもう落ち着いたけどね」
「そう……」
 立ち入った事は聞いてはいけない気がして、美優はそれ以上は聞かなかった。
「美優ちゃんのお母さん、あの夏突然美優ちゃんに連れて行かれた俺にそうめん御馳走してくれたんだよね」
 壱弥は懐古を表情に乗せて、美優を見た。
「お母さん、お客さん大歓迎だったからね。友達連れて行ったらすぐにおやつとか出してくれた」
 壱弥のその表情になんとなく嬉しくなって、美優もつられて笑顔になった。
「うん、その後いつも伺ったら、色々ご馳走してくれたよね。……またお会いしたかったな。本当に残念だよ」
 1年生と6年生では年齢が離れているので最初は少し警戒していた美優の母親だったが、家で美優と遊んでやる壱弥の態度や、家に訪ねて来た際の礼儀正しさや立ち居振る舞いを見て安心したようで、夏休みの最後の方には歓迎するようになっていた。
「きっとお母さんも壱弥君に会いたかったと思う。だって、お母さんったら、最後の方は結婚するなら壱弥君みたいな人がいいのよって何度も言う位壱弥君の事気に入ってたもの」
「そうなんだ。お母さんには気に入ってもらえてたんだね、良かった。で、美優ちゃんはどう答えてたの?」
 壱弥は微笑んで訊ねた。
 その表情があまりにも優し気で、美優はなんとなく恥ずかしくなって俯いてしまう。
「それは……内緒」
 とてもではないけれど言えない。『壱弥君のお嫁さんになる!』と無邪気に答えていたなどとは。

 そんな美優を壱弥は微笑みを崩さず、優しい瞳で見つめていた。


神崎美優(かんざきみゆう)
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