人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 夜になって、陛下と夕食を摂る。
「姫よ。儂が政務の間何をしている?」

 私は笑って答える。
「太公様のお部屋にお邪魔していますよ」

 陛下の眉が寄る。
「太公だと……?」

 私は出来るだけ笑顔で言う。
「はい、庭園を散歩中に別棟からお声が聞こえましたので、お伺いしてご挨拶をしてから、優しくして下さっています」

「あの爺は相変わらずか?」

「最近は少し身体が弱ってらっしゃるみたいですが、たくさん色んな事を教えて下さいますよ。昔のグリムヒルトを知れるいい機会です」

「昔話を聞かされてるのか。奴に付き合ってやる必要はないぞ?」
 陛下は眉間に皺が寄って、不愉快そうな顔で言う

「私が楽しくて太公様のお部屋にお邪魔しているんです」

「あの耄碌爺と一緒にいて何が楽しいのか」

「私の知らない事をたくさんご存知なので、お話ししていて楽しいですよ。ちょっと頑固な所もおありですけど、お優しい方です」

「恨み辛みを聞かされているだろう?」

「恨み辛み……ですか?」

 陛下はその顔に表情を乗せる事なく言う。
「あの爺は儂が行った粛清を怨んでおるからな」
「粛清……」
 太公様の仰った言葉が陛下からも出て来て、つい呟いてしまう。

「儂が太公の側近達を粛清した。奴らの汚職を暴いて儂が処遇を決めた。太公は処遇の重さに不満を持っておるし、そもそも汚職も儂が捏造したと思っておる」

 本当に汚職があったのなら、仕方ない事だったのだろうと思う。
 その時はそうするしかないという事情があるのも理解出来る。
 でも、太公様の仰る通り処遇に情状は容れる事は出来なかったのだろうか……?

 そんな事を考えて黙っていると、難しい顔になってしまっていた様だ。

「儂が怖くなったか?」
 笑い含みで陛下が言う。

「いえ。少し悩んでしまって」

「悩む?」

「陛下がなさらなかったら、ずっと奸臣がのさばっていたでしょうし……。でも、太公様が苦楽を共に…tと仰っていたので、その方達は多少なりと国への貢献があったのでしょうし……。そう考えたら、難しくて悩んでしまいました」

 陛下は自嘲気味に笑った。
「そうだな。姫の言う通りだ。実際、酌量の余地のある者もあった。だが、後々の影響を考え儂は面倒を厭うた。姫の様に煩う事を放棄したのだ。」

「でも陛下は今もそれを悩んでおられるではないですか」
 私は確信を持って言う。

「それで正しかったのか、
 でもその時はやはりそうするしかなかったから、
 その事を今でも悩んでいるから、その様に自嘲なさるのでしょう?」

「…………姫よ。あまり儂を見透かすな」
 陛下は複雑な微笑を浮かべて、私に言った。

 ……だって……何故だかわかってしまうんだもの……。
 そう思ったけど、内緒にしておいた。

「儂の威光の下支えは軍しかない。それほどに太公の朝は強固だった。
 互いに絡み合う汚職で監視し合う意味もあったのだろう。不本意な形で汚職に手を染めた者もあったが、誰に酌量を与え誰に与えぬか、その吟味だけでも膨大な時間がかかったのだ。頭数も多かったからな。それ故略式で法に則り処遇した。皆斬首だ」

「太公様はその事をご存知なかったのですね……」
 太公様も気の毒だと思う。
 信頼していた臣下は皆んなで裏切っていたのだから。

「あの爺は人の良い所がある。初代が国の基礎を作り、祖父様が侵略を進めたならば、あの爺は王国としての則や権威や体裁といったものの基礎を作った。その代わりに海賊として持っていた気概を失い、矜持だけが遺った。地の民への差別は未だ健在だ。今やほぼ混血になっておるのに、搾取される側として存在している。これはあの爺の功績であり罪過だ」

 陛下は食事を続けながら語る。

 私はふと、グリムヒルトに来る時に海に流されていた人を思い出す。
 とてもやつれて、目だけがギョロリとしていた。
 絶対に許さないと怨みを込めて言って息絶えた男の人。
 その人の人生を思うと悲しい気持ちになった。

 顔に出ていたのか、陛下は少し意地悪な顔で言う。
「どうした? 食わぬのか?」

「あっ、はいっ! 食べます!」
 私は慌てて返事して、ナイフとフォークを動かす。

「……儂は不甲斐ない王だろう?これをどうにもせずにいる。……幻滅したか?」
 陛下は意地悪な顔のまま、少し笑う。

「幻滅なんてしません。そんな事思う位ならずっとずっと、何度だって御諌めし続けます」
 きっぱりと宣言する。

 ……だって、私には陛下がその事にも御心を痛めている事がわかってしまうから……
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