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リリの現在と過去 1年前 破滅のはじまり③
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クリスティアン殿下の控えの間まで、私たちは無言だった。
広間を出る直前、国王陛下の侍従と、クリスティアン殿下つきの近衛騎士たちと合流した。けど、取り巻きの中にいた侍従や側近は追ってこない。
人望の無さの現れね。まあ、あんな事をしでかす第二王子の扱いなんてそんなものか。
私はクリスティアン殿下の背後に位置し、周囲を警戒しつつその背中を睨んだ。
あの場には、クリスティアン殿下の取り巻きをはじめ多くの目撃者がいた。大きな騒動にはならなかったとはいえ、クリスティアン殿下は大恥をかいた。
正しく自業自得だけどね!接近禁止人物くらい覚えなさいよ!
クリスティアン殿下は、人の顔と名前を覚えるのが苦手だ。それは悪いことではない。
でも、あらかじめ似顔絵付きのリストを渡されている。特に接近禁止の要人については、何度も何度も覚え込むまで注意されていた。
なのに忘れていたのは、興味がないから忘れてしまったか、面倒だから手を抜いたか、勝手な解釈をして『自分にとってはどうでもいいから、覚えなくて良い』と判断したのだろう。
どこまでも、シルビアお姉様や教師たちや国王陛下の言葉や立場を軽んじているから。
やっぱりこの王子『お気の毒な方』なんかじゃない。傲慢で怠惰な馬鹿だ。
本当に、見た目と女性に手を上げないこと以外いい所がない。
「……」
だけど、流石に反省した?やけに静かだ。
私は背後にいるから後ろ姿しか見えないけど、どんな顔をしているやら。
つらつらと考えている内に、廊下を進みクリスティアン殿下の控えの間に着いた。
全員が中に入り、扉を閉める。
まずは国王陛下の侍従から、今回のことについて話があるだろう。
「クリスティアン殿下、まずはお座り下さい」
シルビアお姉様が、クリスティアン殿下に座るよう促した。
そしてクリスティアン殿下の身体の向きが変わり、その顔が私から見え……。
「シルビアーナ様!」
勝手に身体が動いた。
バキッ!という何かが壊れたような音。強烈な痛み。頭の中身が揺れる。目の前が白く染まる。何もわからない。
「リリ!」
「クリスティアン殿下!何をなさいますか!」
シルビアお姉様の悲鳴。近衛騎士たちの怒号。
「リリ!リリ!」
シルビアお姉様が私に手を伸ばす。近衛騎士が押さえてくれた。
それでいい。シルビアお姉様、近づいたら駄目。危ない。
絨毯の上にうずくまる。血が落ちた。右頬と口の中が燃えるように痛い。
だんだん意識がはっきりしてくる。
クリスティアン殿下がシルビアーナ様を殴ろうとした。私は咄嗟に二人の間に入り、シルビアお姉様の代わりに右頬を殴られたんだ。
「なんだ貴様!白髪の下民の分際で邪魔するな!」
激昂するクリスティアン殿下。近衛騎士たちが肩や腕を掴んで止める。
「離せ!シルビアーナ貴様!あの男はなんだ!浮気したのかこの淫売……!」
「なんてことをなさるのですか!」
シルビアお姉様の怒りが、声になって炸裂した。
途端、場を圧倒する。クリスティアン殿下の目が見開かれた。私も同じだ。こんなに声を荒げたシルビアお姉様は、久しぶりに見る。
私がブランカ男爵夫人に叩かれたあの時以来だ。
「わ、私は悪くない!き、貴様が浮気をしたから……!」
「お黙りなさい!アジュナ殿下に求婚はされましたが!私は明確にお断りしました!二人きりでお会いしたことも、個人的な書簡のやり取りもありません!殴られる謂れがどこにあるというのですか!」
怒声と正論、燃え盛る黄金色の瞳。あの傲慢なクリスティアン殿下もたじろいでいる。
「だ、だが……」
「貴方のお考えなど知りません!理不尽な理由でリリに手を上げ!怪我を負わせ!侮辱したのは事実!今すぐ謝罪なさい!」
「ぐっ……う……!」
クリスティアン殿下はしばらく唸って、やがて近衛騎士たちの手を振り払った。
「命令だ!触るな!私は第二王子だぞ!」
近衛騎士たちは逡巡しつつも従う。それを見て、クリスティアン殿下はいやらしく嗤う。
「謝罪だと?第二王子である私が?はっ!馬鹿馬鹿しい。たかが侍女が怪我をしただけだろう」
「……!」
シルビアお姉様が絶句したのをこれ幸いと、クリスティアン殿下は背を向けた。控えの間からどこかへ逃げる気だろう。
国王陛下の侍従と近衛騎士の何人かが後を追う。
それを目で追うシルビアお姉様の眼差し。黄金色の瞳は怒りと憎悪で燃えていた……しかしすぐに、私へと視線を移す。
「リリ!」
シルビアお姉様のドレスが絨毯に広がる。
私に覆い被さるようにして泣き濡れる。
「リリ、リリ、ああ可哀想に。お医者様のところに連れて行ってあげるからね」
「だいじょ……シル……ビ……」
ああ、笑おうとしたのに。大丈夫と伝えたかったのに。シルビアお姉様を安心させたいのに。
頬が腫れてるし、口の中を切ったから無理ね。もう少し上手くやれたらよかったのに。庇うので精一杯で情け無い。
でも、シルビアお姉様を守れてよかったなあ。嬉しいよ。
だから泣かないでよ。シルビアお姉様。
広間を出る直前、国王陛下の侍従と、クリスティアン殿下つきの近衛騎士たちと合流した。けど、取り巻きの中にいた侍従や側近は追ってこない。
人望の無さの現れね。まあ、あんな事をしでかす第二王子の扱いなんてそんなものか。
私はクリスティアン殿下の背後に位置し、周囲を警戒しつつその背中を睨んだ。
あの場には、クリスティアン殿下の取り巻きをはじめ多くの目撃者がいた。大きな騒動にはならなかったとはいえ、クリスティアン殿下は大恥をかいた。
正しく自業自得だけどね!接近禁止人物くらい覚えなさいよ!
