【本編完結】さよなら愚かな婚約者様。私は愛する少女と幸せになります

花房いちご

文字の大きさ
16 / 31

リリの現在と過去 1年前 破滅のはじまり②

しおりを挟む
 夜会は穏やかに進む。
 シルビアお姉様とクリスティアン殿下は一曲踊った後、国内外の要人とご挨拶し歓談していた。
 クリスティアン殿下は、ほぼシルビアお姉様に囁かれた言葉を話していただけだけど。

 お側にひかえながら『まあ、三年前よりはマシか。少なくとも喧嘩は売っていないし。多少は成長されたんだなあ』と、思っていた。
 だけど。

「あぁん!クリスティアン殿下ぁ!お探ししましたぁ!」

「殿下、今日もご立派な貴公子ぶりですな!」

「さあ、あちらで語り合いましょう!」

 いつもの取り巻きが群がり、クリスティアン殿下は彼らと合流しようとしてしまう。

「お待ちくださいクリスティアン殿下。まだご挨拶がお済みではございません」

「はっはっは!妬くなシルビアーナ!すぐお前の元に帰ってきてやるから、挨拶は適当にしておけ!」

「なっ……!」

 多数の臣下がご挨拶のため待っているというのに、この発言。流石のシルビアお姉様も動きが遅れた。
 その間にクリスティアン殿下はさっさと動いてしまった。

「皆様、申し訳ございませんが失礼します。後ほど、改めてご挨拶させてください」

 シルビアお姉様は、まずその場にいた方々に謝罪した。私も一緒に頭を下げる。
 何人かは、クリスティアン殿下の暴走を止めれなかったことを非難したり揶揄したけど、ほとんどの方はシルビアお姉様に同情的だった。
 謝罪が済み、ドレスで許される限界の速さでクリスティアン殿下を追う。
 目で追っていたし、あの集団は目立つから場所はわかる。

「シルビアーナ様、あちらです」

「ええ」

 やがて近づき、クリスティアン殿下と取り巻きたちの会話が聞こえてきた。

「ところでクリスティアン殿下、今宵は普段お会いできないような方々もいらしているとか」

「私たちのことも紹介して下さいませ!お金持ちそうな方がいいわ!」

「はっはっは。任せろ。ん?ちょうどいい所に……」

 そこにいたのは、第一王子レオナリアン殿下と、他国からの要人らしき赤髪に褐色の肌の男性だ。服装の色味は地味だが、一目でわかるほど技巧を凝らしている。
 ヒュッと、シルビアお姉様が息を呑む。私も気づいた。
 まずい!あのお方は!

「レオナリアン、そちらの方はどなたかな?ぜひ、ご挨拶させて頂きたい」

「クリスティアン、何を言って……」

 ああ、間に合わなかった。クリスティアン殿下は、レオナリアン殿下を押し退けてご挨拶してしまった。

「お初にお目にかかる。私はエデンローズ王国の第二王子クリスティア……」

「どなたかと思えば、お気の毒なクリスティアン殿ではないか」

 挨拶をさえぎって発言した赤髪の男性は、インディーア王国のアジュナ王太子殿下だった。
 三年前、クリスティアン殿下が侮辱した一人だ。シルビアお姉様が何回も『絶対に話しかけてはなりません。先方のご希望です』と、言っていたのに!

「おや?どこかでお会いしましたか?」

 アディナ王太子殿下は、憐れみの眼差しを向けた。

「インディーア王国の王太子と言えばわかるか?」

「おお!我が国最大の友好国ですな!」

 クリスティアン殿下は、アジュナ王太子殿下を侮辱したことも、出会ったことも忘れていた。
 アジュナ王太子殿下は呆れ果てた様子で息を吐く。

「レオナリアン、弟君のご病状はよろしくないようだ。実にお気の毒なことだな。……私は三年前と同じ愚を犯したく無い。適切な場所へ移して差し上げたらどうだ?」

「ああ、寛容かんように感謝する」

「は?何を言って……」

「下がれクリスティアン。これ以上騒ぎにならない内に退席せよ」

「なんだと?きさ……っ!し、シルビアーナ?」

 反論しようとするクリスティアン殿下。シルビアお姉様は、その前に歩み出て発言しました。

「レオナリアン殿下、アディナ王太子殿下、無作法をお許し下さいませ。クリスティアン殿下は、先程からご気分が優れぬご様子でした。控えの間にお送りするのが遅れた私の責任でございます」

 レオナリアン殿下は少しだけ表情を和らげました。

「ゴールドバンデッド公爵令嬢、弟への配慮に感謝する。そなたに罪はない。重ねて手数をかけるが、弟を送ってやってくれ」

「承知いたしました。それでは御前を失礼致します」

 私たちは、クリスティアン殿下を挟むようにして退席しようとした。流石のクリスティアン殿下も空気を読んだのか大人しい。
 でも。

「シルビアーナ嬢、待たれよ」

 アジュナ王太子殿下が呼びかけた。シルビアお姉様も無視するわけにはいかず、足を止めて向き直る。

「ご挨拶もなく失礼いたしました。アジュナ王太子殿下におかれましてはご機嫌麗しく……」

「いや、挨拶はいい。呼び止めてすまない。どうしても伝えたいことがあるのだ」

 アジュナ王太子殿下の茶色い瞳に熱が籠る。

「シルビアーナ嬢、以前の申し出を覚えているだろうか?私の想いは変わっていない。インディーアのアジュナは、いつでもそなたを歓迎する」

 周囲がざわめく。
 舌打ちしかけた。アジュナ殿下、シルビアお姉様を諦めてなかったのね。
 三年前に持ち上がったアジュナ殿下とシルビアお姉様の縁談は、クリスティアン殿下との婚約で無くなった。正式に縁談が申し込まれる前なのもあって公表されてなかったけど、これで明らかになってしまった。

「我が国の後宮には他国の姫も多い。エデンローズ王国は素晴らしい国だ。。だが、そなたへの扱いはいささか不適切ではないか?
 我が国には、そなたの才覚を適切に生かし愛でる準備がある。安心して私を頼って欲しい」

「っ!!このっ……!」

「クリスティアン殿下、声を荒げてはなりません。国際問題になります」

 間一髪、怒鳴ろうとしたクリスティアン殿下に囁く。歯ぎしりしながらだが、こらえてくれたようだ。
 シルビアお姉様は、何の熱も浮かべていない瞳と声で返事をした。

「過分なお言葉ありがとうございます。ですが、私の答えは変わりません。
 私は王家に忠誠を捧げております。この生命尽きるまでお仕えし、エデンローズ王国の発展に貢献することこそ、私の本望でございます」

 断られたというのに、茶色の瞳はますます熱を帯びる。

「……そなたは白百合の花のように気高く美しく、薔薇の棘より鋭く近寄り難いな。ますます気に入った。
 引き止めて悪かった。クリスティアン殿、お大事にな」

「……御前を失礼致します」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

あの日々に戻りたくない!自称聖女の義妹に夫と娘を奪われた妃は、死に戻り聖女の力で復讐を果たす

青の雀
恋愛
公爵令嬢スカーレット・ロッテンマイヤーには、前世の記憶がある。 幼いときに政略で結ばれたジェミニ王国の第1王子ロベルトと20歳の時に結婚した。 スカーレットには、7歳年下の義妹リリアーヌがいるが、なぜかリリアーヌは、ロッテンマイヤー家に来た時から聖女様を名乗っている。 ロッテンマイヤーは、代々異能を輩出している家柄で、元は王族 物語は、前世、夫に殺されたところから始まる。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

処理中です...