義妹にすべてを奪われた公爵夫人の回帰、今度は私があなたの居場所を奪う番です

恋せよ恋

文字の大きさ
5 / 14
本編 逆襲の幕開け

義妹への「先制泣き落とし」

  翌朝、エメラルダがテラスで朝食を摂っていると、案の定「それ」はやってきた。

「お義姉様ぁ……昨日はあんなに怖かったのに、今日はで安心しましたわ」

 シャルロットが、ふわふわとした淡い桃色のドレスの裾を揺らしながら近づいてくる。その瞳には、昨日の鏡事件への恐怖など微塵も残っていない。むしろ「姉が情緒不安定なら、今のうちにレオナルド様の関心を奪い取れる」という、下卑た算段が透けて見えた。

「ええ、昨日は少し……どうかしていたのかしらね。ごめんなさい、シャルロット」

 エメラルダはティーカップを口に運び、伏せ目がちに答える。

「いいんですの! それよりお義姉様、お願いがあるの。結婚式で身につけるエメラルドの首飾り、一度だけでいいから私に貸してくださらない? お義姉様の幸せのお裾分けをいただきたいの」

 出た。前世でも繰り返された、厚顔無恥な「おねだり」だ。

(ああ、この甘ったるい声。今すぐその喉笛を掻っ切ってやりたいわ)
 
 なら、「妹がそんなに言うなら……」と、母の形見であり自分の名を冠した家宝を、事もあろうに婚約者の前で貸し与えてしまった。その結果、レオナルドは「エメラルダは宝飾品に無頓着だが、シャルロットは実によく似合う」などと抜かしたのだ。

「エメラルドの首飾り……? あれは、お母様の形見で、私の名前の由来でもある大切なものよ?」

「わかっていますわ! でも、お義姉様は当日もお召しになるでしょう? 私は今日一日だけでいいんですもの。……レオナルド様も、私がお義姉様の宝物を大切に身につけているのを見たら、きっと喜んでくださるわ」

 シャルロットが、得意の「潤んだ瞳」でエメラルダの
 その時、庭の入り口にレオナルドの姿が見えた。打ち合わせのために訪れたのだろう。

(来たわね。……よし、ここからが見せ場よ)

 エメラルダは、握られた手を大袈裟に震わせた。

「……っ!」

「お義姉様?」

 シャルロットが怪訝な顔をした瞬間、エメラルダの目から、大粒の涙がポロポロと溢れ出した。

「お義姉様!? な、なぜ泣くの……!?」

「ごめんなさい……ごめんなさい、シャルロット。私、最低な姉だわ……!」

 エメラルダは椅子から崩れ落ちるように膝をつき、顔を覆って号泣した。その泣き声は、遠くにいたレオナルドが血相を変えて駆け寄ってくるほどに、悲痛で、儚げだった。

「エメラルダ! どうしたんだ、一体何が……!」

 レオナルドがエメラルダの肩を抱き寄せる。エメラルダは彼の胸に顔を埋め、さらに声を震わせた。

「レオナルド様……! 私、自分が恐ろしいのです。シャルロットが、お母様の形見を貸してほしいと言うだけなのに……それを聞いた瞬間、心臓が止まりそうになって……。結婚が怖くて、母の形見を握りしめていないと、夜も眠れないほど不安で……っ!」

「なっ……」

 シャルロットが絶句する。

「私、公爵家に嫁ぐ重圧に押し潰されそうなの。だから、あの首飾りだけは……あれだけは、私の魂なんですの。それを貸せない自分を、シャルロットが『意地悪だ』と責めている気がして……ああ、私はなんて心の狭い女なのかしら……!」

 エメラルダは、レオナルドの服をぎゅっと掴み、嗚咽を漏らす。

(どう? 私の「悲劇のヒロイン」っぷりは。シャルロット、あんたの安っぽい演技とは年季が違うのよ。なにしろ、死を経験してるんだから)

