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王妃の断罪
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マグノリア王妃は端然と座り、取り乱す気配を見せなかった。
だが、その内面では、矜持と恐怖が激しく交錯していた。
取り調べの場には、“アナスタシア毒殺未遂事件”の証拠品が並べられていた。
監察官長アルト伯爵は、机上に三点の証拠を慎重に並べた。
まずは、侍女の証言――。
「マグノリア王妃殿下の指示に従い、アナスタシア様のお茶に細工をしました。王妃様は“誰にも知られぬように”と念を押されました」
次に、密薬の瓶が差し出される――。
小さな瓶の中で、薄茶色の液体が揺れる。ラベルには「安眠用」と記されているが、成分分析では毒薬と判明した。
最後に、命令書の写し――。
王妃自筆の指示書である。
「アナスタシアには小さな苦痛を与えること。薬の投与を他言せぬこと」
王妃の目は、並べられた証拠のすべてに釘付けとなった。
最初は冷静を装っていたものの、その瞳に明らかな動揺が走る。
「マグノリア王妃殿下。侍女の証言、密薬、命令書の写し。いずれも、あなたの手によるものと認定されます」
王妃は内心で叫ぶ。
(……こんなもの!確かに媚薬を盛るよう指示はした……でも!私は、アナスタシアに毒を盛ってはいない……!)
それでも、心臓の鼓動は早く、手のひらは冷たく汗ばんでいた。逃げられない現実が、静かに、しかし確実に迫る。
マグノリア王妃は唇を震わせながらも、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には王妃としての矜持だけが残っている。
「私は王妃よ!私を裁く権利など……誰にあると言うのです!」
しかし、取り調べ室に集まる者たちの視線には、もはや“王妃”への敬意はなかった。冷たく、ただ事実だけを突きつける目であった。
(――アナスタシアの命を奪うつもりなどなかった。
ほんの“苦痛”を与え、立場をわきまえさせたかっただけ……。
なぜ、誰もわたくしの真意を理解しないの!?
倒れても、這ってでも……最後まで王妃であり続ける……!)
だが、心の叫びが届くことはなかった。
取り調べを終えたマグノリアは、王宮奥の“静謐の塔”へ連行された。
王家に不祥をもたらした者が、名目上は「病療養」として幽閉される場所――実質的な生涯禁錮を意味する。
翌朝、王は密室で宣告した。
「マグノリア……お前は王妃の称号を保持したまま、静謐の塔で余生を送れ。
――世に出ることは、もう二度とない。」
マグノリアは小さく息を呑んだ。
それは、なにより残酷な判決だった。
顔を伏せながらも、震える声で答えた。
「……あなたは、まだ...わたくしを……愛してくださいますか?」
フィリップ王は、答えなかった。答えられなかった。
その沈黙こそが、もっとも残酷な答えだった。
マグノリア王妃は一度だけフィリップ陛下を見上げた。その瞳には、愛を求める想いが入り混じっていた。
「もし……次があるなら……あなたの隣で、穏やかに生きとうございます……」
彼女はそれ以上、何も言わず、静かに連行されていった。
外向けの発表は、徹底して整えられた。
「王妃マグノリア殿下は持病悪化のため、療養に入られる」
「快復まで、王家の庇護のもと静養される」
アナスタシアの服毒事件も、一切が伏せられた。真実を知る者は王とごく数名のみ。
王妃マグノリアは、名を奪われず、地位も奪われず――しかし、光の届かない塔に生涯閉じ込められるという、王家特有の「静かな処刑」を受けたのだった。
◇◇◇
ことの顛末の報告を受けたアナスタシアは、しばらく目を閉じた。
王妃は自白の通り、確かに“毒”そのものを盛ってはいない。
だが――未婚の令嬢に媚薬を投じる行為は、名誉も未来も奪いかねない。
それは、いっそ命を奪うのと同義である。
王妃の幽閉を聞いても、アナスタシアの胸には同情は湧かなかった。
ただ静かに願うのは一つ。
――どうか、生涯をかけて己の過ちを悔いて生きてほしい。
つづく
_______________________
応援の「いいね」で作者のテンション急上昇💖
【HOT女性ランキング1位】!ありがとうございます!!🔥✨
嬉しすぎて小躍り中です…!
