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永遠の葡萄園、愛の完成
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黄金色の夕陽が、たわわに実る葡萄の海を照らし出している。
リンガー・ローデン連合領。かつて二つの領地を隔てていた柵は今や完全に取り払われ、そこには国一番の生産量を誇る巨大な葡萄園が広がっていた。
「待ちなさい、リチャード! そんなに走っては転んでしまうわよ!」
私の声を無視して、小さな影が葡萄の畝の間を駆け抜けていく。シモンにそっくりな金色の髪をなびかせているのは、私たちの長男であるリチャードだ。その後ろを、私の面影がある五歳の娘エルザが、一生懸命に追いかけている。
「ふふ、メルローズ。心配しすぎだ。あいつは俺の息子だぞ。少々転んだくらいで泣くような柔な育て方はしていない」
背後から温かな体温が寄り添い、聞き慣れた低く甘い声が鼓膜を震わせる。シモンだ。
伯爵となった彼は、以前よりもさらに体格が逞しくなり、その佇まいには領主としての威厳が備わっていた。けれど、私を見つめる瞳の中に宿る熱量だけは、あの若かりし日のギラついた執着と何ら変わっていない。いや、年を重ねるごとに、その愛はより深く、重く、私を逃がさないように包み込んでいる。
「もう、シモン。貴方は子供たちに甘すぎるのよ。特にエルザには、将来の婚約者候補を今から全員不採用にする勢いなんですもの」
「当たり前だ。あんな有象無象の小倅どもに、俺の天使を渡せるわけがない。……エルザには、俺のように一途で、死ぬまで彼女だけを敬う男でなければ許さん」
シモンは真顔で言い切り、私の肩を抱き寄せた。その独占欲の強さに、私は呆れ半分、愛しさ半分で溜息をつく。
数年前、私たちが「義理の兄妹(同い年)」としてこの邸で暮らし始めた頃、誰が今のこの光景を想像できただろうか。
流行病で親を亡くし、絶望の中で結ばれた親たちの再婚。シモンが私を「妹」にしないために法的な裏工作を仕掛け、私を汚したくないという身勝手な理由で外へ女を求め、私を傷つけ、そして泣きながら跪いたあの日々。
今では、母アマンダと義父オリビエも隠居し、領地の別邸で穏やかに暮らしている。弟のクロフォードは立派に成長し、私の実家であるリンガーの名を継ぐべく、シモンのもとで領地経営を学んでいる。
そして、かつて私の避難場所となってくれたノーマンお兄様も、今や良きビジネスパートナーとして、私たちのワインを世界中へ届けてくれている。
「……何を考えている、メルローズ」
シモンが私の髪に顔を埋め、深く息を吸い込んだ。
「昔のことをね。……私たち、本当に遠回りをしたわねって」
「ああ。……俺が馬鹿だったせいで、お前には消えない傷を負わせた。……だが、俺はその傷も含めて、お前のすべてを愛している。今夜も、お前が俺だけのものだと、何度でも分からせてやるからな」
シモンの囁きに、顔が熱くなる。彼は今でも、毎晩のように私に愛を請う。まるで、あの数年間の放蕩を一生かけても埋め合わせられないと信じているかのように、狂おしいほどの情熱で私を抱きしめるのだ。
リチャードが立派な葡萄の一房を抱えて戻ってきた。
「父上!母上! 見てください、こんなに大きい!」
「ほう、いい実だ。……メルローズ、食べてみるか?」
シモンが葡萄を一粒もぎ、私の口元へと運ぶ。
十歳の時、初めて将来の婚約者として意識したあの日と同じ光景。
口の中に広がる甘酸っぱい果汁は、あの頃よりもずっと濃厚で、複雑な味わいがした。苦しみも、悲しみも、すべてを飲み込んで熟成された、私たちの人生そのものの味。
「美味しいわ。シモン」
「そうか。……なら、次は俺がいただくとしよう」
シモンは子供たちの視線を避けるように、葡萄の葉の影で私の唇を奪った。
微かに残る果汁の甘みと、彼の熱い体温。私は彼の手を強く握り返した。
かつて、私たちは「兄妹」という名の檻に閉じ込められそうになった。けれど、シモンの歪なまでの執念が、その檻を壊し、新しい愛の形を築き上げた。
不器用で、激しすぎて、お互いを傷つけるほどに激しくぶつかった私たちの恋は、今、この広大な葡萄園のように豊かに結実している。
たとえこの先、どんな嵐が訪れても。シモンの腕の中であれば、私はもう何も怖くない。この紫紺の宝石に彩られた領地で、私たちは永遠に、甘やかな契約を更新し続けていくのだ。
