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贖罪の朝、甘すぎる檻
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カーテンの隙間から差し込む朝陽が、寝室の床に長い影を落としていた。
ゆっくりと瞼を開けると、すぐ目の前に整った顔立ちがあった。シモンだ。彼はいつから起きていたのか、肘をついて、瞬きも惜しむような情熱と、壊れ物を扱うような危うい眼差しで私を見つめていた。
「……おはよう、シモン」
声を出すと、昨夜の情熱の名残で喉が少し掠れていた。それを自覚した途端、一気に顔が熱くなる。
「おはよう、メルローズ。……よく眠れたか?」
シモンが私の頬を、羽毛で撫でるような優しさでなぞる。昨夜までの彼なら、ここで強引に引き寄せて独占欲を誇示していただろう。けれど、今の彼には、深い畏敬の念さえ感じられた。
「……ええ。なんだか、不思議な気分だわ」
「俺は、お前を失わずに済んだ幸運に、神へ感謝を捧げたい気分だ。……そして、昨夜のお前の言葉を思い出すたびに、自分の心臓を抉り出したくなる」
シモンが苦しげに眉を寄せた。彼は、私が五歳の時から彼に魂を捧げていたという事実を、今や重い十字架として背負っている。
「もういいのよ。昨夜、たくさん謝ってくれたでしょう?」
「いいわけがない。俺はお前の清らかな献身を知らず、身勝手な理由で他の女に触れた。……その汚れは、一生かけても拭いきれない。だから、せめてこれからは、お前の吐息ひとつ、髪の毛一本に至るまで、俺が跪いて守らせてくれ」
そう言うと、シモンは寝台から降り、床に片膝をついて私の手を取った。その瞳に宿る熱は、もはや信仰に近い執着へと進化していた。
邸の朝食会場へ向かう際、さらに驚くことが起きた。
シモンは私の隣を歩くだけでは飽き足らず、階段を下りる際も、椅子を引く際も、まるでお姫様を扱うように恭しく、それでいて一時も私の体から手を離そうとしなかった。
「シモン、やりすぎよ。お母様たちが見ているわ」
「構わない。俺がどれほどお前を愛し、敬っているか、家中の者に知らしめる必要がある。二度と、お前を『放蕩者の妹』などと呼ばせないために」
食卓には、母アマンダと義父オリビエ、そして弟のクロフォードが揃っていた。
「おはよう、シモン、メルローズ。……あら?」
母様が目を丸くした。シモンが私の背もたれに手を回し、甲斐甲斐しくジャムを塗ったパンを私の小皿に取り分けている姿を見たからだ。
「シモン、お前……なんだか、雰囲気が変わったな」
オリビエ様が驚きを隠せずに呟く。
「父上。私は、自分がどれほど愚かだったかをようやく理解したのです。メルローズは、私が命を賭して、そして魂を削ってでも尽くすべき女性だった」
シモンは真顔で、とんでもなく気恥ずかしい台詞を言い放った。
「え、兄様、なんだか怖いよ……。メル姉様、食べづらそうだよ?」
十歳になったクロフォードが困惑気味に言うと、シモンは冷徹な眼差しを弟に向けた。
「クロフォード。お前も、メルローズを敬え。彼女はリンガーとローデンの、至高の宝だ」
邸の使用人たちも、凍りついたように動けずにいる。
かつてのシモンは「ギラつく獣」か「氷の貴公子」だった。しかし今の彼は、メルローズという太陽の周りを回る、盲目的な衛星に変貌してしまったのだ。
午後に訪ねてきたノーマンお兄様も、その変貌ぶりには絶句するしかなかった。
「……シモン君。君、少し頭を冷やした方がいいんじゃないかな。メルローズが困っているよ」
庭園の東屋で、私とノーマンお兄様が話そうとするや否や、シモンが二人の間に割って入った。
「ノーマン殿。メルローズの籍をアマンドに置いてくれたことには感謝している。だが、もう必要ない。彼女の心は五歳の時から俺の家にあるのだから。……お前はもう、彼女に触れなくていい」
「触れてないよ! ただ、従妹として近況を聞こうと……」
「視線が触れている。その不浄な同情心を彼女に向けるな」
シモンはノーマンお兄様を追い払うように私の肩を抱き寄せ、耳元で独占欲たっぷりに囁いた。
「メルローズ。昨夜の続きをしよう。お前が俺のものだという証拠を、もっと深く、何度も刻み込みたいんだ……。お前の言う通り、俺の時間は一秒たりとも、お前以外のものにはしない」
これまでの恐怖や不安とは違う、甘ったるく、溶けてしまいそうなほどの「愛」の重圧。シモンの瞳は、今や私という光しか映していない。
彼は過去の放蕩を悔い、それを上書きするように私を甘やかし、縛り付け、溺れさせようとしている。
