【完結】王太子が「恋がしたい」と言い出したので、公爵令嬢は捨て身の復讐を始めます──みなさままとめて地獄へどうぞ

恋せよ恋

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後妻マリアンヌ因果応報

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「お帰りそうそう申し訳ございません。マリアンヌ夫人が“ぜひお話がしたい”とおっしゃって、すでに応接室でお待ちです。」

 学園から帰宅したアナスタシアに、家令が声をかけた。

「あら……珍しいこともあるものね。わたくしはお話しすることはないから、お断りしてちょうだい。」

「えっ!? い、いえ……すでに応接室で――」
 まさか断られるとは思わなかった家令が慌てた声を上げる。

「そう。だったらなおさら会わないわよ。突然言われても困るもの。」
 突き放すように言われ、家令はそれ以上言葉を継げなかった。

 アナスタシアが自室へ向かい廊下を進んでいると、背後から声がかかる。

「アナスタシア様! お待ちしておりましたわ。少し……よろしいかしら?」

 面倒だと思いつつ、無視するのも気が進まず振り返ると、マリアンヌ夫人が立っていた。

「……なんでしょう? お会いする予定はなかったはずですが。」

(これまで“空気のようにわたくしを無視して生きてきた”あなたが、話がある、ですって?
 どの口が言うのかしら。厚顔無恥にも程があるわ。)

「……少しでしたら。」
 アナスタシアは、面倒ごとはさっさと終わらせようと応接室へ向かった。

「それで、お話とは?」

 挨拶は省き、本題だけ促す。

「私とメリンダを、このまま公爵邸に住まわせてくださいな。メリンダも十五歳になりますし、学園の入学も控えておりますの。領地に移っては良縁にも恵まれませんわ。」

 アナスタシアは、目の前で当然のことのように要求を並べる女を冷ややかに見つめた。

 父リチャード前公爵の後妻。
 そして、生母アントワネットが存命中からの“父の不貞相手”。

 母を亡くしてからも、励ましも冷遇もなく――ただ“存在しない者”のように扱ってきた女。

 その女が、公爵家に住まわせろと? 意味がわからない。

 アナスタシアが無言でいることを、同意とでも解釈したのか、マリアンヌは続けた。

「それに、メリンダの婚約者ですが、アナスタシア様のお知り合いの伯爵令息をご紹介いただけません? あの子は素直でおとなしい子ですから、優しい方がよろしいと思うの。」

