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舞踏会を制圧
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王宮の夜会は、いつも虚飾と欺瞞に満ちている。煌びやかな光の裏で交わされるのは、嘘と策略、そして隠しきれない本音のぶつかり合い。
今宵の焦点はただひとつ。
――エドワード王太子殿下は、誰をエスコートして姿を現すのか。
夫人たちの視線はざわめき、囁きが飛び交う。
婚約者であるアナスタシア公爵令嬢か。
それとも、エドワード王太子が寵愛すると噂される男爵令嬢シャルロットか。
そして、ついにその時が訪れた。
結果は――。
わぁぁ、と令嬢たちの歓声が上がる。
エドワード王太子が、アナスタシア公爵令嬢の手を取って入場したのだ。
揃いの衣装に身を包んだ二人は、美男美女の完璧な婚約者。互いを見つめる眼差しは優しく、微笑みは絵画のように整っていた。
「アナスタシア、今夜の君も美しいね。君の隣は落ち着くよ。」
エドワードが、甘く囁くが、アナスタシアの心には何も響かない。
壇上に立つ両陛下の隣へ進み、アナスタシアと王太子は自然と場を支配するような気品を放ちながら、来客へ柔らかな笑みを向けた。
____ドタバタ ドタバタ
……また始まったわね。
夜会の入り口で響く、あの騒がしい足音。上品さの欠片もない。
見なくてもわかる。
シャルロット男爵令嬢。
彼女ほど、この静かな夜会に似つかわしくない存在はいないもの。
「エド!どうしてエスコートしてくれないの!アナスタシア様のせいね!」
ええ、本当にどうしてかしら。
王太子殿下の“お気に入り”なら、せめて時間通りに身支度を整えればいいのに。
「はあ……シャルロット男爵令嬢、場をわきまえろ。夜会は“社交の場”だぞ。……(いい加減にしてくれ。本当にみっともない)」
隣のエドワードの顔が、みるみる歪んでいく。人前では優雅でいたい癖に、こういう時だけ、私に助け舟を求める。…都合のいい方だわ。
そして両陛下まで、困った顔でこちらを見てくる。“アナスタシアが、どうにかするだろう”って、そんな甘えが透けて見える。
まったく。無能な王族というのは便利ね。問題が起きれば、誰かが勝手に処理してくれると思っている。
でも、まあいいわ。
私が一言声をかければ、シャルロットは落ち着く。彼女は単純だから。
“自分が大事にされている”と思い込むだけで、満足してしまう。
「まあ。シャルロット様、大事なお体ですのに。そんなに慌てては、お子がびっくりしてしまいますわ。
さあさあ、今、王太子殿下がそちらへ行きますから、ご安心なさって。」
――安心なさって、ね。
私があなたを気遣うとでも思ったのかしら。
この場で泣き叫ばれれば面倒だから、ただ黙らせただけのこと。利用価値が尽きるまで、せいぜい大人しくしていればいいわ。
エドワードは慌てて彼女を壁際へ連れていき、軽食を与えて機嫌をとっている。ほんの数分で懐柔完了。
それで幸せになれるなんて……ある意味で羨ましい。
私はただ、またひとつ雑事を片づけただけ。笑顔を貼り付けて立つ王族たち。
ざわつきを隠しながら好奇心に光る令嬢たちの瞳。
――さて、静けさは戻ったようね。
シャルロットは椅子に座って機嫌よく軽食をつまんでいる。
なんて扱いやすい。あれほど騒いでいたのに、王太子が隣に寄り添えば、それだけで全てが解決したと勘違いしてしまう。
エドワードは……あら、まだこちらを見ているのね。
“上手く収めてくれて助かった”とでも言いたそうな顔。
満足げで、情けない。自分の蒔いた種なのに、後始末は人任せ。
――王太子。“将来の国王”の肩書きが泣いているわ。
会場の視線が私へと集まる。
ため息とともに、ささやき声がこぼれる。
「さすが未来の王太子妃」
「やはり器が違うわ」
「男爵令嬢とは格が……ねぇ?」
まったく、現金なものね。
ついこの間まで私を哀れんでいたくせに、手のひら返しの早いこと。
でも、悪くないわ。掌の上で転がる者たちほど、扱いやすいものはないもの。
私は壇上に立ち続け、完璧な微笑みを浮かべる。
必要なのは、状況を読む眼。
そして――自分の立場を確実に守るための、冷たい計算。
騒ぎが収まり、音楽が再び流れ始める。