兄妹という枷が外れ、婚姻という法に守られ、そして、罪悪感という最強のスパイスを加えたシモンの執着は、以前よりもずっと逃げ場のない、芳醇な毒のように私の全身を巡っていく。
葡萄の木々が若葉を揺らす風の中、私はシモンの腕の中で、ようやく本当の意味で捕まったのだと悟った。
それは、世界で一番甘くて、残酷な、二人のための檻だった。
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ゆっくりと瞼を開けると、すぐ目の前に整った顔立ちがあった。シモンだ。彼はいつから起きていたのか、肘をついて、瞬きも惜しむような情熱と、壊れ物を扱うような危うい眼差しで私を見つめていた。
「……おはよう、シモン」
声を出すと、昨夜の情熱の名残で喉が少し掠れていた。それを自覚した途端、一気に顔が熱くなる。
「おはよう、メルローズ。……よく眠れたか?」
シモンが私の頬を、羽毛で撫でるような優しさでなぞる。昨夜までの彼なら、ここで強引に引き寄せて独占欲を誇示していただろう。けれど、今の彼には、深い畏敬の念さえ感じられた。
「……ええ。なんだか、不思議な気分だわ」
「俺は、お前を失わずに済んだ幸運に、神へ感謝を捧げたい気分だ。……そして、昨夜のお前の言葉を思い出すたびに、自分の心臓を抉り出したくなる」
シモンが苦しげに眉を寄せた。彼は、私が五歳の時から彼に魂を捧げていたという事実を、今や重い十字架として背負っている。
「もういいのよ。昨夜、たくさん謝ってくれたでしょう?」
「いいわけがない。俺はお前の清らかな献身を知らず、身勝手な理由で他の女に触れた。……その汚れは、一生かけても拭いきれない。だから、せめてこれからは、お前の吐息ひとつ、髪の毛一本に至るまで、俺が跪いて守らせてくれ」
そう言うと、シモンは寝台から降り、床に片膝をついて私の手を取った。その瞳に宿る熱は、もはや信仰に近い執着へと進化していた。
邸の朝食会場へ向かう際、さらに驚くことが起きた。
シモンは私の隣を歩くだけでは飽き足らず、階段を下りる際も、椅子を引く際も、まるでお姫様を扱うように恭しく、それでいて一時も私の体から手を離そうとしなかった。
「シモン、やりすぎよ。お母様たちが見ているわ」
「構わない。俺がどれほどお前を愛し、敬っているか、家中の者に知らしめる必要がある。二度と、お前を『放蕩者の妹』などと呼ばせないために」
食卓には、母アマンダと義父オリビエ、そして弟のクロフォードが揃っていた。
「おはよう、シモン、メルローズ。……あら?」
母様が目を丸くした。シモンが私の背もたれに手を回し、甲斐甲斐しくジャムを塗ったパンを私の小皿に取り分けている姿を見たからだ。
「シモン、お前……なんだか、雰囲気が変わったな」
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シモンは真顔で、とんでもなく気恥ずかしい台詞を言い放った。
「え、兄様、なんだか怖いよ……。メル姉様、食べづらそうだよ?」
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「クロフォード。お前も、メルローズを敬え。彼女はリンガーとローデンの、至高の宝だ」
邸の使用人たちも、凍りついたように動けずにいる。
かつてのシモンは「ギラつく獣」か「氷の貴公子」だった。しかし今の彼は、メルローズという太陽の周りを回る、盲目的な衛星に変貌してしまったのだ。
午後に訪ねてきたノーマンお兄様も、その変貌ぶりには絶句するしかなかった。
「……シモン君。君、少し頭を冷やした方がいいんじゃないかな。メルローズが困っているよ」
庭園の東屋で、私とノーマンお兄様が話そうとするや否や、シモンが二人の間に割って入った。
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「触れてないよ! ただ、従妹として近況を聞こうと……」
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シモンはノーマンお兄様を追い払うように私の肩を抱き寄せ、耳元で独占欲たっぷりに囁いた。
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彼は過去の放蕩を悔い、それを上書きするように私を甘やかし、縛り付け、溺れさせようとしている。
兄妹という枷が外れ、婚姻という法に守られ、そして、罪悪感という最強のスパイスを加えたシモンの執着は、以前よりもずっと逃げ場のない、芳醇な毒のように私の全身を巡っていく。
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