【完結】王太子が「恋がしたい」と言い出したので、公爵令嬢は捨て身の復讐を始めます──みなさままとめて地獄へどうぞ

恋せよ恋

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王太子妃候補、召集

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 閣議の間は緊張に包まれていた。

「これより議題、『第二王子シリル殿下の立太子』並びに『セザンヌ側妃の正妃への昇格』、以上二件を審議する。」

 議長の宣言に、壮麗な円卓の空気が一瞬だけざわめいた。

「まず、第二王子シリル殿下の王太子就任に異議のある者は、挙手を願いたい!」

 議場は、深い静寂に包まれる。

「では、満場一致で第二王子シリル殿下を王太子とし、次代の王としての教育に入る。」

 官僚と大臣たちは、満足げに頷きを交わした。

「次に、セザンヌ側妃を正妃へと昇格することに異議のある者は、挙手を願いたい!」

 議場は、一人の異議もなく静まり返っている。

「では、満場一致で側妃セザンヌ殿下を、フィリップ陛下の正妃とする。」

―――ダンッ!「以上、閉廷!」

 議長の木槌が重く打ち鳴らされた。

 国王は立ち上がり、手にした文書をゆっくりと広げる。
 張り詰めた空気の中、その声が厳かに響き渡った。

◇◇◇

「シリル王太子に、我が娘ジュリエットを婚約者として迎えてはどうでしょう?」

 野心家と噂されるアデル侯爵家当主フランソワが、揉み手でもしそうな勢いで、長女ジュリエットを婚約者候補として売り込んでくる。

(……またか。即位が決まった途端、これだ。
 上級貴族同士の均衡を保つためにも、婚約者について軽々しく意見を述べるわけにはいかない)

 本心を言えば、筆頭公爵家ヴェルデン公爵家の令嬢――アナスタシアを望んでいる。
 いや、望んでいるどころではない。強く、どうしようもなく惹かれている。

(だが、兄エドワードの廃嫡で、貴族たちの力関係は大きく揺らいだ。母上……セザンヌの生家、ダグラス公爵家の勢力は今や増す一方。祖父スコット前公爵は、ヴェルデン家に妙な対抗心を燃やしている。そんな今、アナスタシアとの婚姻を望めば――反対されるに決まっている)

 望んでいても、簡単に口にはできない。
 王太子となった今、自分一人の想いで国の均衡を揺るがすわけにはいかないのだ。

◇◇◇

「ジュリエット! お前はいったい、どういうつもりだ!シリル王太子殿下の婚約者になろうという気構えがまったく感じられん!我がアデル侯爵家に巡ってきた、一世一代の好機なのだぞ!
シリル王太子殿下のお心を、何としても掴むのだ! わかったな、この役立たずが!」

――――バタンッ。

 怒号を残して、父フランソワは部屋を出ていった。残されたのは、ジュリエットひとり。

 ジュリエットは、所詮「庶子」だ。それがすべてだった。
 八歳の冬、母と暮らす市井の古びた借家へ、突然、侯爵家からの使いが訪れた。
 何が起きているのか理解する暇もなく、母とは引き離され、アデル侯爵家へと連れ去られた。

 それから始まったのは、淑女教育という名を借りた、厳しく、息の詰まる日々。
 父を名乗るフランソワ侯爵は、外見こそ整った金髪に緑の瞳を持つ典型的な貴族だったが、その内側には、温かさの欠片もなかった。

 ジュリエットの母は、かつて侯爵家に仕える侍女であり、若き日のフランソワの「お手付き」にされた。一方的な関係だったことは、母の沈黙が雄弁に物語っている。妊娠がわかると容赦なく放逐され――そこに愛情など、初めから存在しなかった。

 十六歳になった今もなお、侯爵家で暮らした八年間は、辛く、惨めで、寂しい記憶ばかりだ。毎晩、母の元へ帰りたいと願いながら眠る……その願いの叶わぬことを知りながら。

(――なぜ、私はここに連れてこられたのだろう……)

 そう思い続けてきた理由が、今日やっと分かった気がする。すべては、“利用価値”があると判断されたからだ。侯爵家にとって都合のよい「道具」として、シリル王太子に差し出すために。わかっていたはずなのに、胸の奥が、ひどく冷たくなった。

◇◇◇

 王宮の一室に、王太子妃候補四名が一堂に集められた。
 令嬢たちは緊張の色を浮かべ、表情も硬いまま席についていた……もっとも、約一名を除いてだが。

「ひとつ、よろしいかしら? わたくしどもは、いったい どれほど この部屋で待機すればよろしいのでしょうか?」

 アナスタシア公爵令嬢が担当補佐官へ声をかけた。
 補佐官は気まずそうに眉根を寄せ、どこか顔色も優れない。

「はい……ごもっともなお言葉です。実のところ、私どもも状況を把握しきれず、いささか困惑しておりまして……。今しばらくお待ちいただくほかなく、誠に申し訳ございません。」

 丁重な謝辞を受け、アナスタシアは静かに頷いた。しかし、これほど待たされる理由が分からず、胸の内には不安がよぎる。

 この部屋には、数日前にヴェルデン公爵家で顔を合わせたグローリー公爵令嬢コーデリア。
 当主が野心家と噂されるアデル侯爵家からはジュリエット。
 さらに、新興貴族であるベイドン伯爵家の令嬢ロクサーヌ。
 そして、アナスタシア。
 以上四名が集められていた。

 ――そして待つこと、さらに一時間。

 ようやく扉が開き、宰相ローレンスが姿を現した。

「みなさま、長らくお待たせしてしまい、誠に申し訳ございません。早速ですが、これより謁見の間へ移動していただき、陛下よりお言葉がございます。」

 令嬢四名は、宰相の先導のもと、謁見の間へと歩みを進めた。

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