10 / 93
舞踏会を制圧
しおりを挟む
王宮の夜会は、いつも虚飾と欺瞞に満ちている。煌びやかな光の裏で交わされるのは、嘘と策略、そして隠しきれない本音のぶつかり合い。
今宵の焦点はただひとつ。
――エドワード王太子殿下は、誰をエスコートして姿を現すのか。
夫人たちの視線はざわめき、囁きが飛び交う。
婚約者であるアナスタシア公爵令嬢か。
それとも、エドワード王太子が寵愛すると噂される男爵令嬢シャルロットか。
そして、ついにその時が訪れた。
結果は――。
わぁぁ、と令嬢たちの歓声が上がる。
エドワード王太子が、アナスタシア公爵令嬢の手を取って入場したのだ。
揃いの衣装に身を包んだ二人は、美男美女の完璧な婚約者。互いを見つめる眼差しは優しく、微笑みは絵画のように整っていた。
「アナスタシア、今夜の君も美しいね。君の隣は落ち着くよ。」
エドワードが、甘く囁くが、アナスタシアの心には何も響かない。
壇上に立つ両陛下の隣へ進み、アナスタシアと王太子は自然と場を支配するような気品を放ちながら、来客へ柔らかな笑みを向けた。
____ドタバタ ドタバタ
……また始まったわね。
夜会の入り口で響く、あの騒がしい足音。上品さの欠片もない。
見なくてもわかる。
シャルロット男爵令嬢。
彼女ほど、この静かな夜会に似つかわしくない存在はいないもの。
「エド!どうしてエスコートしてくれないの!アナスタシア様のせいね!」
ええ、本当にどうしてかしら。
王太子殿下の“お気に入り”なら、せめて時間通りに身支度を整えればいいのに。
「はあ……シャルロット男爵令嬢、場をわきまえろ。夜会は“社交の場”だぞ。……(いい加減にしてくれ。本当にみっともない)」
隣のエドワードの顔が、みるみる歪んでいく。人前では優雅でいたい癖に、こういう時だけ、私に助け舟を求める。…都合のいい方だわ。
そして両陛下まで、困った顔でこちらを見てくる。“アナスタシアが、どうにかするだろう”って、そんな甘えが透けて見える。
まったく。無能な王族というのは便利ね。問題が起きれば、誰かが勝手に処理してくれると思っている。
でも、まあいいわ。
私が一言声をかければ、シャルロットは落ち着く。彼女は単純だから。
“自分が大事にされている”と思い込むだけで、満足してしまう。
「まあ。シャルロット様、大事なお体ですのに。そんなに慌てては、お子がびっくりしてしまいますわ。
さあさあ、今、王太子殿下がそちらへ行きますから、ご安心なさって。」
――安心なさって、ね。
私があなたを気遣うとでも思ったのかしら。
この場で泣き叫ばれれば面倒だから、ただ黙らせただけのこと。利用価値が尽きるまで、せいぜい大人しくしていればいいわ。
エドワードは慌てて彼女を壁際へ連れていき、軽食を与えて機嫌をとっている。ほんの数分で懐柔完了。
それで幸せになれるなんて……ある意味で羨ましい。
私はただ、またひとつ雑事を片づけただけ。笑顔を貼り付けて立つ王族たち。
ざわつきを隠しながら好奇心に光る令嬢たちの瞳。
――さて、静けさは戻ったようね。
シャルロットは椅子に座って機嫌よく軽食をつまんでいる。
なんて扱いやすい。あれほど騒いでいたのに、王太子が隣に寄り添えば、それだけで全てが解決したと勘違いしてしまう。
エドワードは……あら、まだこちらを見ているのね。
“上手く収めてくれて助かった”とでも言いたそうな顔。
満足げで、情けない。自分の蒔いた種なのに、後始末は人任せ。
――王太子。“将来の国王”の肩書きが泣いているわ。
会場の視線が私へと集まる。
ため息とともに、ささやき声がこぼれる。
「さすが未来の王太子妃」
「やはり器が違うわ」
「男爵令嬢とは格が……ねぇ?」
まったく、現金なものね。
ついこの間まで私を哀れんでいたくせに、手のひら返しの早いこと。
でも、悪くないわ。掌の上で転がる者たちほど、扱いやすいものはないもの。
私は壇上に立ち続け、完璧な微笑みを浮かべる。
必要なのは、状況を読む眼。
そして――自分の立場を確実に守るための、冷たい計算。
騒ぎが収まり、音楽が再び流れ始める。
……さて。茶番は終わった。
本当に見据えるべきは、この先。
つづく
______________
✨「エール📣」と「いいね❤️」で応援していただけると嬉しいです💫
今宵の焦点はただひとつ。
――エドワード王太子殿下は、誰をエスコートして姿を現すのか。
夫人たちの視線はざわめき、囁きが飛び交う。
婚約者であるアナスタシア公爵令嬢か。
それとも、エドワード王太子が寵愛すると噂される男爵令嬢シャルロットか。
そして、ついにその時が訪れた。
結果は――。
わぁぁ、と令嬢たちの歓声が上がる。
エドワード王太子が、アナスタシア公爵令嬢の手を取って入場したのだ。
揃いの衣装に身を包んだ二人は、美男美女の完璧な婚約者。互いを見つめる眼差しは優しく、微笑みは絵画のように整っていた。
「アナスタシア、今夜の君も美しいね。君の隣は落ち着くよ。」
エドワードが、甘く囁くが、アナスタシアの心には何も響かない。
壇上に立つ両陛下の隣へ進み、アナスタシアと王太子は自然と場を支配するような気品を放ちながら、来客へ柔らかな笑みを向けた。
____ドタバタ ドタバタ
……また始まったわね。
夜会の入り口で響く、あの騒がしい足音。上品さの欠片もない。
見なくてもわかる。
シャルロット男爵令嬢。
彼女ほど、この静かな夜会に似つかわしくない存在はいないもの。
「エド!どうしてエスコートしてくれないの!アナスタシア様のせいね!」
ええ、本当にどうしてかしら。
王太子殿下の“お気に入り”なら、せめて時間通りに身支度を整えればいいのに。
「はあ……シャルロット男爵令嬢、場をわきまえろ。夜会は“社交の場”だぞ。……(いい加減にしてくれ。本当にみっともない)」