……さて。茶番は終わった。
本当に見据えるべきは、この先。
つづく
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今宵の焦点はただひとつ。
――エドワード王太子殿下は、誰をエスコートして姿を現すのか。
夫人たちの視線はざわめき、囁きが飛び交う。
婚約者であるアナスタシア公爵令嬢か。
それとも、エドワード王太子が寵愛すると噂される男爵令嬢シャルロットか。
そして、ついにその時が訪れた。
結果は――。
わぁぁ、と令嬢たちの歓声が上がる。
エドワード王太子が、アナスタシア公爵令嬢の手を取って入場したのだ。
揃いの衣装に身を包んだ二人は、美男美女の完璧な婚約者。互いを見つめる眼差しは優しく、微笑みは絵画のように整っていた。
「アナスタシア、今夜の君も美しいね。君の隣は落ち着くよ。」
エドワードが、甘く囁くが、アナスタシアの心には何も響かない。
壇上に立つ両陛下の隣へ進み、アナスタシアと王太子は自然と場を支配するような気品を放ちながら、来客へ柔らかな笑みを向けた。
____ドタバタ ドタバタ
……また始まったわね。
夜会の入り口で響く、あの騒がしい足音。上品さの欠片もない。
見なくてもわかる。
シャルロット男爵令嬢。
彼女ほど、この静かな夜会に似つかわしくない存在はいないもの。
「エド!どうしてエスコートしてくれないの!アナスタシア様のせいね!」
ええ、本当にどうしてかしら。
王太子殿下の“お気に入り”なら、せめて時間通りに身支度を整えればいいのに。
「はあ……シャルロット男爵令嬢、場をわきまえろ。夜会は“社交の場”だぞ。……(いい加減にしてくれ。本当にみっともない)」
隣のエドワードの顔が、みるみる歪んでいく。人前では優雅でいたい癖に、こういう時だけ、私に助け舟を求める。…都合のいい方だわ。
そして両陛下まで、困った顔でこちらを見てくる。“アナスタシアが、どうにかするだろう”って、そんな甘えが透けて見える。
まったく。無能な王族というのは便利ね。問題が起きれば、誰かが勝手に処理してくれると思っている。
でも、まあいいわ。
私が一言声をかければ、シャルロットは落ち着く。彼女は単純だから。
“自分が大事にされている”と思い込むだけで、満足してしまう。
「まあ。シャルロット様、大事なお体ですのに。そんなに慌てては、お子がびっくりしてしまいますわ。
さあさあ、今、王太子殿下がそちらへ行きますから、ご安心なさって。」
――安心なさって、ね。
私があなたを気遣うとでも思ったのかしら。
この場で泣き叫ばれれば面倒だから、ただ黙らせただけのこと。利用価値が尽きるまで、せいぜい大人しくしていればいいわ。
エドワードは慌てて彼女を壁際へ連れていき、軽食を与えて機嫌をとっている。ほんの数分で懐柔完了。
それで幸せになれるなんて……ある意味で羨ましい。
私はただ、またひとつ雑事を片づけただけ。笑顔を貼り付けて立つ王族たち。
ざわつきを隠しながら好奇心に光る令嬢たちの瞳。
――さて、静けさは戻ったようね。
シャルロットは椅子に座って機嫌よく軽食をつまんでいる。
なんて扱いやすい。あれほど騒いでいたのに、王太子が隣に寄り添えば、それだけで全てが解決したと勘違いしてしまう。
エドワードは……あら、まだこちらを見ているのね。
“上手く収めてくれて助かった”とでも言いたそうな顔。
満足げで、情けない。自分の蒔いた種なのに、後始末は人任せ。
――王太子。“将来の国王”の肩書きが泣いているわ。
会場の視線が私へと集まる。
ため息とともに、ささやき声がこぼれる。
「さすが未来の王太子妃」
「やはり器が違うわ」
「男爵令嬢とは格が……ねぇ?」
まったく、現金なものね。
ついこの間まで私を哀れんでいたくせに、手のひら返しの早いこと。
でも、悪くないわ。掌の上で転がる者たちほど、扱いやすいものはないもの。
私は壇上に立ち続け、完璧な微笑みを浮かべる。
必要なのは、状況を読む眼。
そして――自分の立場を確実に守るための、冷たい計算。
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本当に見据えるべきは、この先。
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