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本編 逆襲の幕開け
義妹への「先制泣き落とし」
翌朝、エメラルダがテラスで朝食を摂っていると、案の定「それ」はやってきた。
「お義姉様ぁ……昨日はあんなに怖かったのに、今日はいつも通りで安心しましたわ」
シャルロットが、ふわふわとした淡い桃色のドレスの裾を揺らしながら近づいてくる。その瞳には、昨日の鏡事件への恐怖など微塵も残っていない。むしろ「姉が情緒不安定なら、今のうちにレオナルド様の関心を奪い取れる」という、下卑た算段が透けて見えた。
「ええ、昨日は少し……どうかしていたのかしらね。ごめんなさい、シャルロット」
エメラルダはティーカップを口に運び、伏せ目がちに答える。
「いいんですの! それよりお義姉様、お願いがあるの。結婚式で身につけるエメラルドの首飾り、一度だけでいいから私に貸してくださらない? お義姉様の幸せのお裾分けをいただきたいの」
出た。前世でも繰り返された、厚顔無恥な「おねだり」だ。
(ああ、この甘ったるい声。今すぐその喉笛を掻っ切ってやりたいわ)
以前の自分なら、「妹がそんなに言うなら……」と、母の形見であり自分の名を冠した家宝を、事もあろうに婚約者の前で貸し与えてしまった。その結果、レオナルドは「エメラルダは宝飾品に無頓着だが、シャルロットは実によく似合う」などと抜かしたのだ。
「エメラルドの首飾り……? あれは、お母様の形見で、私の名前の由来でもある大切なものよ?」
「わかっていますわ! でも、お義姉様は当日もお召しになるでしょう? 私は今日一日だけでいいんですもの。……レオナルド様も、私がお義姉様の宝物を大切に身につけているのを見たら、きっと喜んでくださるわ」
シャルロットが、得意の「潤んだ瞳」でエメラルダの手を握る。
その時、庭の入り口にレオナルドの姿が見えた。打ち合わせのために訪れたのだろう。
(来たわね。……よし、ここからが見せ場よ)
エメラルダは、握られた手を大袈裟に震わせた。
「……っ!」
「お義姉様?」
シャルロットが怪訝な顔をした瞬間、エメラルダの目から、大粒の涙がポロポロと溢れ出した。
「お義姉様!? な、なぜ泣くの……!?」
「ごめんなさい……ごめんなさい、シャルロット。私、最低な姉だわ……!」
エメラルダは椅子から崩れ落ちるように膝をつき、顔を覆って号泣した。その泣き声は、遠くにいたレオナルドが血相を変えて駆け寄ってくるほどに、悲痛で、儚げだった。
「エメラルダ! どうしたんだ、一体何が……!」
レオナルドがエメラルダの肩を抱き寄せる。エメラルダは彼の胸に顔を埋め、さらに声を震わせた。
「レオナルド様……! 私、自分が恐ろしいのです。シャルロットが、お母様の形見を貸してほしいと言うだけなのに……それを聞いた瞬間、心臓が止まりそうになって……。結婚が怖くて、母の形見を握りしめていないと、夜も眠れないほど不安で……っ!」
「なっ……」
シャルロットが絶句する。
「私、公爵家に嫁ぐ重圧に押し潰されそうなの。だから、あの首飾りだけは……あれだけは、私の魂なんですの。それを貸せない自分を、シャルロットが『意地悪だ』と責めている気がして……ああ、私はなんて心の狭い女なのかしら……!」
エメラルダは、レオナルドの服をぎゅっと掴み、嗚咽を漏らす。
(どう? 私の「悲劇のヒロイン」っぷりは。シャルロット、あんたの安っぽい演技とは年季が違うのよ。なにしろ、死を経験してるんだから)
レオナルドの視線が、立ち尽くすシャルロットへと向けられた。その目は、明らかに不快感に満ちている。
「シャルロット嬢。君は、結婚を控えて不安定な姉に、そんな無理を強いたのか?」
「ち、違いますわ! 私はただ、お祝いの気持ちで……!」
「形見の品を貸せと迫るのが祝いの形か? エメラルダがここまで怯えているというのに。君は少し、慎みを覚えるべきだ」
「そんな……レオ様……っ」
シャルロットが今度は自分の涙を武器にしようと目を潤ませる。だが、エメラルダは逃さない。
「いいえ、レオナルド様。責めないで……彼女は悪くないわ。私が……私がもっと強ければ……うっ、ひっく……」
エメラルダはさらに過呼吸気味に呼吸を乱し、レオナルドの腕の中でぐったりと力を抜いた。
「エメラルダ! しっかりしろ! ……シャルロット嬢、悪いが席を外して欲しい。エメラルダには休息が必要だ。これ以上彼女を追い詰めないでくれ」
「……っ!!」
シャルロットは顔を真っ赤にして、屈辱に震えながら走り去っていった。
静かになったテラスで、レオナルドに抱かれながら、エメラルダは心の中で冷笑した。
(ざまぁみろ。あなたの「涙」という唯一の武器、私が先に、もっと美しく、完璧に演じ切ってあげたわよ)
「すまない、エメラルダ。君がこれほどまでに繊細で、不安を抱えていたとは気づかなかった。式の準備は僕が全て引き受ける。君はゆっくり休んでくれ」
レオナルドの優しい声。エメラルダの背中を撫でる手。
気持ち悪さで鳥肌が止まらない。
「ありがとうございます、レオナルド様……。貴方だけが、私の支えですわ……」
エメラルダは涙に濡れた瞳でレオナルドを見つめ、これ以上ないほど可憐に微笑んでみせた。
その瞳の奥に、どす黒い復讐の炎が爛々と輝いていることなど、鈍感な男はこれっぽっちも気づいていなかった。