隣のエドワードの顔が、みるみる歪んでいく。人前では優雅でいたい癖に、こういう時だけ、私に助け舟を求める。…都合のいい方だわ。
そして両陛下まで、困った顔でこちらを見てくる。“アナスタシアが、どうにかするだろう”って、そんな甘えが透けて見える。
まったく。無能な王族というのは便利ね。問題が起きれば、誰かが勝手に処理してくれると思っている。
でも、まあいいわ。
私が一言声をかければ、シャルロットは落ち着く。彼女は単純だから。
“自分が大事にされている”と思い込むだけで、満足してしまう。
「まあ。シャルロット様、大事なお体ですのに。そんなに慌てては、お子がびっくりしてしまいますわ。
さあさあ、今、王太子殿下がそちらへ行きますから、ご安心なさって。」
――安心なさって、ね。
私があなたを気遣うとでも思ったのかしら。
この場で泣き叫ばれれば面倒だから、ただ黙らせただけのこと。利用価値が尽きるまで、せいぜい大人しくしていればいいわ。
エドワードは慌てて彼女を壁際へ連れていき、軽食を与えて機嫌をとっている。ほんの数分で懐柔完了。
それで幸せになれるなんて……ある意味で羨ましい。
私はただ、またひとつ雑事を片づけただけ。笑顔を貼り付けて立つ王族たち。
ざわつきを隠しながら好奇心に光る令嬢たちの瞳。
――さて、静けさは戻ったようね。
シャルロットは椅子に座って機嫌よく軽食をつまんでいる。
なんて扱いやすい。あれほど騒いでいたのに、王太子が隣に寄り添えば、それだけで全てが解決したと勘違いしてしまう。
エドワードは……あら、まだこちらを見ているのね。
“上手く収めてくれて助かった”とでも言いたそうな顔。
満足げで、情けない。自分の蒔いた種なのに、後始末は人任せ。
――王太子。“将来の国王”の肩書きが泣いているわ。
会場の視線が私へと集まる。
ため息とともに、ささやき声がこぼれる。
「さすが未来の王太子妃」
「やはり器が違うわ」
「男爵令嬢とは格が……ねぇ?」
まったく、現金なものね。
ついこの間まで私を哀れんでいたくせに、手のひら返しの早いこと。
でも、悪くないわ。掌の上で転がる者たちほど、扱いやすいものはないもの。
私は壇上に立ち続け、完璧な微笑みを浮かべる。
必要なのは、状況を読む眼。
そして――自分の立場を確実に守るための、冷たい計算。
騒ぎが収まり、音楽が再び流れ始める。
……さて。茶番は終わった。
本当に見据えるべきは、この先。
つづく
______________
✨「エール📣」と「いいね❤️」で応援していただけると嬉しいです💫
1,817
あなたにおすすめの小説
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
手放してみたら、けっこう平気でした。
朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。
そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。
だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。
真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。
一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。
侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。
二度目の人生。
リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。
「次は、私がエスターを幸せにする」
自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。
言いたいことはそれだけですか。では始めましょう
井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。
その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。
頭がお花畑の方々の発言が続きます。
すると、なぜが、私の名前が……
もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。
ついでに、独立宣言もしちゃいました。
主人公、めちゃくちゃ口悪いです。
成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。
『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』
ふわふわ
恋愛
婚約者である王太子アルベルトから、一方的に婚約破棄を告げられた公爵令嬢エレノア。
だが彼女は、涙も復讐も選ばなかった。
「婚約は、役目でしたもの。終わったのなら、それで結構ですわ」
王宮を去ったエレノアは、領地に戻り、
干渉しない・依存しない・無理をしない
ただそれだけを軸に、静かに領地運営を始める。
一方、王となったアルベルトもまた、
彼女に頼らないことを選び、
「一人の判断に依存しない国」を作るための統治に身を投じていた。
復縁もしない。
恋にすがらない。
それでも、二人の選択は確かに国を安定へと導いていく。
これは、
交わらないことを選んだ二人が、
それぞれの場所で“続けられる世界”を完成させる物語。
派手なざまぁも、甘い溺愛もない。
けれど、静かに積み重なる判断と選択が、
やがて「誰にも壊せない秩序」へと変わっていく――。
婚約破棄から始まる、
大人のための静かなざまぁ恋愛ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる