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【13】対決
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庭園を抜け、かつて手を引きアンセルを案内した草原へ連れられる。あの頃にはなかったベンチに下ろされ、ここで待っていてほしいと言われた。
「もう一度、この景色を見ることができるなんて」
青い花は踏み荒らされ無残に散ってしまったけれど、いずれこの地はよみがえるだろう。死を覚悟した自分が再び生きる決意を持てたのだから。
(私に何ができるかわからないけれど、アンセル様が望んでくださった命。たとえアンセル様が国に帰られても、お役に立つことができたなら)
これからのことを考えられるようになったのもアンセルのおかげだ。
「アンセル様」
「何がアンセル様よ」
背後から聞こえた声に驚いて立ち上がる。振り返るとそこにはレジーナを追い込んだ元凶がいた。
「リリス・シャーリー?」
その形相にかつての面影はない。無邪気な笑顔は消え、瞳に宿るのは憎悪だ。着ている服も質素になり、忌々しそうにレジーナを睨み近づいてくる。不意に表情を消し昔のように無邪気な笑みを見せたが、明らかに張りつけたものだ。
「お久しぶりです~。レジーナ様、生きてたんですね」
「貴女……」
「そうですよ~。お元気そうですね。え、あたしですか? あたしはもう最悪です。すっかり国を傾けた重罪人扱い。ああでも、傾国の魔女って響きは魅力的ですよね」
頼んでもいないのにリリスは語り続ける。そうすることで心を保っているようだった。
「あれからあたし、どうしたと思います? もちろん魅了を使って匿ってもらったんですよ。でも使える人数は限られているし、魅力ってすっごく疲れるんです。だから力も尽きかけで、魔力が足りないんですよね。それで思い出したんです。ああ、私には都合のいい供給装置がいたなって」
どれも激しい感情を抑え込み、無理矢理言葉を紡いでいるように聞こえる。
「何を言っているの」
「レジーナ様、どうして死んでないんですか? 悪役令嬢は邪魔だって言ったじゃないですか。どうせ生きていたのなら、貴女の無駄な魔力、私にくださいよ」
目の前に迫り、差し出されたリリスの手にぞっとする。
「い、いやよ……」
「どうして? だって、誰もレジーナ様のことなんて必要としていないんですよ。エドワード様も、ご両親も、お兄様も、誰もレジーナ様を愛さない。必要としない。でもあたしだけは違います。ほらレジーナ様。早くその力、くださ」
「ふざけないで!」
「ふざけないで? ふざけているのはレジーナ様ですよね。悪役令嬢のくせにアンセル陛下に救出されて、悲劇のヒロイン気取りですか? 主人公のあたしが犯罪者扱いされてるのに狡いです」
「勝手なことを、言わないで」
「はあ?」
リリスと対峙したのなら、もっと恐ろしいと思っていた。今もその迫力に押し負けそうではあるけれど、彼女の言葉を聞いていると恐怖よりも別の感情が生まれてくる。
自分のことしか考えない横暴な態度を前に、あの部屋に閉じ込められていた怒りが湧き上がる。
「貴女の言葉は嘘ばかり」
「何よ」
「私は貴女の思い通りにはならない。いつまで悪役令嬢だとか主人公だとか、わけのわからないことを言っているの。そんな理由で私は三年も閉じ込められていたの? 信じられない! 私は、もうあなたに自由を奪われたりしない!」
「よく言った。レジーナ」
頼もしい声が傍で聞こえ、振り返る前に背後から抱きしめられる。その腕の温かさに張りつめていた緊張が解けた。この腕が自分を守ってくれる、決して裏切ることはないのだとと身体が憶えている。
「アンセル様!」
「ちっ、邪魔が」
敗北を悟ったリリスが逃亡するより早く兵士が彼女を取り囲む。魔力がないと言うのは本当のようで、彼女の魅了が発動されることはなかった。
「ようやく尻尾を出したな」
リリスに向けられる声は冷たいものだ。けれどレジーナ抱き寄せる腕は温かい。
「悪い、レジーナ。どうしても帰国する前にお前に害を成す存在を片づけておきたかった」
「いいえ。アンセル様が守ってくださいました」
囮にされたことへの怒りはない。おかげでリリスに立ち向かう勇気に気付くことができた。それはもうずっと自分の中にあったのだから。
抱きしめる腕に手を触れるだけで安心する。リリスのどんな言葉よりもアンセルの声が、存在がレジーナの心を動かしていた。
「もう一度、この景色を見ることができるなんて」
青い花は踏み荒らされ無残に散ってしまったけれど、いずれこの地はよみがえるだろう。死を覚悟した自分が再び生きる決意を持てたのだから。
(私に何ができるかわからないけれど、アンセル様が望んでくださった命。たとえアンセル様が国に帰られても、お役に立つことができたなら)
これからのことを考えられるようになったのもアンセルのおかげだ。
「アンセル様」
「何がアンセル様よ」
背後から聞こえた声に驚いて立ち上がる。振り返るとそこにはレジーナを追い込んだ元凶がいた。
「リリス・シャーリー?」
その形相にかつての面影はない。無邪気な笑顔は消え、瞳に宿るのは憎悪だ。着ている服も質素になり、忌々しそうにレジーナを睨み近づいてくる。不意に表情を消し昔のように無邪気な笑みを見せたが、明らかに張りつけたものだ。
「お久しぶりです~。レジーナ様、生きてたんですね」
「貴女……」
「そうですよ~。お元気そうですね。え、あたしですか? あたしはもう最悪です。すっかり国を傾けた重罪人扱い。ああでも、傾国の魔女って響きは魅力的ですよね」
頼んでもいないのにリリスは語り続ける。そうすることで心を保っているようだった。
「あれからあたし、どうしたと思います? もちろん魅了を使って匿ってもらったんですよ。でも使える人数は限られているし、魅力ってすっごく疲れるんです。だから力も尽きかけで、魔力が足りないんですよね。それで思い出したんです。ああ、私には都合のいい供給装置がいたなって」
どれも激しい感情を抑え込み、無理矢理言葉を紡いでいるように聞こえる。
「何を言っているの」
「レジーナ様、どうして死んでないんですか? 悪役令嬢は邪魔だって言ったじゃないですか。どうせ生きていたのなら、貴女の無駄な魔力、私にくださいよ」
目の前に迫り、差し出されたリリスの手にぞっとする。
「い、いやよ……」
「どうして? だって、誰もレジーナ様のことなんて必要としていないんですよ。エドワード様も、ご両親も、お兄様も、誰もレジーナ様を愛さない。必要としない。でもあたしだけは違います。ほらレジーナ様。早くその力、くださ」
「ふざけないで!」
「ふざけないで? ふざけているのはレジーナ様ですよね。悪役令嬢のくせにアンセル陛下に救出されて、悲劇のヒロイン気取りですか? 主人公のあたしが犯罪者扱いされてるのに狡いです」
「勝手なことを、言わないで」
「はあ?」
リリスと対峙したのなら、もっと恐ろしいと思っていた。今もその迫力に押し負けそうではあるけれど、彼女の言葉を聞いていると恐怖よりも別の感情が生まれてくる。
自分のことしか考えない横暴な態度を前に、あの部屋に閉じ込められていた怒りが湧き上がる。
「貴女の言葉は嘘ばかり」
「何よ」
「私は貴女の思い通りにはならない。いつまで悪役令嬢だとか主人公だとか、わけのわからないことを言っているの。そんな理由で私は三年も閉じ込められていたの? 信じられない! 私は、もうあなたに自由を奪われたりしない!」
「よく言った。レジーナ」
頼もしい声が傍で聞こえ、振り返る前に背後から抱きしめられる。その腕の温かさに張りつめていた緊張が解けた。この腕が自分を守ってくれる、決して裏切ることはないのだとと身体が憶えている。
「アンセル様!」
「ちっ、邪魔が」
敗北を悟ったリリスが逃亡するより早く兵士が彼女を取り囲む。魔力がないと言うのは本当のようで、彼女の魅了が発動されることはなかった。
「ようやく尻尾を出したな」
リリスに向けられる声は冷たいものだ。けれどレジーナ抱き寄せる腕は温かい。
「悪い、レジーナ。どうしても帰国する前にお前に害を成す存在を片づけておきたかった」
「いいえ。アンセル様が守ってくださいました」
囮にされたことへの怒りはない。おかげでリリスに立ち向かう勇気に気付くことができた。それはもうずっと自分の中にあったのだから。
抱きしめる腕に手を触れるだけで安心する。リリスのどんな言葉よりもアンセルの声が、存在がレジーナの心を動かしていた。
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