愛してると泣かれても迷惑です〜お姉様の身代わりに冷徹公爵へ嫁ぐ〜

恋せよ恋

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破滅へのカウントダウン

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 夜会を三日後に控え、ロレンタ侯爵邸の空気は、まるで火薬庫のように張り詰めていた。

 華やかな準備が進む表舞台の裏側で、マキシム様、サンドラお姉様、そして親友だったリーザ――私を裏切った三人の思惑が、醜く絡み合い、限界まで膨れ上がっていた。

「ジュリア、顔色が悪いわ。夜会を楽しみにしすぎているの?」

 朝のティータイム、サンドラお姉様が優雅にカップを置きながら私に微笑みかけた。その瞳は、獲物を追い詰める爬虫類のような冷たさを帯びている。彼女は、アレックス様が私に特別な関心を寄せていることに気づいてから、隠そうともしなかった傲慢さをさらに剥き出しにするようになっていた。

「ええ、お姉様。とても楽しみにしていますわ。……いろいろなことが、決着する夜になるでしょうから」

「……そう。楽しみだわ、あなたの『決着』が」

 姉の背後には、あの『狩猟の歴史』の本が置かれていた。彼女はマキシム様との不貞を隠すのをやめ、むしろ私に見せつけることで精神的に追い詰めようとしている。だが、彼女は知らない。その本の中にあった手紙が、すでにアレックス様の手元にあることを。

 一方、マキシム様はもはや正気とは思えない行動を繰り返していた。

 彼はリーザから届く暴露の脅迫に怯え、それを揉み消すために深夜の密会を重ね、ボロボロになった心で私の元へやってくる。

「ジュリア、愛している……。君だけなんだ。君さえいれば、僕は何もいらない」

 昼下がりのサロンで、マキシム様は私の膝に縋り付くようにして囁いた。その服からは、もはや私の香水ではなく、リーザの濃厚な香油と、姉の好む落ち着いた白檀の香りが混ざり合い、吐き気を催すような異臭となって漂っていた。

「マキシム様。私への愛を証明してくださるなら、夜会で『一番の贈り物』をくださいませんか?」

「贈り物? ああ、何でも言っておくれ。君が望むなら、星だって掴んでみせる!」

「――では、夜会の途中で、図書室へ来てください。そこで、二人きりで……。私のすべてを、あなたに捧げる準備をしていますわ」

 嘘が、スルスルと口から溢れ出した。

 マキシム様は歓喜に震え、私の手に何度も口づけを落とした。

「ああ……ついに! 待っていたよ、ジュリア。夜会の鐘が鳴る頃、必ず行く。誰にも邪魔させない!」

 彼は、自分が死地へと誘われているとも知らずに、狂ったような笑顔で屋敷を去っていった。

 彼が去った直後、壁のカーテンの陰からアレックス様が姿を現した。その灰色の瞳には、ゴミを見るような軽蔑の色が浮かんでいた。

「……あんな男のどこを好きだったのか、今の君には理解できまいな」

「ええ。夢を見ていただけなのです。けれど、もう目が覚めました」

 アレックス様は、私の震える肩を大きな手で包み込んだ。

「手筈は整った。リーザという令嬢にも、マキシムの名前で『夜会当日の図書室で、婚約破棄をして君を選ぶ』という偽の手紙を送っておいた。サンドラ嬢にも、同じ時刻にマキシムと待ち合わせるよう細工をしてある」

 アレックス様の罠は完璧だった。

 夜会の最中、人目に つかないはずの図書室に、マキシム様、サンドラお姉様、リーザの三人が集結する。そして、そこには私とアレックス様、さらには「娘たちの将来」を案じる両親と兄ダニエルを、偶然を装って案内する手筈になっていた。

「ご両親を傷つけることになる。覚悟はいいか?」

「……はい。一度壊れなければ、この家の膿は出せません」

 その夜、私は自室で最後の手紙を綴っていた。

 それは隣国のマイセン語で書かれた、アレックス様への「本当の」手紙。

『私を、この地獄から連れ去ってください。あなたの誠実さだけが、今の私の希望です』

 封を閉じ、窓の外を見つめると、遠くで雷鳴が轟いた。

 嵐の予感。
 
 私の初恋を、家族の信頼を、そして身勝手な裏切りを積み重ねたこの屋敷を、すべてを洗い流すための雨が降り始めようとしていた。

 マキシム様、お姉様、リーザ。あなたたちが共有したかった愛の正体を、社交界の光の下でたっぷりと見せて差し上げましょう。

 私の凛とした高潔さが、あなたたちの醜さを一番残酷に照らし出すその瞬間を、私は静かに待っていた。
______________

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