【本編完結】さよなら愚かな婚約者様。私は愛する少女と幸せになります

花房いちご

文字の大きさ
17 / 31

リリの現在と過去 1年前 破滅のはじまり③

しおりを挟む
 クリスティアン殿下の控えの間まで、私たちは無言だった。

 広間を出る直前、国王陛下の侍従と、クリスティアン殿下つきの近衛騎士たちと合流した。けど、取り巻きの中にいた侍従や側近は追ってこない。
 人望の無さの現れね。まあ、あんな事をしでかす第二王子の扱いなんてそんなものか。

 私はクリスティアン殿下の背後に位置し、周囲を警戒しつつその背中をにらんだ。

 あの場には、クリスティアン殿下の取り巻きをはじめ多くの目撃者がいた。大きな騒動にはならなかったとはいえ、クリスティアン殿下は大恥をかいた。

 正しく自業自得だけどね!接近禁止人物くらい覚えなさいよ!

 クリスティアン殿下は、人の顔と名前を覚えるのが苦手だ。それは悪いことではない。
 でも、あらかじめ似顔絵付きのリストを渡されている。特に接近禁止の要人については、何度も何度も覚え込むまで注意されていた。
 なのに忘れていたのは、興味がないから忘れてしまったか、面倒だから手を抜いたか、勝手な解釈をして『自分にとってはどうでもいいから、覚えなくて良い』と判断したのだろう。

 どこまでも、シルビアお姉様や教師たちや国王陛下の言葉や立場を軽んじているから。

 やっぱりこの王子『お気の毒な方』なんかじゃない。傲慢で怠惰な馬鹿だ。

 本当に、見た目と女性に手を上げないこと以外いい所がない。

「……」

 だけど、流石に反省した?やけに静かだ。
 私は背後にいるから後ろ姿しか見えないけど、どんな顔をしているやら。

 つらつらと考えている内に、廊下を進みクリスティアン殿下の控えの間に着いた。

 全員が中に入り、扉を閉める。

 まずは国王陛下の侍従から、今回のことについて話があるだろう。

「クリスティアン殿下、まずはお座り下さい」

 シルビアお姉様が、クリスティアン殿下に座るよう促した。
 そしてクリスティアン殿下の身体の向きが変わり、その顔が私から見え……。

「シルビアーナ様!」

 勝手に身体が動いた。
 バキッ!という何かが壊れたような音。強烈な痛み。頭の中身が揺れる。目の前が白く染まる。何もわからない。

「リリ!」

「クリスティアン殿下!何をなさいますか!」

 シルビアお姉様の悲鳴。近衛騎士たちの怒号。

「リリ!リリ!」

 シルビアお姉様が私に手を伸ばす。近衛騎士が押さえてくれた。
 それでいい。シルビアお姉様、近づいたら駄目。危ない。
 絨毯の上にうずくまる。血が落ちた。右頬と口の中が燃えるように痛い。
 だんだん意識がはっきりしてくる。

 クリスティアン殿下がシルビアーナ様を殴ろうとした。私は咄嗟に二人の間に入り、シルビアお姉様の代わりに右頬を殴られたんだ。

「なんだ貴様!白髪の下民の分際で邪魔するな!」

 激昂するクリスティアン殿下。近衛騎士たちが肩や腕を掴んで止める。

「離せ!シルビアーナ貴様!あの男はなんだ!浮気したのかこの淫売……!」

「なんてことをなさるのですか!」

 シルビアお姉様の怒りが、声になって炸裂した。
 途端、場を圧倒する。クリスティアン殿下の目が見開かれた。私も同じだ。こんなに声を荒げたシルビアお姉様は、久しぶりに見る。
 私がブランカ男爵夫人に叩かれたあの時以来だ。

「わ、私は悪くない!き、貴様が浮気をしたから……!」

「お黙りなさい!アジュナ殿下に求婚はされましたが!私は明確にお断りしました!二人きりでお会いしたことも、個人的な書簡のやり取りもありません!殴られる謂れがどこにあるというのですか!」

 怒声と正論、燃え盛る黄金色の瞳。あの傲慢ごうまんなクリスティアン殿下もたじろいでいる。

「だ、だが……」

「貴方のお考えなど知りません!理不尽な理由でリリに手を上げ!怪我を負わせ!侮辱ぶじょくしたのは事実!今すぐ謝罪なさい!」

「ぐっ……う……!」

 クリスティアン殿下はしばらくうなって、やがて近衛騎士たちの手を振り払った。

「命令だ!触るな!私は第二王子だぞ!」

 近衛騎士たちは逡巡しつつも従う。それを見て、クリスティアン殿下はいやらしくわらう。

「謝罪だと?第二王子である私が?はっ!馬鹿馬鹿しい。たかが侍女が怪我をしただけだろう」

「……!」

 シルビアお姉様が絶句したのをこれ幸いと、クリスティアン殿下は背を向けた。控えの間からどこかへ逃げる気だろう。
 国王陛下の侍従と近衛騎士の何人かが後を追う。

 それを目で追うシルビアお姉様の眼差し。黄金色の瞳は怒りと憎悪で燃えていた……しかしすぐに、私へと視線を移す。

「リリ!」

 シルビアお姉様のドレスが絨毯に広がる。
 私に覆い被さるようにして泣き濡れる。

「リリ、リリ、ああ可哀想に。お医者様のところに連れて行ってあげるからね」

「だいじょ……シル……ビ……」

 ああ、笑おうとしたのに。大丈夫と伝えたかったのに。シルビアお姉様を安心させたいのに。
 頬が腫れてるし、口の中を切ったから無理ね。もう少し上手くやれたらよかったのに。庇うので精一杯で情け無い。
 でも、シルビアお姉様を守れてよかったなあ。嬉しいよ。

 だから泣かないでよ。シルビアお姉様。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

あの日々に戻りたくない!自称聖女の義妹に夫と娘を奪われた妃は、死に戻り聖女の力で復讐を果たす

青の雀
恋愛
公爵令嬢スカーレット・ロッテンマイヤーには、前世の記憶がある。 幼いときに政略で結ばれたジェミニ王国の第1王子ロベルトと20歳の時に結婚した。 スカーレットには、7歳年下の義妹リリアーヌがいるが、なぜかリリアーヌは、ロッテンマイヤー家に来た時から聖女様を名乗っている。 ロッテンマイヤーは、代々異能を輩出している家柄で、元は王族 物語は、前世、夫に殺されたところから始まる。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

処理中です...