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守られる心強さを知った日
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リリアーナの母、タチアナ伯爵夫人が、娘に注意を促し場を収めた。
「ミランダ公爵夫人、愚娘が、誠に申し訳ございませんでした」
「あら、タチアナ伯爵夫人。詫びる相手が違いましてよ」
ミランダは冷たく、威圧を込めた眼差しで、タチアナとリリアーナを見据える。二人は身を震わせ、頭を深く下げた。
アナスタシアはその光景を静かに見守りながら、胸の奥で小さく安堵した。ミランダが自分を守るために強く立ってくれていることを、言葉ではなく視線で感じ取る。
誰かに庇われる心強さを初めて知った。孤独ではないと実感できる、この感覚に、アナスタシアの心は温かさで満たされていた。
「アナスタシア様、失礼いたしました。不躾な発言、申し訳ございませんでした」
タチアナ伯爵夫人がアナスタシアに頭を下げる。
リリアーナは俯きながら、胸の奥で動揺していた。
伯爵夫人である母が、自宅でのお茶会の場で、客人たちの前で頭を下げる姿を晒していることに、気まずさと戸惑いを覚える。小さく手を握りしめ、膝の上で指先を震わせる。
( 私は、ただ友人の恋を応援したかっただけなのに……お母様、ごめんなさい )
母親に注意されながらも、ミランダ公爵夫人の視線の重みを痛感し、リリアーナはただ息を詰めるしかなかった。
焦りと恥ずかしさ、そして恐怖が、胸の奥で複雑に絡み合う。
「アナスタシア様、失礼いたしました。本当に申し訳ございませんでした」
リリアーナの声はか細く震え、頭を深く下げる。その時、少しだけ肩を小さく揺らし、息を整える動作が無意識に出た。
しかし、アナスタシアの視線は温かく、それを責めるものではなく、ただ静かに受け止めていた。
品格の違いを見せつけられたようなその落ち着きに、リリアーナの心はさらに揺さぶられた。その静かな許容の余白こそ、彼女にとって耐えがたいほどの緊張と尊敬を伴うものだった。
「お茶会の主催者が、自ら招いた客人に対して毒を吐く……。リリアーナ様、これはお茶会ではなく、審問会でしたの? 招待状を読み間違えたようですから、私共は失礼させていただくわ」
ミランダは、言葉を続けた。
「アナスタシアにとって、ローゼンタール王国での初めてのお茶会でしたのに……残念でしたわ」
ミランダの言葉を受け、タチアナ伯爵夫人の顔色が変わる。
「陛下からも、姪のアナスタシアにとって、くれぐれも楽しい滞在になるよう配慮するよう申しつかっておりましたのに……選択を誤ったようですわ。今後は、お茶会のお誘いは遠慮いたしますわね。それでは、ごきげんよう」
とどめのように陛下という言葉を聞き、タチアナ伯爵夫人は顔を蒼白にし、その場に膝をついた。
「あら、それと、あなた。ラスター侯爵家のキンバリー様」
ミランダは冷たい眼差しでキンバリーをまっすぐ見据え、はっきりと言った。
「何度も婚約の申し入れを送りつけられ、当家は大変迷惑しております。ランカスター侯爵には、これまでも、トルドー公爵家から書簡で苦情を申し立てているはずですわ」
ミランダの発言を聞き、驚きの表情を浮かべたのはリリアーナだった。
正しい情報を知らず、善意から友人キンバリーの恋心を応援してしまった自分の軽率さに、彼女は今、己の愚行を痛感していた。
「ライナスからも、あなたへ直接、断りを入れたはずです。それでも今後も同じ行動を繰り返すのであれば……相応の覚悟をなさい。」
ミランダはキンバリーをまっすぐに睨みつけ、冷たく告げた。
「あなたが我が家に入ることは許しません。自分の立場を弁えなさい。不快極まりないわ」
その一言で、庭園の空気が一瞬にして張り詰めた。
キンバリーは顔を赤らめ、目を伏せてしまう。膝の上で指を組み、思わず小さく息をつく。周囲の令嬢たちも、息を呑み、静まり返ったまま視線を動かせずにいる。
リリアーナは俯いたまま、胸の奥がひりつくような痛みを覚えた。善意から応援したつもりが、ミランダの鋭い視線と威圧的な言葉に、自分の軽率さを突きつけられたのだ。
タチアナ伯爵夫人も、言葉を失い小さく身を震わせる。庭園の花々の華やかさとは裏腹に、冷たい空気がすべてを支配していた。
アナスタシアは静かにそれを見守る。
ミランダが自分を守り、場を締めるその背中に、言葉にしなくとも感じ取れる力強さと安心感を覚える。
孤独ではない――そう思える、この瞬間の心の温かさに、アナスタシアの胸は満たされていた。
言い終えると、ミランダは周囲を鋭く見渡した。
「皆さま、無責任な噂話は広めぬよう、くれぐれもお心に留めてください」
その声に、参加者たちは小さく何度も頷き、静かに従う様子を示した。
「アナスタシア、大丈夫?」
帰りの馬車の中で、ミランダは気遣わしげにアナスタシアを見つめ、声をかけた。
「せっかくのお茶会だったのに、ごめんなさいね。どうしても、我慢できなくなってしまって」
「伯母様……庇ってくださって、ありがとうございました。
初めて、誰かに守られた気がして……とても、嬉しかったです」
そう言って、はにかんだように微笑むアナスタシアの姿に、ミランダの胸に切なさが込み上げた。
「まあ、アナスタシア。なんてことなの……!
