欲しがる妹アナベルは『ざまぁ』されたい!

花房いちご

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番外編 アナベルと出会うまでのエリック(エリック視点)

番外編3話 エリックとミシエラ(エリック視点)

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 翌朝。俺は教会に行った。神官様に会って、分割にしてもらった母の治療費を支払うためだ。

 この村の神官様は光魔法の一種である【治癒魔法ヒール】が使える。聖女の【神聖治癒魔法ホーリーヒール】ほどの威力はないというが、お陰で母は全快した。感謝している。

「エリック君、いらっしゃい」

「神官様、こんにちは。治療費を払いに来ました」

 俺を応接室に通してくれた神官様は、まだ若くひょろっとした体型の男性だ。
 柔和な顔に困惑の笑みを浮かべ、俺が差し出した治療費を受け取ろうとしない。

「もう充分頂きました。エリック君たちにはお世話になっていますし、これは君たちの生活に役立たせて下さい」

「それを言うなら、俺たちも神官様のお世話になっています。どうか受け取って下さい」

「ですが……」

「もらって頂かなくては、神官様の治療を受けにくくなります。お願いします」

「……わかりました。ではこれは、子供たちのために使います」

 困ったように笑う神官様に、俺はちょっとモヤっとした。

「神官様、俺たち以外からもしっかり治療費をもらって下さい」

「それでは皆様が暮らしていけません」

「教会と孤児院もタダでは維持できません。現に、貴方は自分の食料を子供たちに回していますね?
 否定しても無駄です。子供たちから話を聞いていますから。やめて下さい。貴方が倒れたら、この教会も孤児院もどうなるかわかりませんよ」

「た、確かにその通りですが……」

 思わずため息を吐きつつ、治療費とは別に用意していた包みを渡す。母がパンとチーズを持たせてくれたのだ。

「夕方まで子供たちの世話をします。神官様は、これを食べてゆっくりしていて下さい」

「で、ですが……」

「いいですね?」

「は、はい。しっかり食べます……」

 応接室を出て孤児院に向かいながら、俺はため息を吐いた。

 神官様は聖職者に相応しい善人だ。いつも孤児と村人のために活動しているし、俺と母さんのような新参者にも分けへだてない。俺たちが村で受け入れられたのは、神官様のとりなしがあったのも大きい。
 だが、あまりにも無欲で浮世離れし過ぎている。
 司教が【鑑定】に来ない理由もそこにあるのだろう。神官様は、駆け引きをしたり賄賂を使う発想が無い。
 というか、そもそも金がない。
 恐らく、中央から回される予算が少ないのだろう。しかも田舎なせいで、お布施もなかなか集まらない。
 先ほど言ったように、神官様の治癒魔法で稼ぐ手もある。だけど残念ながらそれも難しい。神官様は【治癒魔法】の名手ではあるが、わざわざ遠くから治療を受けに来るほどではないという。
 定期的に治療を受ける患者は村人だけだ。正規の治療費を支払わせても、充分な額が集まるかあやしい。

「頭が痛くなってきた。ただでさえ教会は、孤児院を併設してるから費用がかさむのに」

 しかも孤児たちの数も多い。
 胸糞悪いことに、わざわざ他所からこの村に捨てていく奴らがいるせいだ。
 中には、明らかに貴族の血を引いている子もいる。

「あ!エリックお兄ちゃんだ!遊びに来たの?」

 孤児院の談話室に入ると、馴染みの子供が抱きついて来た。

「おう。ミシエラ、今日も元気だな。いま何をしてたんだ?」

 ミシエラは俺より3歳年下の女の子だ。銀髪金眼で、恐ろしく整った顔をしている。
 この世界はファンタジーらしく、様々な髪色瞳の色肌の色の人々がいる。中でも銀色と金色は、高位貴族に特に多い色だそうだ。
 ミシエラの親は、高位貴族だろうと言われている。
 そんな噂があり、見た目は神々しいほどキラキラしているが、中身は明るくて好奇心いっぱいの子供だ。神官様も俺も、他の子供と変わらず接している。

「歴史の勉強だよ!お兄ちゃん、この本読める?」

「どれどれ……大丈夫そうだ。読み上げるから、文字を目で追ってくれ」

「エリック!俺も勉強したい!」

「あたしも!」

 いつも通り、年少の子供たちに勉強を教える。俺も神官様に勉強を教えてもらっているし、前世での経験がある。人に教えるのは得意な方だ。
 体育教師時代を思い出すからか、この時間だけは自分の他に転生者がいない寂しさを忘れられる。
 昼過ぎまで勉強したら、年長の子供たちと食事の準備をして帰ろう。
 頭の中で段取りをつけていた。その時だ。

「ん?教会の方が騒がしいな。叫び声か?」

 俺は子供たちに孤児院から出ないように言って、様子を見に行った。

 すぐに、教会から神官様とお隣のシシリーおばちゃんが飛び出したのが目に入る。
 二人は深刻な様子で話し合っていた。その内容を理解した瞬間、全身が総毛立った。

「神官様!アンを助けて!あの男、おかしいよ!」

「もちろんです。貴女はここに残ってエリック君の様子を……エリック君!?待ちなさい!一人で行ってはなりません!」

 気づけば俺は家に向かって走っていた。

 アンは母の名だ。母に何かあったんだ!

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