【完結】侯爵令嬢に毒された婚約者は、全てを失ってから私に縋る

恋せよ恋

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決裂の舞踏会

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 アルヴィス侯爵邸の広大な大広間は、煌びやかなシャンデリアの光と、着飾った貴族たちの熱気に包まれていた。

 今夜、ここで「重大な発表」がある。その噂を聞きつけた招待客たちは、期待と好奇の入り混じった表情で主役の登場を待っていた。

「リリア、見てくれ。この日のために、エレナ様が新調してくださった礼服だ」
 背後から声をかけてきたのは、白い絹に金糸の刺繍が施された、眩しいほどに豪華な衣装を纏ったカイルだった。その胸元には、あの日から外されることのない侯爵家の紋章が輝いている。

 彼は周囲の視線を「自分への羨望」だと信じ込み、顎を高く上げて私を見下ろした。
「……身の程を知らない格好ですね、カイル様」

「嫉妬は見苦しいぞ、リリア。君のような地味なドレスの女は、隅で指をくわえて僕の成功を見ていればいい」
 カイルは私の言葉を鼻で笑い、自信満々にホールの中心へと歩み寄った。

 そこに、真紅のドレスに身を包んだエレナ様が、アルベルト様のエスコートを受けて現れた。
エレナ様はカイルを見つけると、艶然と微笑んだ。カイルはその微笑みに当てられ、もはや自分が次期侯爵であると確信したようだ。

「静粛に!」

 ホールの奥から、厳格な面持ちのアルヴィス侯爵が現れた。音楽が止まり、静寂が広がる。

 カイルは期待に胸を膨らませ、一歩前へ出た。今にも自分の名前が呼ばれ、エレナ様の新たな婚約者として紹介されるのを待っているのだ。

「……本日、ここに集まった諸君に伝えねばならぬことがある。我が娘、エレナと、ローゼンバーグ伯爵家嫡男、アルベルト殿との婚約についてだ」

 カイルの顔に、下卑た笑みが浮かぶ。(さあ、婚約破棄の発表だ!)と、その瞳が語っていた。
しかし、侯爵の口から出た言葉は、カイルの想像とは正反対のものだった。

「エレナ・アルヴィスは、再三にわたる不貞、および家門の権威を著しく汚す言動を繰り返した。よって、アルベルト殿との婚約は、本日を以て、ローゼンバーグ家側からの『瑕疵による破棄』を正式に受理したことを報告する」

 どよめきが走った。
 「瑕疵による破棄」。それは、エレナ側に非があることを公に認めた、最悪の断絶を意味する。

 カイルは呆然と立ち尽くした。まだ状況が飲み込めていないらしい。

「さらに!」と、侯爵の声が一段と冷たく響く。

「娘の不貞を助長し、侯爵家の名前を騙って不当な利益を得ようとした不逞の輩……。侍従 兼 護衛、カイル・プレストンを、本日を以て罷免し、国外追放を視野に入れた処罰に処す!」

「……え?」
 カイルの声が、情けなく裏返った。

「お、お待ちください、侯爵閣下! 何かの間違いです! 僕はエレナ様に愛され、婿入りを約束された身で……。ほら、このブローチも、エレナ様が……!」
 カイルは必死に胸元の紋章を指し示した。だが、それを見た侯爵の目は、燃え盛る怒りに満ちていた。

「その紋章は、我が家系を侮辱する証拠だ。……エレナ、お前からも言ってやれ」
 侯爵に促され、エレナ様が冷笑を浮かべて一歩前へ出た。彼女の瞳には、昨日までカイルに注いでいた「甘い光」など、微塵も残っていなかった。

「……あら、カイル。まだ夢を見ていたの? あなたのような下級貴族の次男坊が、本気で私の夫になれると思っていたの?」
「な……何を……、エレナ様、あんなに愛してると……」

「私、言ったわよね? 『他人のもの』が一番魅力的に見えるって。私はただ、リリアのものだったあなたを奪って、彼女が泣き叫ぶ顔が見たかっただけ。……でも、あなたは期待外れだったわ。ただの世間知らずの子犬で、飽きるのも早かったもの」
 エレナ様の冷酷な宣告が、カイルの全身に突き刺さる。

 彼女にとって、カイルはただの暇つぶしの玩具であり、リリアを傷つけるための道具に過ぎなかったのだ。
「そんな……嘘だ……。僕は、僕は君のために、すべてを捨てたのに……!」
 カイルはその場に膝をついた。豪華な礼服は、今の彼には滑稽なコスプレにしか見えない。

 会場中の貴族たちが、彼をゴミを見るような目で見つめ、口々に嘲笑った。

 その時、静かに歩み出たのはアルベルト様だった。彼は私の手を取り、跪くカイルの前までやってきた。

「カイル・プレストン。君が『石像』と呼んだ私が、この瞬間のためにどれほどの証拠を積み上げてきたか、想像もつかないだろう」
 アルベルト様の冷徹な声が、カイルの息の根を止める。

「君の増長、エレナの暴走……そのすべてを静観していたのは、君たちが自滅するのを待っていたからだ。……リリア嬢、もう顔を上げるがいい。この男は、もう君の視界に入る価値さえない」
 私はアルベルト様の腕に手を添え、泥の中に崩れ落ちた元婚約者を見下ろした。そこにあるのは、憎しみですらなく、ただただ深い軽蔑だった。

 カイルは、自分が捨てたリリアが、自分を裁いたアルベルト様に寄り添う姿を見て、血の気の引いた顔で絶望の叫びを上げた。
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