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Ⅸ ルナリア王国: シリウス訪問
4 王家訪問
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シリウスの起こした事件以降、マーガレットの身体にはわずかな痛みが残っていた。
しかし、彼の魔導官としての未来を奪ってはいけないとの思いから、ルナリア王国への訪問は叶えられた。
「マーガレット・レーヴェン伯爵令嬢。このたびのこと、我が国の魔導官シリウスの不祥事、誠に申し訳なかった」
ルナリア王国陛下が正式に謝罪の言葉を口にする。
「陛下、お心遣いありがとうございます。私の転移先はリュシア王女殿下の予知によって助けられたと聞きました。重ねて、感謝いたします」
マーガレットはカーテシーで礼を示した。
謁見の間には、レオン王太子、マルクス王子、そしてリュシア王女が控えていた。誰もが硬い表情を浮かべている。
リュシア王女は瞳を潤ませ、謝罪の言葉を口にした。
「マーガレット、本当に無事でよかったわ。それに、シリウスにまで慈悲をかけてくださって……あなたは、素晴らしい女性ですわ。
こんなことがあったけれど、まだ私とお友達でいてくれますか?」
「もったいないお言葉ですわ。今後とも仲良くしていただきたいのは、私の方ですわ、リュシア王女殿下」
マーガレットは優しい笑みを浮かべた。
「それに、王家より賜った“ルナリアの涙”が私を守ってくれました。
私こそ、貴重なものをありがとうございました」
マーガレットは首から下げたペンダント“ルナリアの涙”に触れ、瞳を潤ませた。
謁見の後、マーガレットには滞在用の居室が用意された。
部屋の内装や食事、侍女たちの応対に至るまで、細やかな心遣いが感じられる。
マーガレットは丁寧に歓迎の意を示し、ようやくゆったりと身体を休めることができた。
その後、リュシア王女が、ふわりと微笑みながらマーガレットの居室を訪れた。
マーガレットは伯爵令嬢ではあるが、“白き塔の才女”として崇められ、同年代で気を許せる友人はほとんどいなかった。
リュシア王女もまた、王族という立場上、同じく気心の知れた友人は少ない。
二人は居室で向かい合い、しばし静かな時間を過ごした。
「……やっぱり、あなたの話を聞くと、少し安心するわ」
リュシア王女が小さく笑う。瞳には、ほんの少しだけ不安と寂しさが滲んでいる。
「わかります……私も、同じです」
マーガレットはペンダントに触れながら、やわらかく頷いた。
「でも、王族や貴族としての立場って、ほんとうに窮屈ですよね……」
二人はため息をつく。
「ニコラス殿下のこと……あなた、まだ思っているんでしょう?」
リュシアが少し意地悪く、でも優しく問いかける。
「……ええ。でも、アルマディス公国のオーデリア公女との縁組の話がどうなるか、まだわからないのです」
マーガレットの瞳は少し寂しげに揺れた。
リュシアもまた、心の奥を覗かれるようで顔を伏せる。
「私……シリウス様が気になっているの。でも、年齢差もあるし、私たち王族は、他国との政略結婚も避けられない……」
声に出すと、心の重さが増したように、肩が小さく揺れる。
二人は再びため息をつき、言葉にできないもどかしさを互いに感じた。
それでも、同じ境遇を共有できる“理解者”としての温かさが、胸の奥に小さな光を灯していた。
二人は自然と肩を並べ、窓の外の雪山を見つめる。
冷たい空気の中に、少しだけ温かさが混ざる。
「でも……」
リュシアが小さくつぶやく。
「私たち……恋の話になると、どうしてもため息が出ちゃうわね」
マーガレットも小さく笑った。
「そうですね。でも、ため息が出るほど大切なものがある――ってことですわ」
互いに微笑み合い、少しだけ距離が縮まった。
立場の制約も、年齢差も、未来の不確定さも――
