人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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30、閑話 –貪婪–

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 太公様のご葬儀から1週間。
 私は時間に余裕が出来たので、出来るだけ図書の間に行って勉強している。

 太公様の葬儀を主宰して、自分が如何にこの国の事を知らないのかよくわかった。
 陛下は良い葬儀だったと褒めてくれたけど、
 家の格がわからないので、席の位置一つとっても自分では判断がつかなかったり、
 本当にわからない事だらけだった。

 いっそ、他大陸の国々の様に爵位が有ればわかりやすいのにと思ったりする。
 でもこの国にも、このシビディア大陸の国々にも爵位はない。
 爵位は明確に身分差を示してしまうから、あまりいいものじゃないのでしょうけど。

 それから、頂いた財産の中でしっかり管理しないといけないのが、件のエメラルド鉱山の島。たくさんの人が鉱山に関わってる様で、私はその雇い主という事になるらしい。なので近い内ちゃんと観に行かせてもらおうと思う。

 行きたいと言ったら陛下は行かせてくれるかな?
 もしかしたら、やはり私は人質だからダメだと言われるかしら?
 だったら誰かについて来てもらわないといけないなぁ……。

 勉強に飽きてしまってボンヤリそんな事を考えてる。

 ああ、ダメだ。
 飽きてる時点で頭に入らない。
 お散歩でもして気分転換しよう!

 そう思って図書の間を出る。
 庭に出て図書の間の裏側に回ってみる。

 別棟の大きな塔があった。
 なんだか大きな塔は少し不気味な雰囲気を放っていた。
 ……なんだろう……怖い……この塔……

「どうした?姫」
 急に後ろから声がかかって、心臓が縮み上がる。
「……っ!へ、陛下……! びっくりしました……。」
 私は振り返り、声の主を確認して安堵する。

「何をそんなに驚いておる」
 陛下は少し意地悪な顔をしていた。

「……ちょっとあの塔が怖いなぁなんて思っていたものですから……」
 未だドクドク音を立てる心臓を慰めながら陛下に言う。

「……入ってみるか?」
 陛下の顔から表情が消える。

「……いいのですか?」
 怖いけど、好奇心はムクムク湧いてくる。

「ああ、構わぬ。入るぞ」
 陛下に促されて塔の入り口に向かう。
 重そうな扉を陛下は軽々と押し開けた。

 小さな光取り以外窓も何もない。
 昼間と思えないほど暗くて、周囲に目が慣れるまで時間がかかった。

「姫、魔法でこの蝋燭に火はつけられるか?」
 陛下がそっと私の肩に触れ、蝋燭のついた燭台を指差した。
「はい、わかりました。」
 魔法で蝋燭に火を灯す。

 少し周りの様子がわかって来ると、
 たくさんの部屋が牢屋になっていて、
 手錠や手枷、足枷が天井や壁から吊るされているのがわかった。

「……ここは?」
 私は怖くなって身を竦める。

「ここは祖父様が女を閉じ込めて拷問して犯した部屋だ」
 陛下は事もなげに言う。

「……女の人達は、どうなったのですか?」
 陛下のお祖父様はとても怖い方だったとは聞いていたし、史書で読む行いは私はどうしても好きになれなかった。

「さぁな。死んだ者もいただろうし生きて子を成した者もいたのだろう。
 グランクヴィスト家以外の王家の血統、ハーヴィスト家、リーンヴィスト家、ドルムヴィスト家の3家は祖父様の子らが始まりだ。
 これらは流石に正妃の子らという事になっているがな」

 ここで酷い目に遭って死んだ人がいるんだと思うと、更に身が竦む。
 女の人達はどんな気持ちでここにいただろう…

「……姫」
 陛下が私の肩を押さえ、壁際へ追いやった。
「……?」
 私は怖くて上手く声が出ない。

「儂も祖父様と同じなのだ。
 ここに姫を閉じ込めても良いか?」
 陛下が顔を近づけて、私に訊ねる。

 少し想像する。
 一人でこの塔にいる事を……。

 ダメだ。怖くて涙が滲んでしまう。
「……でしたら、ひとつだけお願いがあります……」
「なんだ?」

「どうか夜だけは、一緒にいて下さい……」

 陛下が突然私を抱き締める。
「姫……お前はどうして何もかも儂に許してしまう……」

 何故許すという事になるのかよく分からなくてオウム返ししてしまう。
「許す……?」
「……儂が怖くはないのか?」

「……陛下は怖くありませんけど……ここは怖いです。一人で夜ここにいたら怖くて仕方ないと思いますけど……、陛下がいて下さったら、怖いのも平気です」
 私は抱き締める陛下の腕に優しく触れた。

 こうして抱き締められるのが普通になって来ているけど、やっぱりまだちょっと照れ臭い。

 陛下はしばらく私を抱きしめた。
「……姫には敵いそうもない」
 陛下は私を離してふわりと笑う。

 私も釣られて笑ってしまう。
 二人で塔を出て、眩しい太陽を見て、

 私はどこだって、陛下がいれば大丈夫なんだな、と改めて実感した。
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