ねえ、抱きしめさせてちょうだい?」
そう言うとミランダは、馬車の中であることも忘れたかのように、アナスタシアを腕に抱き寄せ、優しく背中をさすった。
アナスタシアはその腕の中で、ミランダの体温の温かさに触れ、理由も分からぬまま、涙がこぼれ落ちた。
(……ああ。わたし、どんどん弱くなってしまうわ。
こんなことで……本当に、大丈夫なのかしら……)
______________
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誰にも言えない恋ほど、
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「ミランダ公爵夫人、愚娘が、誠に申し訳ございませんでした」
「あら、タチアナ伯爵夫人。詫びる相手が違いましてよ」
ミランダは冷たく、威圧を込めた眼差しで、タチアナとリリアーナを見据える。二人は身を震わせ、頭を深く下げた。
アナスタシアはその光景を静かに見守りながら、胸の奥で小さく安堵した。ミランダが自分を守るために強く立ってくれていることを、言葉ではなく視線で感じ取る。
誰かに庇われる心強さを初めて知った。孤独ではないと実感できる、この感覚に、アナスタシアの心は温かさで満たされていた。
「アナスタシア様、失礼いたしました。不躾な発言、申し訳ございませんでした」
タチアナ伯爵夫人がアナスタシアに頭を下げる。
リリアーナは俯きながら、胸の奥で動揺していた。
伯爵夫人である母が、自宅でのお茶会の場で、客人たちの前で頭を下げる姿を晒していることに、気まずさと戸惑いを覚える。小さく手を握りしめ、膝の上で指先を震わせる。
( 私は、ただ友人の恋を応援したかっただけなのに……お母様、ごめんなさい )
母親に注意されながらも、ミランダ公爵夫人の視線の重みを痛感し、リリアーナはただ息を詰めるしかなかった。
焦りと恥ずかしさ、そして恐怖が、胸の奥で複雑に絡み合う。
「アナスタシア様、失礼いたしました。本当に申し訳ございませんでした」
リリアーナの声はか細く震え、頭を深く下げる。その時、少しだけ肩を小さく揺らし、息を整える動作が無意識に出た。
しかし、アナスタシアの視線は温かく、それを責めるものではなく、ただ静かに受け止めていた。
品格の違いを見せつけられたようなその落ち着きに、リリアーナの心はさらに揺さぶられた。その静かな許容の余白こそ、彼女にとって耐えがたいほどの緊張と尊敬を伴うものだった。
「お茶会の主催者が、自ら招いた客人に対して毒を吐く……。リリアーナ様、これはお茶会ではなく、審問会でしたの? 招待状を読み間違えたようですから、私共は失礼させていただくわ」
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「陛下からも、姪のアナスタシアにとって、くれぐれも楽しい滞在になるよう配慮するよう申しつかっておりましたのに……選択を誤ったようですわ。今後は、お茶会のお誘いは遠慮いたしますわね。それでは、ごきげんよう」
とどめのように陛下という言葉を聞き、タチアナ伯爵夫人は顔を蒼白にし、その場に膝をついた。
「あら、それと、あなた。ラスター侯爵家のキンバリー様」
ミランダは冷たい眼差しでキンバリーをまっすぐ見据え、はっきりと言った。
「何度も婚約の申し入れを送りつけられ、当家は大変迷惑しております。ランカスター侯爵には、これまでも、トルドー公爵家から書簡で苦情を申し立てているはずですわ」
ミランダの発言を聞き、驚きの表情を浮かべたのはリリアーナだった。
正しい情報を知らず、善意から友人キンバリーの恋心を応援してしまった自分の軽率さに、彼女は今、己の愚行を痛感していた。
「ライナスからも、あなたへ直接、断りを入れたはずです。それでも今後も同じ行動を繰り返すのであれば……相応の覚悟をなさい。」
ミランダはキンバリーをまっすぐに睨みつけ、冷たく告げた。
「あなたが我が家に入ることは許しません。自分の立場を弁えなさい。不快極まりないわ」
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キンバリーは顔を赤らめ、目を伏せてしまう。膝の上で指を組み、思わず小さく息をつく。周囲の令嬢たちも、息を呑み、静まり返ったまま視線を動かせずにいる。
リリアーナは俯いたまま、胸の奥がひりつくような痛みを覚えた。善意から応援したつもりが、ミランダの鋭い視線と威圧的な言葉に、自分の軽率さを突きつけられたのだ。
タチアナ伯爵夫人も、言葉を失い小さく身を震わせる。庭園の花々の華やかさとは裏腹に、冷たい空気がすべてを支配していた。
アナスタシアは静かにそれを見守る。
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孤独ではない――そう思える、この瞬間の心の温かさに、アナスタシアの胸は満たされていた。
言い終えると、ミランダは周囲を鋭く見渡した。
「皆さま、無責任な噂話は広めぬよう、くれぐれもお心に留めてください」
その声に、参加者たちは小さく何度も頷き、静かに従う様子を示した。
「アナスタシア、大丈夫?」
帰りの馬車の中で、ミランダは気遣わしげにアナスタシアを見つめ、声をかけた。
「せっかくのお茶会だったのに、ごめんなさいね。どうしても、我慢できなくなってしまって」
「伯母様……庇ってくださって、ありがとうございました。
初めて、誰かに守られた気がして……とても、嬉しかったです」
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