 ベラベラと勝手に話すマリアンヌを眺め、アナスタシアの心はどんどん冷めていく。

――そろそろ限界ね。邪魔だわ。

「トーマス。お兄様はご在宅?」
 家令にサミュエルを呼ぶよう告げる。

 ほどなくして兄が入室した。

「どうした? ……ずいぶん珍しい顔ぶれだね。これはどういう状況かな?」

「お兄様、マリアンヌ様から“公爵邸に住まわせろ”、そして“娘メリンダ嬢の婚約者を紹介しろ”とご要望がありましたの。」

 サミュエルの反応はアナスタシアと同じだった。

「へえ……それはまた、随分だね。」

 空気が自分の想定と違うと悟ったのか、マリアンヌの顔に戸惑いが浮かぶ。

「お兄様、この方のおっしゃっていること、おわかり?」

「いや、まったく。まあ、理解する必要もないけどね。」

「そうですわよね。そろそろ、お父様にも領地へ移っていただきましょう。」

「ああ。今週末に出立できるよう馬車を用意する。トーマス、領地へ通達を。」

「では、そういうことで。」
「ええ、そういうことで。」

「えっ!? ど、どういうことなんですの……?」
 マリアンヌが立ち上がる。

「あなた、淑女教育を受けたはずよね? その程度の振る舞いもできなくて?」

 アナスタシアの呆れ声に、マリアンヌは慌てて座り直した。

「それと……メリンダ嬢の婚約者探しでしたか? 遠慮いたしますわ。」
 冷たい笑みを浮かべ、侮蔑を隠さず告げる。

「あなた、何か勘違いしていない?
 “あなたの娘”メリンダ嬢は、我が家とは何の関係もありませんの。もちろん、あなたも。」

「えっ……ど、どういうこと……?」

「……ああ、もう面倒。お兄様、どうします?」

「どうもしないよ。父上の“家族”がどうなろうと、我々には無関係だし。」

 二人の言葉に、マリアンヌが悲鳴のような声をあげた。

「わ、わたしは公爵夫人で、メリンダは公爵令嬢です!!」

「……まあ、そこからなの?ここにも“無能の用無し”がいたのね」

 アナスタシアの“無能”の一撃に、マリアンヌは愕然とした。

「あなた、男爵令嬢でしょう?
 我が公爵家は、“あなた程度”と縁続きになどなりませんわ。よって、“あなたの娘”も我が家とは無縁です。
 勝手に公爵家の名を語るのなら、処罰は免れませんわね?」

 冷淡な美貌で淡々と言い放つアナスタシアに、マリアンヌは言葉を失った。

「納得できないのなら、“あなたの夫”に聞きなさい。
今や、なんの権力もない――ただのご老体に。」

 アナスタシアとサミュエルは冷たい一瞥を投げ、部屋を出ていった。

 残されたマリアンヌは、しばらく動けなかった。

 ようやく我に返ると、リチャードの居室へ駆け込んだ。

「旦那様! わたしは……公爵夫人ではなかったのですか?
 メリンダは? 娘のメリンダは、公爵令嬢ではないのですか!?旦那様!!」

 マリアンヌの悲痛な問いに、リチャードが静かに答えた。

「……お前は男爵令嬢のままだ。公爵家の籍には、入れてもらえなかった。
 すまぬ。メリンダも――男爵令嬢であるお前の娘だ。認知はしているが、公爵家の籍ではない。」

 返答を聞いた瞬間、マリアンヌは膝から崩れ落ち、泣き叫んだ。

「そんな……そんなひどいことがありますか!? わたしは、この家で六年も暮らしてきたのですよ! メリンダも!
どうして? どうして認めていただけないのですか!」

「......お前は......貴族法を知らぬのか。公爵夫人だと言うのなら、知っていて当然の常識だ。……つまりは、そういうことだ。」

 リチャードの言葉に、マリアンヌは羞恥と絶望の入り混じった叫び声をあげた。



「思いがけず、家の中が片付いたわね。」
 アナスタシアは、ひとつ長い息を吐き出した。

――母アントワネットが亡くなったのは、わたしが十一歳のとき。
 あまりにも唐突で、あまりにも早かった。

 そのわずか一年後には、父はマリアンヌ男爵令嬢を後妻に迎えた。
 しかも彼女には、すでに九歳の娘・メリンダがいた。
……母が生きていた頃から、二人はそういう関係だったのだろう。

 幼いわたしは、どうしようもなく傷ついた。
 まるで、ひとりだけ置き去りにされたみたいだった。

 マリアンヌともメリンダとも、温かい交流など一度もなかった。
 ただただ、わたしだけが努力を求められ、その成果を搾り取られる日々。
 褒められることもなく、労わられることもなく、息苦しいだけの毎日。

――それなのに。

 今さら、わたしに何かを求める?
 笑わせないで。
 あなた達は一度だって、わたしの味方になどならなかったくせに。

……いいわ。せいぜい苦しみなさい。周囲の冷たい視線と言葉の中で。

 当時のあなた達と同じく、わたしも静観してあげる。助けもしないし、虐げもしない。ただ、ゆっくりと追い詰められていくあなた達を眺めているだけ。

――だって、あなた達は“お母様の敵”だもの。

 あがくなら勝手にどうぞ。でも、静かにね。あまり騒がしくすると……潰してしまいそうになるから。

「さようなら……お父様。」
_______________

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