愛より金貨!〜虐げられ令嬢、脳内の守銭奴妖精と不遇を吹っ飛ばす〜

恋せよ恋

文字の大きさ
7 / 13

お兄様の縁談クラッシャー

しおりを挟む
「……テオ、調べられた?」
 わたくしは離宮の裏で、影のように佇むテオに問いかけました。

 七歳になったわたくしの前で、テオは恭しく膝をついています。彼ら孤児たちにとって、わたくしが与える「おカネ」と「的確な指示」は、もはや神託に近いものになっていました。

「はい、ボス。ルシアン様の婚約者候補、ロシュフォール伯爵令嬢の生家についてです。……あそこは、見た目こそ華やかですが、中身はシロアリに食われた大黒柱のような有様ですよ」
 テオが差し出した紙片には、汚い字でびっしりと数字が並んでいました。

 それを見たわたくしは、思わずクスッと笑ってしまいました。
「……まぁ。去年の不作を、隣国からの借金で埋めてるの? それも、利息がすごく高い闇のギルドから……」

『ひっひっひ! 典型的な「見栄っ張り」の自滅パターンだね。アニエス、あの一家がルシアンを欲しがっているのは、愛でも同盟でもないよ。侯爵家からの「持参金」で、自分たちの首の皮一枚を繋ごうとしてるのさ』

「お兄様を、おカネの代わりにしようなんて……。許さないわ」
 わたくしの瞳から、温度が消えました。

 ルシアンお兄様は、内緒でわたくしにパンや教科書を届けるために、自分のお小遣いを削ってまで尽くしてくれました。そのお兄様を、借金のカタに売るなんて、商売人としても妹としても、看過できません。

「テオ。……この伯爵家の借用書を、すべて買い集めてきて。もちろん、わたくしの名前は出さないでね」
「すべて……ですか? かなりのリラになりますが……」

「大丈夫よ。先月の『塩の先物取引』で稼いだ分があるわ。……それから、街で一番有名な『貸金業者』に、こう伝えて――」
 わたくしは、七歳の子供らしい愛らしい声で、恐ろしい内容を囁きました。
「――ロシュフォール伯爵家は、もうすぐ破産するわよ。今のうちに債権を手放さないと、1リラも戻ってこないわよ、って」

 数日後。侯爵邸の応接室からは、お父様の怒号が響いていました。
「どういうことだ! ロシュフォール伯爵家が破産申請を出しただと!? 婚約の話はどうなる!」

 隠し扉の向こうで聞き耳を立てていたわたくしは、満足げに口角を上げました。
 わたくしが裏で手を回し、伯爵家の借金を一気に「一括返済」か「破産」かの二択に追い込んだのです。結果、彼らは婚約どころではなくなり、夜逃げ同然で領地へ引きこもっていきました。
「……ふぅ。これでひとつ、お片付け完了ね」

『あくどいねぇ、アニエス! まさか、お兄ちゃんの婚約話を「債権回収」の一環で叩き潰すとはね。……おかげで、あんたの手元には伯爵家の領地の一部が転がり込んできたじゃないか』

「えへへ。お兄様の自由も守れて、わたくしの資産も増える。……これこそ、最高の『人助け』でしょ?」
 わたくしが離宮へ戻ろうとすると、庭の向こうで呆然と立ち尽くしているルシアンお兄様を見つけました。

「ルシアンお兄様!」
「……アニエス。……不思議なんだ。あんなに強引だった縁談が、急に立ち消えになった。まるでお星様が、僕を助けてくれたみたいだ……」
 
 お兄様は、わたくしを抱きしめて震えていました。
 そのお星様の正体が、泥だらけの手で計算書を睨んでいる妹だとは、夢にも思っていないでしょう。

「よかったね、ルシアンお兄様! これでまた、わたくしとお勉強できるね!」
「ああ、そうだね。……ありがとう、アニエス」
 お兄様の優しい声を聞きながら、わたくしは決意を新たにしました。今はまだ、お兄様の「婚約を壊す」程度。
 でも、もっとおカネを貯めて、もっと大きな力を手に入れたら――。

 その時、頭の中のおねえちゃんが、真剣な声で囁きました。

『……アニエス、浮かれてる場合じゃないよ。街のギルドが騒ぎ始めてる。……「正体不明の影の投資家」を探そうとしている連中がいる。その中には、隣国の冷徹な公爵も混じっているみたいだねぇ』

「……隣国の、公爵しゃま?」
 わたくしは、まだ見ぬその人物の名を、小さな舌で転がしました。

 これが、のちにわたくしの「全財産」を狙いに来る、あの腹黒公爵フェリックスとの、見えない接触の始まりでした。
______________

エール📣いいね❤️お気に入り⭐️よろしくお願いします🙇‍♀️

📢✨新作告知【「親友だから分かってくれるよね?」と泣いた二人~無自覚な善意で私を壊した~】

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱令嬢…?いいえ私は…

月樹《つき》
恋愛
 アイゼンハルト公爵家の長女クララは生まれた時からずっと病弱で、一日の大半をベッドの上で過ごして来た。対するクララの婚約者で第三皇子のペーターはとても元気な少年で…寝たきりのクララの元を訪ねることもなく、学園生活を満喫していた。そんなクララも15歳となり、何とかペーターと同じ学園に通えることになったのだが…そこで明るく元気な男爵令嬢ハイジと仲睦まじくするペーター皇子の姿を見て…ショックのあまり倒れてしまった…。 (ペーターにハイジって…某アルプスの少女やんか〜い!!) 謎の言葉を頭に思い浮かべながら…。 このお話は他サイトにも投稿しております。

本当に現実を生きていないのは?

朝樹 四季
恋愛
ある日、ヒロインと悪役令嬢が言い争っている場面を見た。ヒロインによる攻略はもう随分と進んでいるらしい。 だけど、その言い争いを見ている攻略対象者である王子の顔を見て、俺はヒロインの攻略をぶち壊す暗躍をすることを決意した。 だって、ここは現実だ。 ※番外編はリクエスト頂いたものです。もしかしたらまたひょっこり増えるかもしれません。

王太子に理不尽に婚約破棄されたので辺境を改革したら、王都に戻ってきてくれと言われました

水上
恋愛
【全18話完結】 「君は中身まで腐っている」と婚約破棄されたエリアナ。 そんな彼女は成り行きで辺境へ嫁ぐことに。 自身の知識と技術で辺境を改革するエリアナ。 そんな彼女を、白い結婚のはずなのに「膝枕は合理的だ」と甘やかす夫。 一方、エリアナを追放した王都では、彼女の不在の影響が出始めて……。

『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?

あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。 「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ共和国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ共和国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ共和国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

婚約者マウントを取ってくる幼馴染の話をしぶしぶ聞いていたら、あることに気が付いてしまいました 

柚木ゆず
恋愛
「ベルティーユ、こうして会うのは3年ぶりかしらっ。ねえ、聞いてくださいまし! わたくし一昨日、隣国の次期侯爵様と婚約しましたのっ!」  久しぶりにお屋敷にやって来た、幼馴染の子爵令嬢レリア。彼女は婚約者を自慢をするためにわざわざ来て、私も婚約をしていると知ったら更に酷いことになってしまう。  自分の婚約者の方がお金持ちだから偉いだとか、自分のエンゲージリングの方が高価だとか。外で口にしてしまえば大問題になる発言を平気で行い、私は幼馴染だから我慢をして聞いていた。  ――でも――。そうしていたら、あることに気が付いた。  レリアの婚約者様一家が経営されているという、ルナレーズ商会。そちらって、確か――

処理中です...