婚約破棄された王宮女官―人違いの媚薬の夜から、側近公爵令息の執着が始まりました

恋せよ恋

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報告書の向こう側

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「ノーフォーク領の報告書だ。ひと通り目を通してみてくれ。その後で、君の意見を聞こう」

 チャーチル公爵家のサロンで、オレーリアはエドワードと向き合っていた。手元には、エドワードが派遣してくれた侍従からの報告書がある。ノーフォーク領の運営について、細かな状況が詳細に記されていた。
 オレーリア自身、これまで深く領政に関わっていたわけではなく、報告書を通して初めて知ることも多い。

 また、エドワードは父セバスの治療のため、医師の派遣にも心を配ってくれていた。その甲斐あって、父の体調は回復に向かっているとの記載があり、オレーリアは胸をなで下ろす。

 ただ、今回の人材支援が、自身の身体を差し出した対価であるかのように感じられることが、オレーリアの心を曇らせていた。
 その陰りに、エドワードも気づいているのだろうが、彼は何も口にしない。

 あの夜の出来事を、生涯許すつもりはない。それでも――その沈黙に込められたエドワードの配慮には、感謝していた。

「どうかな。なにか気になる点はあっただろうか……。小麦の生産量は横ばいだが、単価はわずかに上昇している。領民にとっては、良い一年になりそうだ。それに、ノーフォーク伯爵の体調も、幾分か回復に向かっているようだ。よかったね」

 他領の領政について淡々と語るエドワードの的確さに、オレーリアは素直に感謝の気持ちを抱いた。

「はい。それもこれも、チャーチル公爵家のご支援のおかげです。ありがとうございます」

「いや、領政が安定して回るようになるまでは、支援は続けるつもりだ。問題はない」

 真剣な眼差しを向けられ、オレーリアは安堵した表情で小さく頷いた。

「それでは、わたしはこれで失礼いたします。お休みの日に、お時間をいただいてしまい、申し訳ございませんでした」

 休日に顔を合わせているにもかかわらず、あくまで“報告会”として進むこの時間に、エドワードは拭いきれない物足りなさを覚えていた。

「よかったら、お茶でも飲んでいかないか。美味しいケーキがあるのだが……」

 素っ気ない口調でそう誘うが、オレーリアの返答は控えめな辞退だった。

「せっかくのお休みです。これ以上、エドワード様のお時間をいただくわけにはまいりません。本日は、これで失礼いたします。では、また」

 辞去の挨拶を残し、オレーリアは席を立つ。
 エドワードに残されたのは、机上の報告書と静寂だけだった――どうすれば、もっと近づけるのだろう。




 事件の後、オレーリアは明らかに変わった。

 食事をほとんど口にせず、頬は削げ、制服の上からでも身体の線が細くなったのが分かる。顔色も悪く、時折、壁に手をついて立ち止まる姿を、エドワードは何度か目にしていた。

(……痩せすぎだ )

――無関係でいられるはずがない。傷つけたのは、自分なのだから。

 その日の午後。回廊を歩いていたエドワードの視界に、ふいにオレーリアの姿が入った。

 彼女は書類を抱え、足早に進んでいたが――次の瞬間、身体がふらりと揺れた。

「……っ」

 声にならない息。足元が崩れ、倒れかけた、その瞬間――

「危ない!」

 素早く伸びた腕が、オレーリアの身体を支えた。
 ユリウス殿下の護衛騎士、ウォルター・バークレー辺境伯令息。

 オレーリアは、彼の腕に半ば抱きとめられる形で、必死に体勢を立て直していた。

「大丈夫か。おまえ!顔色が……」

「……す、すみません……少し、立ちくらみが……」

 震える声。細い指が、ウォルターの上衣を掴む。

――その光景を、エドワードは見ていた。

 胸の奥が、強く、乱暴に掴まれる。

(……触るな)

 思考より先に、感情が噴き上がった。

 たまたま近くにいた紳士として当然の行為だ。理性では分かっている。だが――

(なぜ、おまえが支えている!)

 オレーリアの細くなった身体。自分の知らないところで、弱り、倒れかけ、そして――自分ではない男の腕に、守られている。

 視界が、ひどく狭くなる。

 歩み寄ろうとしている自分に気づき、エドワードは立ち止まった。足先が、わずかに震えている。

(……違う。これは……)

 怒りではない。正義感でもない。

 ――ただ、"奪われる“、という感覚。

 自分が傷つけたくせに。放っておいてほしいと、拒絶されたくせに。

(……俺の、だ)

 その思いが浮かんだ瞬間、エドワード自身が、最も強い衝撃を受けた。

(……何を、考えている)

 だが、一度生じた感情は、もう引き返せなかった。

 オレーリアがウォルターに礼を述べ、距離を取ろうとする。
 その仕草ひとつひとつが、胸を刺す。

( 痩せた理由も、倒れた理由も……)

(……全部、俺のせいだ)

 それなのに――彼女が他の男に触れられる光景だけは、どうしても、耐えがたかった。

 エドワードの内側で、「責任」という名の檻が音を立てて歪み始める。

 ――守るべきだった。
 ――壊したのは自分だ。
 ――それでも、奪われたくない。

 その矛盾した衝動こそが、執着が“感情”から“欲”へと変わった瞬間だった。

____________

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続き、全力で書きます!!
どうか見届けてください…!🙏💖
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