そのすべてを抱えながら、二人は“同じ心を持つ友”として寄り添えることを、静かに喜んでいた。
つづく
______________
いいね❤️&応援ありがとうございます🌿
皆さまのひと押しが執筆の力になります✨
しかし、彼の魔導官としての未来を奪ってはいけないとの思いから、ルナリア王国への訪問は叶えられた。
「マーガレット・レーヴェン伯爵令嬢。このたびのこと、我が国の魔導官シリウスの不祥事、誠に申し訳なかった」
ルナリア王国陛下が正式に謝罪の言葉を口にする。
「陛下、お心遣いありがとうございます。私の転移先はリュシア王女殿下の予知によって助けられたと聞きました。重ねて、感謝いたします」
マーガレットはカーテシーで礼を示した。
謁見の間には、レオン王太子、マルクス王子、そしてリュシア王女が控えていた。誰もが硬い表情を浮かべている。
リュシア王女は瞳を潤ませ、謝罪の言葉を口にした。
「マーガレット、本当に無事でよかったわ。それに、シリウスにまで慈悲をかけてくださって……あなたは、素晴らしい女性ですわ。
こんなことがあったけれど、まだ私とお友達でいてくれますか?」
「もったいないお言葉ですわ。今後とも仲良くしていただきたいのは、私の方ですわ、リュシア王女殿下」
マーガレットは優しい笑みを浮かべた。
「それに、王家より賜った“ルナリアの涙”が私を守ってくれました。
私こそ、貴重なものをありがとうございました」
マーガレットは首から下げたペンダント“ルナリアの涙”に触れ、瞳を潤ませた。
謁見の後、マーガレットには滞在用の居室が用意された。
部屋の内装や食事、侍女たちの応対に至るまで、細やかな心遣いが感じられる。
マーガレットは丁寧に歓迎の意を示し、ようやくゆったりと身体を休めることができた。
その後、リュシア王女が、ふわりと微笑みながらマーガレットの居室を訪れた。
マーガレットは伯爵令嬢ではあるが、“白き塔の才女”として崇められ、同年代で気を許せる友人はほとんどいなかった。
リュシア王女もまた、王族という立場上、同じく気心の知れた友人は少ない。
二人は居室で向かい合い、しばし静かな時間を過ごした。
「……やっぱり、あなたの話を聞くと、少し安心するわ」
リュシア王女が小さく笑う。瞳には、ほんの少しだけ不安と寂しさが滲んでいる。
「わかります……私も、同じです」
マーガレットはペンダントに触れながら、やわらかく頷いた。
「でも、王族や貴族としての立場って、ほんとうに窮屈ですよね……」
二人はため息をつく。
「ニコラス殿下のこと……あなた、まだ思っているんでしょう?」
リュシアが少し意地悪く、でも優しく問いかける。
「……ええ。でも、アルマディス公国のオーデリア公女との縁組の話がどうなるか、まだわからないのです」
マーガレットの瞳は少し寂しげに揺れた。
リュシアもまた、心の奥を覗かれるようで顔を伏せる。
「私……シリウス様が気になっているの。でも、年齢差もあるし、私たち王族は、他国との政略結婚も避けられない……」
声に出すと、心の重さが増したように、肩が小さく揺れる。
二人は再びため息をつき、言葉にできないもどかしさを互いに感じた。
それでも、同じ境遇を共有できる“理解者”としての温かさが、胸の奥に小さな光を灯していた。
二人は自然と肩を並べ、窓の外の雪山を見つめる。
冷たい空気の中に、少しだけ温かさが混ざる。
「でも……」
リュシアが小さくつぶやく。
「私たち……恋の話になると、どうしてもため息が出ちゃうわね」
マーガレットも小さく笑った。
「そうですね。でも、ため息が出るほど大切なものがある――ってことですわ」
互いに微笑み合い、少しだけ距離が縮まった。
立場の制約も、年齢差も、未来の不確定さも――
そのすべてを抱えながら、二人は“同じ心を持つ友”として寄り添えることを、静かに喜んでいた。
つづく
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