「愛してるよ、メルローズ。お前は俺の、たった一人の幼馴染で、そして、俺のすべてになった妻だ。もし先に逝くことがあったら、俺は迷わず追いかける。ずっと一緒だ…… 絶対に離さない」
「…… ふふ。私も愛しているわ、シモン。……世界で一番、不器用で一途な私の旦那様」
夕闇が葡萄園を包み込み、星が瞬き始める。
二人の影は重なり合い、どこまでも長く、深く、大地に刻まれていった。
______________
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リンガー・ローデン連合領。かつて二つの領地を隔てていた柵は今や完全に取り払われ、そこには国一番の生産量を誇る巨大な葡萄園が広がっていた。
「待ちなさい、リチャード! そんなに走っては転んでしまうわよ!」
私の声を無視して、小さな影が葡萄の畝の間を駆け抜けていく。シモンにそっくりな金色の髪をなびかせているのは、私たちの長男であるリチャードだ。その後ろを、私の面影がある五歳の娘エルザが、一生懸命に追いかけている。
「ふふ、メルローズ。心配しすぎだ。あいつは俺の息子だぞ。少々転んだくらいで泣くような柔な育て方はしていない」
背後から温かな体温が寄り添い、聞き慣れた低く甘い声が鼓膜を震わせる。シモンだ。
伯爵となった彼は、以前よりもさらに体格が逞しくなり、その佇まいには領主としての威厳が備わっていた。けれど、私を見つめる瞳の中に宿る熱量だけは、あの若かりし日のギラついた執着と何ら変わっていない。いや、年を重ねるごとに、その愛はより深く、重く、私を逃がさないように包み込んでいる。
「もう、シモン。貴方は子供たちに甘すぎるのよ。特にエルザには、将来の婚約者候補を今から全員不採用にする勢いなんですもの」
「当たり前だ。あんな有象無象の小倅どもに、俺の天使を渡せるわけがない。……エルザには、俺のように一途で、死ぬまで彼女だけを敬う男でなければ許さん」
シモンは真顔で言い切り、私の肩を抱き寄せた。その独占欲の強さに、私は呆れ半分、愛しさ半分で溜息をつく。
数年前、私たちが「義理の兄妹(同い年)」としてこの邸で暮らし始めた頃、誰が今のこの光景を想像できただろうか。
流行病で親を亡くし、絶望の中で結ばれた親たちの再婚。シモンが私を「妹」にしないために法的な裏工作を仕掛け、私を汚したくないという身勝手な理由で外へ女を求め、私を傷つけ、そして泣きながら跪いたあの日々。
今では、母アマンダと義父オリビエも隠居し、領地の別邸で穏やかに暮らしている。弟のクロフォードは立派に成長し、私の実家であるリンガーの名を継ぐべく、シモンのもとで領地経営を学んでいる。
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シモンの囁きに、顔が熱くなる。彼は今でも、毎晩のように私に愛を請う。まるで、あの数年間の放蕩を一生かけても埋め合わせられないと信じているかのように、狂おしいほどの情熱で私を抱きしめるのだ。
リチャードが立派な葡萄の一房を抱えて戻ってきた。
「父上!母上! 見てください、こんなに大きい!」
「ほう、いい実だ。……メルローズ、食べてみるか?」
シモンが葡萄を一粒もぎ、私の口元へと運ぶ。
十歳の時、初めて将来の婚約者として意識したあの日と同じ光景。
口の中に広がる甘酸っぱい果汁は、あの頃よりもずっと濃厚で、複雑な味わいがした。苦しみも、悲しみも、すべてを飲み込んで熟成された、私たちの人生そのものの味。
「美味しいわ。シモン」
「そうか。……なら、次は俺がいただくとしよう」
シモンは子供たちの視線を避けるように、葡萄の葉の影で私の唇を奪った。
微かに残る果汁の甘みと、彼の熱い体温。私は彼の手を強く握り返した。
かつて、私たちは「兄妹」という名の檻に閉じ込められそうになった。けれど、シモンの歪なまでの執念が、その檻を壊し、新しい愛の形を築き上げた。
不器用で、激しすぎて、お互いを傷つけるほどに激しくぶつかった私たちの恋は、今、この広大な葡萄園のように豊かに結実している。
たとえこの先、どんな嵐が訪れても。シモンの腕の中であれば、私はもう何も怖くない。この紫紺の宝石に彩られた領地で、私たちは永遠に、甘やかな契約を更新し続けていくのだ。
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「…… ふふ。私も愛しているわ、シモン。……世界で一番、不器用で一途な私の旦那様」
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