アイツのきもち

うにたん

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最終話 エピローグ

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 透が悠里にプロポーズ、明日奈が悠里の姉となる決意をして三年後。
 
 この日は透と悠里の結婚式。
 
 季節は初夏で太陽が輝き空は雲一つなく冴え渡っている。
 
 透と悠里は挙式の為のメイクや衣装などの準備中であるため、明日奈は暇をつぶそうとしていたが、陽気の良さにじっとしていると眠くなってしまいそうだったため、時間まで周辺をぶらぶらしていた。
 
 その最中に明日奈を探しに来たであろう瑞樹に呼び止められた。
 
「ここに居たんだ。探したよ、明日奈」

「瑞樹……」

 二人は近くのベンチに移動して並んで座っていた。

 瑞樹は明日奈の服装を上から下までじっくりと眺めて感心している様だった。
 
「へぇ、さまになってるじゃない。タキシード姿…… 良く似合うわよ」

「それは喜んでいいのか悩むところね」

「まさか明日奈がエスコート役まで買って出るとはね」

「瑠璃さんからお願いされたからね。断るわけには行かないでしょう」

「悠里ちゃんのお父さんって確か……」

「うん、小さい頃に病気でね…… 私も葬儀に参加してたから今も覚えてる」

「……そっか…… だから悠里ちゃんって家族意識がやたら強い所があったんだ」

「そう? 私は分からなかったけど……」

「アンタはあの頃、悠里ちゃんをモノにしようと暴走してたから気付いてなかったと思うけどさ。恋人なんて大抵は関係が拗れちゃえば「はい、それまで」になるじゃん。でも家族ってそんな簡単に縁が切れる存在じゃないでしょ。だから悠里ちゃんは明日奈に心の拠り所……家族になって欲しかったんだと思うよ」

