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【8】諦め★
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気を失ったレジーナが最初に感じたのは手の温かさだった。誰かに握られる。そんな些細なことが懐かしい。
「レジーナ、気がついたか!?」
重い瞼を開けるとアンセルの顔があり、あれが夢ではなかったことを教えてくれる。
「アンセル様?」
震える唇で確かめるように音を紡ぐ。
「ああ、久しぶりだな」
「手が……」
握られていた手をじっと見つめ、温もりの正体を知る。思い出の中のアンセルとは違うけれど、大きくてしっかりとした男の人の手だ。
「私を、助けてくれたのですね」
「助けるのが遅くなってすまない。それに、お前の魔法に助けられたのは俺だ。そのせいでお前は……」
全てを語らずともレジーナは自らの最期を自覚しているようだった。浮かべる笑顔の儚さに、幼い頃の無邪気さは感じられない。諦めの宿った表情は見ているだけで痛々しく、この手を放せばもう二度と会えなくなってしまう気がした。
「いいんです、もう。疲れました」
助けてと叫び続けていたけれど、ずっと外に出ても意味はあるのかと考えていた。
「帰る場所もない、私が生きていても喜ぶ人はいない。でも、最後にアンセル様に会えました」
レジーナが微笑む。外に出たいと願ったのはアンセルに会いたかったからだ。その願いが叶ってしまっては、もう他に望むことはない。
「アンセル様を助けられて、良かったです」
「君は、死にたいのか?」
「はい」
誰にも必要とされないのなら生きていても虚しいだけだ。一人で生きて行くと言えるほど、今のレジーナの心は強くない。
「ふざけるな!」
穏やかだったアンセルの声が強くなる。顔の横に突かれた手には強い力が宿っていた。
「俺との約束を忘れたか?」
「やくそく……」
忘れるはずがない。全てを奪われたレジーナにとって、アンセルとの思い出だけが希望だった。
「俺はお前を助けたい。だから――」
握られていた手が離れ、名残惜しさを感じる。レジーナは別れを覚悟するが、美しい顔が目の前に迫っていた。
屈んだアンセルの唇が己のものに重ねられ、驚きに目を見張る。触れるだけの口づけが離れ、無情な宣告が下された。
「今からお前を抱く」
その意味をレジーナは知っていた。
魔力供給は前世の献血のようなものだ。そしてあまり公にはなっていないが、身体を重ねることでより強い効果を得らることができる。
「だ――」
反論する前に身を乗り上げたアンセルに唇を塞がれる。今度は片手で頭を引き寄せられ、逃げようとすれば舌で唇をこじ開けられた。
「んうっ!」
「大人しくしてくれ」
跳ねた身体を押さえられるが、そう言われても心が追いつかない。深く口内を犯され、ねっとりと舌がかき混ぜていく。離れては触れ、その合い間に息をしろと促された。重なる唇からアンセルの魔力が伝わってくる。
「頼む、逃げないでくれ」
命を救われたことへの罪悪感からアンセルは自分を助けようとしている。そんなことのために愛する人を汚したくない。綺麗な思い出を抱えたまま消える方がお互いのためだ。
「アンセルさま、いけません。アンセル様は、王子で」
「今は国王だ」
幽閉されている間に外の世界はレジーナが知るものと変わってしまった。同盟国との仲は悪く、アンセルは本当に王になっていた。尚更このようなことをさせてはいけない。
「国王陛下が、いけません」
「なら他の奴に任せろって? ふざけるなよ。ほら、余計な体力を使うな」
口づけは止まず、寝衣の紐を緩められる。肩から羽織るだけの布は簡単に前を広げられ、何も身につけていない身体がアンセルの前に晒された。
「いや!」
元々自分の身体に自信があるわけではなかった。悪役令嬢と呼ばれるだけあってレジーナの容姿は整っていると思うけれど、幽閉生活のせいでかつての美貌は衰えている。
ただでさえ誰かに肌を見せたことはなく、初恋の人に見られるのが貧相な身体であることが恥ずかしい。しかし逃げ出そうとした肩が押さえられる。