これも読んでくださる皆さまのおかげです。
この勢いでさらにガンガン執筆していきますので、今後ともよろしくお願いします!
だが、その内面では、矜持と恐怖が激しく交錯していた。
取り調べの場には、“アナスタシア毒殺未遂事件”の証拠品が並べられていた。
監察官長アルト伯爵は、机上に三点の証拠を慎重に並べた。
まずは、侍女の証言――。
「マグノリア王妃殿下の指示に従い、アナスタシア様のお茶に細工をしました。王妃様は“誰にも知られぬように”と念を押されました」
次に、密薬の瓶が差し出される――。
小さな瓶の中で、薄茶色の液体が揺れる。ラベルには「安眠用」と記されているが、成分分析では毒薬と判明した。
最後に、命令書の写し――。
王妃自筆の指示書である。
「アナスタシアには小さな苦痛を与えること。薬の投与を他言せぬこと」
王妃の目は、並べられた証拠のすべてに釘付けとなった。
最初は冷静を装っていたものの、その瞳に明らかな動揺が走る。
「マグノリア王妃殿下。侍女の証言、密薬、命令書の写し。いずれも、あなたの手によるものと認定されます」
王妃は内心で叫ぶ。
(……こんなもの!確かに媚薬を盛るよう指示はした……でも!私は、アナスタシアに毒を盛ってはいない……!)
それでも、心臓の鼓動は早く、手のひらは冷たく汗ばんでいた。逃げられない現実が、静かに、しかし確実に迫る。
マグノリア王妃は唇を震わせながらも、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には王妃としての矜持だけが残っている。
「私は王妃よ!私を裁く権利など……誰にあると言うのです!」
しかし、取り調べ室に集まる者たちの視線には、もはや“王妃”への敬意はなかった。冷たく、ただ事実だけを突きつける目であった。
(――アナスタシアの命を奪うつもりなどなかった。
ほんの“苦痛”を与え、立場をわきまえさせたかっただけ……。
なぜ、誰もわたくしの真意を理解しないの!?
倒れても、這ってでも……最後まで王妃であり続ける……!)
だが、心の叫びが届くことはなかった。
取り調べを終えたマグノリアは、王宮奥の“静謐の塔”へ連行された。
王家に不祥をもたらした者が、名目上は「病療養」として幽閉される場所――実質的な生涯禁錮を意味する。
翌朝、王は密室で宣告した。
「マグノリア……お前は王妃の称号を保持したまま、静謐の塔で余生を送れ。
――世に出ることは、もう二度とない。」
マグノリアは小さく息を呑んだ。
それは、なにより残酷な判決だった。
顔を伏せながらも、震える声で答えた。
「……あなたは、まだ...わたくしを……愛してくださいますか?」
フィリップ王は、答えなかった。答えられなかった。
その沈黙こそが、もっとも残酷な答えだった。
マグノリア王妃は一度だけフィリップ陛下を見上げた。その瞳には、愛を求める想いが入り混じっていた。
「もし……次があるなら……あなたの隣で、穏やかに生きとうございます……」
彼女はそれ以上、何も言わず、静かに連行されていった。
外向けの発表は、徹底して整えられた。
「王妃マグノリア殿下は持病悪化のため、療養に入られる」
「快復まで、王家の庇護のもと静養される」
アナスタシアの服毒事件も、一切が伏せられた。真実を知る者は王とごく数名のみ。
王妃マグノリアは、名を奪われず、地位も奪われず――しかし、光の届かない塔に生涯閉じ込められるという、王家特有の「静かな処刑」を受けたのだった。
◇◇◇
ことの顛末の報告を受けたアナスタシアは、しばらく目を閉じた。
王妃は自白の通り、確かに“毒”そのものを盛ってはいない。
だが――未婚の令嬢に媚薬を投じる行為は、名誉も未来も奪いかねない。
それは、いっそ命を奪うのと同義である。
王妃の幽閉を聞いても、アナスタシアの胸には同情は湧かなかった。
ただ静かに願うのは一つ。
――どうか、生涯をかけて己の過ちを悔いて生きてほしい。
つづく
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