クリスティアン殿下は、人の顔と名前を覚えるのが苦手だ。それは悪いことではない。
でも、あらかじめ似顔絵付きのリストを渡されている。特に接近禁止の要人については、何度も何度も覚え込むまで注意されていた。
なのに忘れていたのは、興味がないから忘れてしまったか、面倒だから手を抜いたか、勝手な解釈をして『自分にとってはどうでもいいから、覚えなくて良い』と判断したのだろう。
どこまでも、シルビアお姉様や教師たちや国王陛下の言葉や立場を軽んじているから。
やっぱりこの王子『お気の毒な方』なんかじゃない。傲慢で怠惰な馬鹿だ。
本当に、見た目と女性に手を上げないこと以外いい所がない。
「……」
だけど、流石に反省した?やけに静かだ。
私は背後にいるから後ろ姿しか見えないけど、どんな顔をしているやら。
つらつらと考えている内に、廊下を進みクリスティアン殿下の控えの間に着いた。
全員が中に入り、扉を閉める。
まずは国王陛下の侍従から、今回のことについて話があるだろう。
「クリスティアン殿下、まずはお座り下さい」
シルビアお姉様が、クリスティアン殿下に座るよう促した。
そしてクリスティアン殿下の身体の向きが変わり、その顔が私から見え……。
「シルビアーナ様!」
勝手に身体が動いた。
バキッ!という何かが壊れたような音。強烈な痛み。頭の中身が揺れる。目の前が白く染まる。何もわからない。
「リリ!」
「クリスティアン殿下!何をなさいますか!」
シルビアお姉様の悲鳴。近衛騎士たちの怒号。
「リリ!リリ!」
シルビアお姉様が私に手を伸ばす。近衛騎士が押さえてくれた。
それでいい。シルビアお姉様、近づいたら駄目。危ない。
絨毯の上にうずくまる。血が落ちた。右頬と口の中が燃えるように痛い。
だんだん意識がはっきりしてくる。
クリスティアン殿下がシルビアーナ様を殴ろうとした。私は咄嗟に二人の間に入り、シルビアお姉様の代わりに右頬を殴られたんだ。
「なんだ貴様!白髪の下民の分際で邪魔するな!」
激昂するクリスティアン殿下。近衛騎士たちが肩や腕を掴んで止める。
「離せ!シルビアーナ貴様!あの男はなんだ!浮気したのかこの淫売……!」
「なんてことをなさるのですか!」
シルビアお姉様の怒りが、声になって炸裂した。
途端、場を圧倒する。クリスティアン殿下の目が見開かれた。私も同じだ。こんなに声を荒げたシルビアお姉様は、久しぶりに見る。
私がブランカ男爵夫人に叩かれたあの時以来だ。
「わ、私は悪くない!き、貴様が浮気をしたから……!」
「お黙りなさい!アジュナ殿下に求婚はされましたが!私は明確にお断りしました!二人きりでお会いしたことも、個人的な書簡のやり取りもありません!殴られる謂れがどこにあるというのですか!」
怒声と正論、燃え盛る黄金色の瞳。あの傲慢なクリスティアン殿下もたじろいでいる。
「だ、だが……」
「貴方のお考えなど知りません!理不尽な理由でリリに手を上げ!怪我を負わせ!侮辱したのは事実!今すぐ謝罪なさい!」
「ぐっ……う……!」
クリスティアン殿下はしばらく唸って、やがて近衛騎士たちの手を振り払った。
「命令だ!触るな!私は第二王子だぞ!」
近衛騎士たちは逡巡しつつも従う。それを見て、クリスティアン殿下はいやらしく嗤う。
「謝罪だと?第二王子である私が?はっ!馬鹿馬鹿しい。たかが侍女が怪我をしただけだろう」
「……!」
シルビアお姉様が絶句したのをこれ幸いと、クリスティアン殿下は背を向けた。控えの間からどこかへ逃げる気だろう。
国王陛下の侍従と近衛騎士の何人かが後を追う。
それを目で追うシルビアお姉様の眼差し。黄金色の瞳は怒りと憎悪で燃えていた……しかしすぐに、私へと視線を移す。
「リリ!」
シルビアお姉様のドレスが絨毯に広がる。
私に覆い被さるようにして泣き濡れる。
「リリ、リリ、ああ可哀想に。お医者様のところに連れて行ってあげるからね」
「だいじょ……シル……ビ……」
ああ、笑おうとしたのに。大丈夫と伝えたかったのに。シルビアお姉様を安心させたいのに。
頬が腫れてるし、口の中を切ったから無理ね。もう少し上手くやれたらよかったのに。庇うので精一杯で情け無い。
でも、シルビアお姉様を守れてよかったなあ。嬉しいよ。
だから泣かないでよ。シルビアお姉様。
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