「……もっと早く話が出来れば、高校時代を無駄にしないですんだのかな」

「どうかな? そんな話をしたところで高校時代の明日奈が納得するとは思えないけど……」

「否定できない所が辛いわね」

「それはそうと、プロポーズから結婚式まで結構時間が掛かったよね。やっぱあの話って本当なの?」

 やはり瑞樹にも勘づかれていたかと明日奈は困ったように頭をぽりぽり掻いていた。

「私はそんな事よりさっさと式を挙げろっていったんだけどね。二人がどうしてもって断固聞かなくて……」

 呆れ顔をしている明日奈をよそに瑞樹はその明日奈を見て笑っている。

「やっぱアンタ滅茶苦茶愛されてるじゃん。なーにが悠里ちゃんの心を自分で一杯に……だよ。最初から悠里ちゃんの中は明日奈で一杯じゃん。下手すると一条君以上だね」

「そろそろ時間よ…… 悠里の所へ行ってくるわ」

 瑞樹の言葉を遮って時間と言ってその場を立ち去っていく明日奈は過去の自分の言動が今更恥ずかしくなったのか、耳を真っ赤にして悠里の元に向かっていった。
 
 明日奈は悠里の控室をノックして「どうぞ」という言葉を聞き、中に入る。
 
 そこにいたのは、ウェディングドレスを身に纏った悠里だった。
 
 メイクの方も終わっていたみたいで悠里は明日奈の方を向くとようやく来てくれたかと言う笑顔を向けていたが、少し恥ずかしそうにもしていた。
 
「ど、どうかな…… 変じゃないかな?」

「世界……なんて生温い、宇宙を飛び越えて銀河一美しいわ……」
 
「大袈裟だよ、お姉ちゃん」

 明日奈の発言にメイク担当、衣装担当スタッフも明日奈の表現にうんうんと頷いている。

 教会スタッフの人に促されて、指定の場所まで移動する。
 
 先に新郎である透は先に会場に入っており、後は新婦である悠里が入るのを待つだけ。
 
 入場前にベールダウンの儀式を行うために瑠璃が悠里に近づいてくる。
 
「とうとうお母さんの手を離れて、お嫁さんになっちゃうのよね…… 寂しくなっちゃうけど、天国のお父さんもきっと喜んでるわ 透君と幸せになりなさい」

「うん、今までありがとうございました。透君と幸せになります…… それにお姉ちゃんもいるしね」

「そうだったわね。明日奈ちゃん、これからも・・・・・二人の事をよろしくね」

 やはり明日奈はあまり乗り気ではないようだが、既に二人の言う通りにしているため、後悔しても後の祭りである。
 
「ほ、本当にいいのか今でも悩むのだけれど……」

 悠里と明日奈は会場前の扉の前に立ち、開かれるのを待つ。
 
 会場内でアナウンスが流れ、新婦入場の言葉と共に扉が開かれる。
 
 悠里はエスコート役の明日奈と腕を組み、バージンロードを一歩、一歩、ゆっくりと進んでいく。
 
 参加している小中学校、高校の同級生たちが悠里のウェディングドレス姿に目を奪われながら二人を見守っている。
 
 新郎の受け渡し前まで歩むと、明日奈が透に小声で話しかける。
 
「三年前より少しはマシにはなった様だけど、悠里に悲しい思いをさせたら…… 解ってるわね? 

「わかってるよ、義姉ねえさん」
 
 悠里は明日奈から透の腕を組み、牧師に従い、誓約と指輪の交換を行っている。
 
 明日奈は瑠璃の隣まで行き、二人の様子を見守っている。
 
 瑠璃がこっそりと小声で話しかけて来た。
 
「新居の住み心地はどう?」

「えっと…… 住み心地は自体良いんですけど…… なんか新婚夫婦の邪魔をしている様で心苦しい所はありますけど……」

「でもあの二人が熱望したんでしょ? ならお姉ちゃんとして答えてあげなきゃね。三人家族としてこれからもよろしくね」

「は、はぁ……」

 いくら二人が熱望したとはいえ、なんで自分が新婚夫婦の中に入っているのか未だに悩んでいるが、その最中に透と悠里が誓いのキスをして恙なく、式は終了した。
 
 最も大事な瞬間を考え事をしていたせいで見逃した明日奈の表情は説明が出来ない程に絶望していた。







 結婚式から二年後。
 
 悠里は慌ただしくバタバタ動いていた。
 
 キッチンにはいつも以上の食材の量が台所に段ボールで置かれていた。
 
「今日は帰ってこれる日だから、いつも以上に料理を用意しないとね」

「風呂掃除、トイレ掃除と洗濯物を畳み終わったけど、他に何かする事ない?」

 キッチンに現れたのは、赤子を抱いた透だった。

「里緒菜の面倒を見てくれるだけでも助かるのにありがとうね」

 そんな夫婦の会話をしている最中にしきりに里緒菜が玄関を気にしている様だった。
 
 身を乗り出そうとして、玄関に手を伸ばしていた。その様子を見た透がそろそろかと時計を見ていた。

 直後、玄関のドアが開く音がして「ただいま~」と女性の声が聞こえて来た。

 その声を聞いて急いで玄関に向かう悠里。つられて透と里緒菜も玄関に向かう。
 
「おかえりなさい、お姉ちゃん」
 
「おかえり、義姉さん」
 
「ねんね、ねんね」
 
 里緒菜は腕を伸ばして明日奈に抱き着こうとする。

「着替えて来るから待ってなさい」
 
 夕食後、明日奈はリビングで里緒菜を抱いてあやしていると、里緒菜は明日奈の腕の中で眠っていた。
 
「ほんと、里緒菜ってお姉ちゃんに一番懐いてるよね。呼び方もパパ、ママよりもねぇねが先だったし……」

「普段から子供と接しているから子供が懐きやすいのかな」

 里緒菜が寝ている事を確認すると、悠里が明日奈を糾弾し始めた。
 
 ちなみに毎週行われる行事である。

「それはそうと、お姉ちゃん。どうして家を出たのよ! いつ帰ってくるのよ」

「またこの話なの…… だから何度も説明したでしょ。二年経つとはいえ、貴方達はまだ若いんだし…… 夫婦としての二人の時間が必要だと思ったからよ…… それにちゃんと金、土、日は戻るって約束はしたでしょう」

 現在、明日奈は勤務している学校近くのマンションに住んでいる。
 
 理由は子供も生まれて、三人家族の中に自分がいる事に違和感を感じたから。
 
 ただし、悠里と透は四人家族と思っており、お互いに認識齟齬が生まれているため、いつも悠里から責められることになる。

 その様子を透は面白おかしく見ている。
 
「最強の義姉さんも可愛い妹には勝てないか……」

「じゃあ何よ、透は悠里に勝てるの?」

「無理です……」
 
 こうして一条家の夜はいつも通りのノリで更けて行く。
 
 
 
 これはかつて男子から女子へと変貌した一人の人間を取り合った男女が紆余曲折あって一つの家族を形成して幸せを築くまでの物語である。
 

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