「悪いな。俺はお前に生きていてほしいんだよ」
悲しそうな声が落ちる。隣に寝ころぶアンセルの腕が頭の下に回り、布団を剥ぎ取られ迷わず秘部に手が伸びた。
「レジーナ、気がついたか!?」
重い瞼を開けるとアンセルの顔があり、あれが夢ではなかったことを教えてくれる。
「アンセル様?」
震える唇で確かめるように音を紡ぐ。
「ああ、久しぶりだな」
「手が……」
握られていた手をじっと見つめ、温もりの正体を知る。思い出の中のアンセルとは違うけれど、大きくてしっかりとした男の人の手だ。
「私を、助けてくれたのですね」
「助けるのが遅くなってすまない。それに、お前の魔法に助けられたのは俺だ。そのせいでお前は……」
全てを語らずともレジーナは自らの最期を自覚しているようだった。浮かべる笑顔の儚さに、幼い頃の無邪気さは感じられない。諦めの宿った表情は見ているだけで痛々しく、この手を放せばもう二度と会えなくなってしまう気がした。
「いいんです、もう。疲れました」
助けてと叫び続けていたけれど、ずっと外に出ても意味はあるのかと考えていた。
「帰る場所もない、私が生きていても喜ぶ人はいない。でも、最後にアンセル様に会えました」
レジーナが微笑む。外に出たいと願ったのはアンセルに会いたかったからだ。その願いが叶ってしまっては、もう他に望むことはない。
「アンセル様を助けられて、良かったです」
「君は、死にたいのか?」
「はい」
誰にも必要とされないのなら生きていても虚しいだけだ。一人で生きて行くと言えるほど、今のレジーナの心は強くない。
「ふざけるな!」
穏やかだったアンセルの声が強くなる。顔の横に突かれた手には強い力が宿っていた。
「俺との約束を忘れたか?」
「やくそく……」
忘れるはずがない。全てを奪われたレジーナにとって、アンセルとの思い出だけが希望だった。
「俺はお前を助けたい。だから――」
握られていた手が離れ、名残惜しさを感じる。レジーナは別れを覚悟するが、美しい顔が目の前に迫っていた。
屈んだアンセルの唇が己のものに重ねられ、驚きに目を見張る。触れるだけの口づけが離れ、無情な宣告が下された。
「今からお前を抱く」
その意味をレジーナは知っていた。
魔力供給は前世の献血のようなものだ。そしてあまり公にはなっていないが、身体を重ねることでより強い効果を得らることができる。
「だ――」
反論する前に身を乗り上げたアンセルに唇を塞がれる。今度は片手で頭を引き寄せられ、逃げようとすれば舌で唇をこじ開けられた。
「んうっ!」
「大人しくしてくれ」
跳ねた身体を押さえられるが、そう言われても心が追いつかない。深く口内を犯され、ねっとりと舌がかき混ぜていく。離れては触れ、その合い間に息をしろと促された。重なる唇からアンセルの魔力が伝わってくる。
「頼む、逃げないでくれ」
命を救われたことへの罪悪感からアンセルは自分を助けようとしている。そんなことのために愛する人を汚したくない。綺麗な思い出を抱えたまま消える方がお互いのためだ。
「アンセルさま、いけません。アンセル様は、王子で」
「今は国王だ」
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「国王陛下が、いけません」
「なら他の奴に任せろって? ふざけるなよ。ほら、余計な体力を使うな」
口づけは止まず、寝衣の紐を緩められる。肩から羽織るだけの布は簡単に前を広げられ、何も身につけていない身体がアンセルの前に晒された。
「いや!」
元々自分の身体に自信があるわけではなかった。悪役令嬢と呼ばれるだけあってレジーナの容姿は整っていると思うけれど、幽閉生活のせいでかつての美貌は衰えている。
ただでさえ誰かに肌を見せたことはなく、初恋の人に見られるのが貧相な身体であることが恥ずかしい。しかし逃げ出そうとした肩が押さえられる。
「悪いな。俺はお前に生きていてほしいんだよ」
悲しそうな声が落ちる。隣に寝ころぶアンセルの腕が頭の下に回り、布団を剥ぎ取られ迷わず秘部に手が伸びた。
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