__________
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「お義姉様ぁ……昨日はあんなに怖かったのに、今日はいつも通りで安心しましたわ」
シャルロットが、ふわふわとした淡い桃色のドレスの裾を揺らしながら近づいてくる。その瞳には、昨日の鏡事件への恐怖など微塵も残っていない。むしろ「姉が情緒不安定なら、今のうちにレオナルド様の関心を奪い取れる」という、下卑た算段が透けて見えた。
「ええ、昨日は少し……どうかしていたのかしらね。ごめんなさい、シャルロット」
エメラルダはティーカップを口に運び、伏せ目がちに答える。
「いいんですの! それよりお義姉様、お願いがあるの。結婚式で身につけるエメラルドの首飾り、一度だけでいいから私に貸してくださらない? お義姉様の幸せのお裾分けをいただきたいの」
出た。前世でも繰り返された、厚顔無恥な「おねだり」だ。
(ああ、この甘ったるい声。今すぐその喉笛を掻っ切ってやりたいわ)
以前の自分なら、「妹がそんなに言うなら……」と、母の形見であり自分の名を冠した家宝を、事もあろうに婚約者の前で貸し与えてしまった。その結果、レオナルドは「エメラルダは宝飾品に無頓着だが、シャルロットは実によく似合う」などと抜かしたのだ。
「エメラルドの首飾り……? あれは、お母様の形見で、私の名前の由来でもある大切なものよ?」
「わかっていますわ! でも、お義姉様は当日もお召しになるでしょう? 私は今日一日だけでいいんですもの。……レオナルド様も、私がお義姉様の宝物を大切に身につけているのを見たら、きっと喜んでくださるわ」
シャルロットが、得意の「潤んだ瞳」でエメラルダの手を握る。
その時、庭の入り口にレオナルドの姿が見えた。打ち合わせのために訪れたのだろう。
(来たわね。……よし、ここからが見せ場よ)
エメラルダは、握られた手を大袈裟に震わせた。
「……っ!」
「お義姉様?」
シャルロットが怪訝な顔をした瞬間、エメラルダの目から、大粒の涙がポロポロと溢れ出した。
「お義姉様!? な、なぜ泣くの……!?」
「ごめんなさい……ごめんなさい、シャルロット。私、最低な姉だわ……!」
エメラルダは椅子から崩れ落ちるように膝をつき、顔を覆って号泣した。その泣き声は、遠くにいたレオナルドが血相を変えて駆け寄ってくるほどに、悲痛で、儚げだった。
「エメラルダ! どうしたんだ、一体何が……!」
レオナルドがエメラルダの肩を抱き寄せる。エメラルダは彼の胸に顔を埋め、さらに声を震わせた。
「レオナルド様……! 私、自分が恐ろしいのです。シャルロットが、お母様の形見を貸してほしいと言うだけなのに……それを聞いた瞬間、心臓が止まりそうになって……。結婚が怖くて、母の形見を握りしめていないと、夜も眠れないほど不安で……っ!」
「なっ……」
シャルロットが絶句する。
「私、公爵家に嫁ぐ重圧に押し潰されそうなの。だから、あの首飾りだけは……あれだけは、私の魂なんですの。それを貸せない自分を、シャルロットが『意地悪だ』と責めている気がして……ああ、私はなんて心の狭い女なのかしら……!」
エメラルダは、レオナルドの服をぎゅっと掴み、嗚咽を漏らす。
(どう? 私の「悲劇のヒロイン」っぷりは。シャルロット、あんたの安っぽい演技とは年季が違うのよ。なにしろ、死を経験してるんだから)
レオナルドの視線が、立ち尽くすシャルロットへと向けられた。その目は、明らかに不快感に満ちている。
「シャルロット嬢。君は、結婚を控えて不安定な姉に、そんな無理を強いたのか?」
「ち、違いますわ! 私はただ、お祝いの気持ちで……!」
「形見の品を貸せと迫るのが祝いの形か? エメラルダがここまで怯えているというのに。君は少し、慎みを覚えるべきだ」
「そんな……レオ様……っ」
シャルロットが今度は自分の涙を武器にしようと目を潤ませる。だが、エメラルダは逃さない。
「いいえ、レオナルド様。責めないで……彼女は悪くないわ。私が……私がもっと強ければ……うっ、ひっく……」
エメラルダはさらに過呼吸気味に呼吸を乱し、レオナルドの腕の中でぐったりと力を抜いた。
「エメラルダ! しっかりしろ! ……シャルロット嬢、悪いが席を外して欲しい。エメラルダには休息が必要だ。これ以上彼女を追い詰めないでくれ」
「……っ!!」
シャルロットは顔を真っ赤にして、屈辱に震えながら走り去っていった。
静かになったテラスで、レオナルドに抱かれながら、エメラルダは心の中で冷笑した。
(ざまぁみろ。あなたの「涙」という唯一の武器、私が先に、もっと美しく、完璧に演じ切ってあげたわよ)
「すまない、エメラルダ。君がこれほどまでに繊細で、不安を抱えていたとは気づかなかった。式の準備は僕が全て引き受ける。君はゆっくり休んでくれ」
レオナルドの優しい声。エメラルダの背中を撫でる手。
気持ち悪さで鳥肌が止まらない。
「ありがとうございます、レオナルド様……。貴方だけが、私の支えですわ……」
エメラルダは涙に濡れた瞳でレオナルドを見つめ、これ以上ないほど可憐に微笑んでみせた。
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