義兄妹になったその日、恋は帰る場所を失った

恋せよ恋

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紫紺の結実、甘やかなる領主夫妻

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 結婚から一年。リンガー子爵領とローデン伯爵領の境界線は、今や地図上の意味しか持たなくなっていた。

 二つの家門が真に一つとなり、生産と流通が完璧な調和を見せた結果、今年の葡萄は歴史的な大豊作を迎えていた。斜面を埋め尽くす紫紺の実は、かつてないほど大きく、重く、そして甘い。

「メルローズ、あまり身を乗り出すな。足元が濡れている」

 葡萄畑の視察中、少しでも私が斜面を歩こうとすれば、シモンの手が即座に私の腰を支える。

「大丈夫よ、シモン。私はこの畑で育ったんですもの。靴が汚れることくらい、何でもないわ」

「お前が何でもなくても、俺が耐えられない。お前の足に泥一粒つくことさえ、俺にとっては領地の損失に等しい」

 シモンは大真面目な顔でそう言うと、周囲に控える領民たちの前で、当然のように私を抱きかかえて平地まで運んだ。

 領民たちの間では、今や「ローデン伯爵家の若き当主は、領地よりも奥方を愛でることに忙しい」という噂が、微笑ましい美談として広まっている。

 かつて「氷の貴公子」と恐れられたシモンは、結婚後、その冷徹さをすべて領地経営の辣腕へと注ぎ込む一方で、私に対してだけは、時に度を越した溺愛を見せるようになっていた。

「シモン、皆が見ているわ。少しは自重して……」

「夫婦が仲睦まじいのは、領内の平穏の証だ。……それに、俺はまだ、お前を一人で歩かせることに不安を感じているんだ。あの時、お前が俺の手を離してアマンドへ行ってしまった時の恐怖が、いまだに夜の夢に出てくる」

 シモンが私の首筋、今では私の所有印となった、彼がつけた愛の痕を指先でなぞる。

 彼の独占欲は、結婚によって穏やかになったわけではなかった。むしろ、法的に、そして肉体的に私を手に入れたことで、その執着はより深く、静かな渇望へと洗練されていた。

 その日の夜。邸の書斎で書類に目を通していたシモンのもとへ、私は夜食の葡萄を持って訪れた。

「お疲れ様、シモン。今年のワインの輸出計画は順調?」

「ああ。アマンド伯爵家との提携も安定している。ノーマン殿も、最近ではようやく俺に毒を吐くのをやめて、仕事の話に専念してくれるようになったしな」

 シモンは羽ペンを置くと、椅子に座ったまま私を膝の上に引き上げた。

「……メルローズ。お前は今、幸せか?」

 唐突な問いに、私は彼を見つめた。シモンの瞳には、いまだに微かな罪悪感が、澱のように沈んでいることがある。自分が外で遊び歩いていたあの空白の時間が、私の中に消えない傷を残しているのではないかと、彼は今でも時折、確かめるように聞いてくるのだ。

「ええ。とても幸せよ。こうしてあなたの側にいて、葡萄の成長を見守れる。……それに、あなたがあの日、カサンドラ夫人たちの前で私を『盾』となって守ってくれた時から、私の中の不安は消えたの」

「……それでも、俺は一生後悔し続けるだろう。お前に寂しい思いをさせた。俺の初めてを、お前に捧げられなかったことを」

 シモンが私の手の甲に、何度も何度も、許しを請うような口づけを落とす。

「いいのよ、シモン。あなたは今、一分一秒を惜しんで私に愛を注いでくれている。……それにね、シモン。嬉しい知らせがあるの」
 私は彼の手を取り、そっと自分の腹部へと導いた。

「……え?」
 シモンの動きが止まった。いつも沈着冷静な彼の顔が、驚きと、信じられないという歓喜に染まっていく。

「……お前、まさか……」

「ええ。お医者様が言っていたわ。秋の収穫が終わる頃には、新しい家族が増えるって」

 シモンはしばらくの間、言葉を失って私の腹部を見つめていた。やがて、彼は震える手で私を抱きしめ、子供のように肩に顔を埋めた。

「ああ……神様……。俺のような罪深い男に、これほどまでの恩寵を与えてくださるのか……」
 彼の背中が、小刻みに震えている。

「メルローズ……ありがとう。ありがとう。俺はお前を、そしてこの子を、命にかえても守り抜く。……誰にも、指一本触れさせない。この領地も、富も、権力も、すべてはお前たちの安らぎのために捧げる」

 シモンの言葉には、かつてのギラついた危うさはもうなかった。そこにあるのは、愛する者を守るために強くなった、一人の「父親」としての覚悟だった。

 窓の外、月明かりに照らされた葡萄の海が、静かに波打っている。
 流行病で失われた命、歪な再婚、そして激しすぎたすれ違い。多くの荒波を越えて、私たちの物語は、ようやく最も豊かな「収穫期」を迎えようとしていた。

 シモンの腕の中。葡萄の甘い香りに包まれて、私は確信していた。
 私たちが紡いできたこの歪な恋は、これから生まれてくる新しい命と共に、さらに深く、さらに甘く、熟成されていくのだと。
______________

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