 レオナルドの視線が、立ち尽くすシャルロットへと向けられた。その目は、明らかに不快感に満ちている。

「シャルロット嬢。君は、結婚を控えて不安定な姉に、そんな無理を強いたのか?」

「ち、違いますわ! 私はただ、お祝いの気持ちで……!」

「形見の品を貸せと迫るのが祝いの形か? エメラルダがここまで怯えているというのに。君は少し、慎みを覚えるべきだ」

「そんな…………っ」

 シャルロットが今度は自分の涙を武器にしようと目を潤ませる。だが、エメラルダは逃さない。

「いいえ、レオナルド様。責めないで……彼女は悪くないわ。私が……私がもっと強ければ……うっ、ひっく……」

 エメラルダはさらに過呼吸気味に呼吸を乱し、レオナルドの腕の中でぐったりと力を抜いた。

「エメラルダ! しっかりしろ! ……シャルロット嬢、悪いが席を外して欲しい。エメラルダには休息が必要だ。これ以上彼女を追い詰めないでくれ」

「……っ!!」

 シャルロットは顔を真っ赤にして、屈辱に震えながら走り去っていった。

 静かになったテラスで、レオナルドに抱かれながら、エメラルダは心の中で冷笑した。

(ざまぁみろ。あなたの「涙」という唯一の武器、私が先に、もっと美しく、完璧に演じ切ってあげたわよ)

「すまない、エメラルダ。君がこれほどまでに繊細で、不安を抱えていたとは気づかなかった。式の準備は僕が全て引き受ける。君はゆっくり休んでくれ」

 レオナルドの優しい声。エメラルダの背中を撫でる手。
 気持ち悪さで鳥肌が止まらない。

「ありがとうございます、レオナルド様……。貴方だけが、私の支えですわ……」

 エメラルダは涙に濡れた瞳でレオナルドを見つめ、これ以上ないほど可憐に微笑んでみせた。
 その瞳の奥に、どす黒い復讐の炎が爛々と輝いていることなど、鈍感な男はこれっぽっちも気づいていなかった。
__________

エール📣いいね❤️お気に入り⭐️応援よろしくお願いします🙇‍♀️

あなたにおすすめの小説

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。 学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。 そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。 それなら、婚約を解消いたしましょう。 そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪

百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。 でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。 誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。 両親はひたすらに妹をスルー。 「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」 「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」 無理よ。 だって私、大公様の妻になるんだもの。 大忙しよ。

妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?

百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」 あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。 で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。 そんな話ある? 「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」 たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。 あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね? でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する? 「君の妹と、君の婚約者がね」 「そう。薄情でしょう?」 「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」 「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」 イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。 あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。 ==================== (他「エブリスタ」様に投稿)

初恋のひとに告白を言いふらされて学園中の笑い者にされましたが、大人のつまはじきの方が遥かに恐ろしいことを彼が教えてくれました

3333(トリささみ)
恋愛
「あなたのことが、あの時からずっと好きでした。よろしければわたくしと、お付き合いしていただけませんか?」 男爵令嬢だが何不自由なく平和に暮らしていたアリサの日常は、その告白により崩れ去った。 初恋の相手であるレオナルドは、彼女の告白を陰湿になじるだけでなく、通っていた貴族学園に言いふらした。 その結果、全校生徒の笑い者にされたアリサは悲嘆し、絶望の底に突き落とされた。 しかしそれからすぐ『本物のつまはじき』を知ることになる。 社会的な孤立をメインに書いているので読む人によっては抵抗があるかもしれません。 一人称視点と三人称視点が交じっていて読みにくいところがあります。

「今日から妹も一緒に住む」幼馴染と結婚したら彼の妹もついてきた。妹を溺愛して二人の生活はすれ違い離婚へ。

佐藤 美奈
恋愛
「今日から妹のローラも一緒に住むからな」 ミカエルから突然言われてクロエは寝耳に水の話だった。伯爵家令嬢一人娘のクロエは、幼馴染のミカエル男爵家の次男と結婚した。 クロエは二人でいつまでも愛し合って幸福に暮らせると思っていた。だがミカエルの妹ローラの登場で生活が変わっていく。クロエとローラは学園に通っていた時から仲が悪く何かと衝突していた。 住んでいる邸宅はクロエの亡き両親が残してくれたクロエの家で財産。クロエがこの家の主人なのに、入り婿で立場の弱かったミカエルが本性をあらわして、我儘言って好き放題に振舞い始めた。

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)